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駆け出し冒険者ですが王国一の最強パーティに招かれました。  作者: Florence Performance
第一章 冒険には先立つモノが必要である。
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プロローグ

 淡い薄雲と高くて柔らかな日差し、小鳥のさえずりさえもティータイムには丁度いいお昼下がり。

 私ことココナ・ミュールは冒険者ギルドから呼び出しを食らい、この木漏れ日あふるる坂道の麓にあるギルドホールへ急行中です。

 冒険者を始めて約二週間、先日やっと初パーティーに参加させて頂いて少しレベルが上った程度。その際に何か粗相をやらかしたのでしょうか……これでクビだ、などと言われたら泣きながら送り出してくれた両親になんと詫びればいいのか。いや、父は喜びそうですけど。


 そんなどうしようもない悪い感情ばかりがぐるぐると頭を駆け巡るなか、冒険者ギルドに到着。

いつ見ても人の出入りが激しく、様々な種族の方々が色々な武器や装備を着込んで依頼書の確認をしたり、併設された酒場のテーブルで地図を広げて作戦会議をしていたりと日が落ちても熱気と活気が落ちることはありません。

 そんなエントランスにまで出張った人混みをかき分けてなんとかカウンターに到着。とっても美人な受付のお姉さんに冒険者の証である白い陶器でできたアミュレットを見せながら


 「こ、ココナ・ミュールです。ギルドマスターからの呼び出しの伝令を聞いてきました」


 慣れない手つきだったからなのか、きょとんとした顔をしていた受付のお姉さんは若干顔を綻ばせながら


 「はい。ココナ・ミュールさんですね。確認をしてきますので、そのままお待ち下さい」


 そう言い残すとお姉さんは席を立って奥に入っていきました。……手持ち無沙汰になるとなにか落ち着かない性分なのです。

 ふと、横にある丁寧に磨かれたガラスに写った自分と目が合いました。走ってきたからか髪の毛はボサボサ、とてつもなく酷い状況です。お姉さんが笑うのも仕方がない。若干耳が熱くなるのを感じながらささっと身だしなみを整え始める小心者の私。

 十四歳という割には出るところも出ない平坦でなだらかな女性としての魅力も感じない悲しき肢体、それに安物のローブがさらに拍車をかけている気がしないでもないです。同じく冒険者になった幼なじみのミアちゃんは出るところ出てて羨ましいなと、嫉妬の念を送るもいつもスルーされて余計惨めになります。


 髪の色は特徴の掴みづらい薄い空色……よく村の男の子から白髪だのお婆ちゃんだのからかわれたのを思い出して凹んできました。さらに巻き毛気味でクリンクリンになり制御不能になるからと後ろに結ってる大きな三つ編みもあちこちにほつれが目立ち、自信がなさそうと言われる下がった目尻からは子ども臭さが抜けず、いつもため息をつきそうになるのです。


 「――ココナ・ミュールさん?」


 「ひゃいっ?!」


 突然横からお姉さんの声が聞こえ、上ずってしまう。


 「確認できました。二階の方でマスターとお客様がお待ちです。ご案内いたしますね」

 

 「は、はい!」


 お姉さんに付いて階段をあがると、何やら豪奢な装飾の施された扉の前まで案内されました。いよいよ持って不可解です。ここは階級が高い方々専用の部屋、それも金以上のアミュレットを持っている人しか使えないとのことでした。

 アミュレットには階級があって、白磁・銅・青銅・鉄・銀・金・白金の七段階があり、私は駆け出しの証である白磁です。青銅に上がって初めて一人前として認められ、功績を認められてやっと鉄で、銀まで上がれれば有名人、金に至っては百人にも満たず、白金、つまりプラチナを持つ人は両手で足りるほどしかいないと二日前に聞いたばかりなのです。それも酔っ払った先輩冒険者さんに絡まれて、というなんとも言えない事情から。


 「それではわたくしはこれで」と頭を下げて去っていく受付のお姉さん。扉の前で固まる私。ありえない組み合わせになんだなんだとざわつく階下、血の気が音を立てて引いていくような、そんな気がします。

 でも中で人が待っているのだから気後れして止まってるわけにもいきません。意を決して扉をノック。


「ココナ・ミュールです。失礼しま――」


 声をかけた瞬間ものすごい勢いで開いた扉が若干俯き気味だった額を直撃。ええ、無駄に豪奢な扉は重い上にあちこち尖ってて攻撃力抜群です。全く予想だにしてなかった扉の反逆。ゆっくりと流れるような視界に入り込む赤い液体に「あれ?これ私の血かな?」なんて考えながら意識を刈り取られる刹那、何かに体を支えられるようなそんな感覚だけが残り――闇に、落ちていきました。




※ ※ ※ ※ ※ 



 何かの話し声がゆっくりと闇の中から私を掬いあげていく。重く低く掠れた男の人の声と、凛としてるのに優しい女性の声。それに何か騒がしくて五月蝿い男の子の声と、それを諌める落ち着いた声。

 体の感覚が戻ってくるとおでこの辺りを優しく撫でるちょっと冷たい手があることに気付く。そして後頭部に何やらふにっと柔らかい感触。ゆるゆると目を開けると、目の前にはご立派な双丘。その真ん中からひょこっと現れた顔。


「――あら、気付いたみたい」


 そう言って柔らかな笑みを残す人の顔に見覚えがある。というよりこの王国に住むものなら誰もが知っている有名人。

 サラッと流れるような長く綺麗な金髪に、キリッとした眉、涼しげで吸い込まれそうな紺碧の瞳に、綺麗に一本筋の通った高い鼻、綺麗な形の薄紅の唇。透き通る様な色素の薄い肌に彩られた輪郭までもが完璧な絶世の美女。この世に存在すると言われる五大精霊様と剣の神に愛されし、王国一の「白金の冒険者」


――ルシアン・カステレード


 彼女一人で王立騎士団一個大隊と同等の戦力を有し、このエルデルト王国の救世主で、何度も魔族からの侵攻を食い止めてる名実ともなった文字通りの「英雄」です。

 ただ、今私の置かれている状況を冷静に鑑みるに、その英雄で美人で最強の存在の太ももを枕にしておでこを優しく撫でられているわけで……


「は、はひゃああああああああ!!」


 我ながら変な声を出しながら飛び起きる。色々混乱してどういう状況か飲み込めず正座のまま固まっていると、クスクス笑いながら目の前の困り顔の英雄が口を開きました。


「ごめんなさいね。そんなに扉の近くに立っているものとは思わなかったから……傷にならなくてよかったわ」


そういえばあれだけの勢いで鉄製のトゲトゲした扉が激突したらこぶの一つどころか額が割れてそうなのに……というか実際割れていたような気がするんですが痛みすらありません。


「回復魔法は不得手なのだけれど、ね」


 不得手と言っても私とは比較にならないはずなのですが………

 この前のテルドール橋防衛戦で王国騎士団が劣勢に追い込まれてたところに駆けつけて、剣を掲げて回復魔法を唱えただけで周りで瀕死の重傷を追っていた王国兵たちがまた戦えるレベルまで回復した。とかデタラメとしか思えない戦果を聞きましたが。


「姐さんが自分の力馬鹿具合を認識してねぇのがワリィんだよ。あんな勢いで開けたら下手したら階下まで吹っ飛ぶぞ」


そう発言した小柄な男の子も有名人。ボサボサの黒髪を後ろで一つ結びにして、ゲジゲジの眉にやんちゃそうなつり上がった目つき。上背はそれほどないけどしっかりと筋肉の詰まった野山を駆けずり回る悪ガキ、というのがそのまま当てはまるような、通称「盾騎士」カイト・ギムレット。

 主に味方のパーティを守ることに特化したガーディアンの発案者でもあります。


 そんな彼の言葉に眉尻を釣り上げてルシアンさんが反論しました。


「うっさいわね。まだコントロールうまくいかないの。大体こうなったのもあんたが途中で脱落したせいじゃない」


「ンだとぉ!元はといえば姐さんが殿なんて言わなきゃ――」


売り言葉に買い言葉で口喧嘩が始まりそうな刹那


「……やめないか。お客人の前だぞ」


落ち着き払った声がスパッと口論を切りました。その声の主の方に顔を向けると、優しく微笑み、


「すまないな、お客人。こちらが招いたのに不躾な真似をしてしまって」


 ――ゲオルグ・R・ロイ。

先の二人とこの方とが王国一の最強パーティ「クラルテ」の3人になります。そしてそのまとめ役的存在。

距離が掴めないほど遠くの敵を正確に撃ち抜く反則じみた弓の腕前を持つのに、それを鼻にかけることもせず、誰にでも優しくて紳士的な御仁で、エルフ族特有の精悍な顔立ちから女性人気が高いとかなんとか。

 独身である、というのもポイントが高いらしいです。先輩冒険者のお姉さま方がそう騒いでました。


そんな冒険者のみならず王国民の憧れの的である彼らが目の前に揃い踏みしている異常事態に頭が追いついていかない。


「い、いえ、その……事情が飲み込めないと言うかなんといいますか――」


「それについては俺が説明しよう」


そう口を開いたのは毛むくじゃらのワーウルフのいかついおじ様、この冒険者ギルドのギルドマスターです。


「新人冒険者特別教育令、ってのは知っているか?」


「は、はい。……青銅以上の冒険者のパーティに短期間スキルアップを目的とした新人冒険者が入る、って触れ込みの不人気政令ですよね?」


「――まぁ、最後の一言はいらないがほぼその通りだな」

 

 このエルデルト王国は魔族が魔界から出入りする『門』に隣接する立地条件からその侵攻に曝されており、王立騎士団や魔導団では大規模侵攻以外は対処が難しいため、商隊護衛や街に近づく魔獣駆除など、細やかな国民密着のお仕事を任される冒険者も貴重な戦力として一翼を担っています。

 さらには最近魔族の動きが活発で突発的な都市防衛などのお仕事も急激に増えたため、冒険者が犠牲になりやすくなっていて、ベテランと言われる鉄以上の冒険者も年々減少しているというジリ貧の状況が続いています。……私みたいに剣を振るうほどの体力がなく運動音痴でも魔法の心得さえあれば簡単に冒険者になれるほど逼迫した状況だといえばわかりやすいでしょうか。


 全体的に冒険者の数も質も下がっているというこの王国特有の問題を解決するためにと王室と冒険者ギルドが連名で出したのが、新人とベテランの差を短期間で埋めて、一人前の冒険者を沢山排出することを目標とした『新人冒険者特別教育令』になります。

 ところが新人教育とは聞こえは良いものの、パーティの生存率が低くなるのもあって青銅・鉄主体のパーティからは忌諱されていて、現状は銀以上の大御所パーティが自発的に育てている程度だとか。冒険者たちに余裕があまりないのも政令に対する反応の薄さに繋がっているとも言えると思います。


「その政令と私に何の関係があるんでしょうか……」


 なんとなく察してるけど!なんとなくどころか凄く嫌な予感がするんだけど!私の!心は!!否定を表明します!!!


「その政令に則ってクラルテに招かれたのが、お前さんってことだ」


 淡い期待はあっさり一言で砕かれました。背中に嫌な感じの汗が流れまくっているような感覚に私の心も砕け散りそうです。ルシアンさんを見ると、笑顔で手を振られました。カイトさんを見ました、目も合わせてくれません。ゲオルグさんを見ました、優しい顔で頷かれました。

 多勢に無勢です。否定すら許されないこの空気は一体なんなのでしょうか。


「まぁ、王国一のパーティに招かれるなんざまずありえないことだと思っているだろうが、他と比べても死ぬ確率は低いからおすすめするぞ。」

 

 と、素直な感想を述べるギルドマスター。


「――特に、クレリックのお前さんなら尚更だ」


 クレリック――主にパーティの治癒や聖霊様の加護の強化をする職業で、青の精霊様の加護を特に強く受けないとなれず、たまたまその適性があった私は他を選ぶことも許されず半ば強制的にならされました。

 と言うのもクレリックはその性質上魔獣や魔族に目の敵にされるので非常に死傷率が高いという危険な割に重要なポジションと責任だけがやたらと重い不遇職なだけあってなり手が少なく、かつ前述の死傷率のせいで銀以上に上がれる人のほうが稀だそうで……故に政令ではクレリック優先、と定められています。


「で、でも――」


 ――私なんかが、王国一のパーティに加わってよいのでしょうか。

お世辞にも、要領が良いとは言えません。回復魔法だって、初期の初期しか使えません。家事全般は得意だけど、自信はありません。冒険者にだって周りに流されるようにしてなったようなものだし、クレリックになったのだって断りきれなかった気の弱さからくるものです。

すぐに凹むし、今みたいに良い方向に考えられなくなったらとことん後ろを見てしまうような性格です。そう考えて、私のいいところなんて全く無いのに気付き、惨めになってきました。私は、確実にお荷物になってしまう。沢山の人を救うために使えるクラルテの皆さんの力を無駄に割いてしまうことにものすごい罪悪感を感じてしまいます。――私には、そんな資格も素養もありません。

 断って、帰ろう。そう決めて、キュッと手に力を入れて前を向いたら――ルシアンさんの顔が、目の前にありました。私の精一杯の強気を示す拳を手にとって、それを両の手で包んで


「大丈夫。どんなことがあっても、あたしは貴女を守ってみせる。このルシアン・カステレードが、白金のアミュレットに誓って」


 強くて、眩しくて、自信に満ち溢れる言葉。私より少し体温の低い手に力を込めて、目の前の優しい笑顔の彼女はこう続けました。


「――だから、あたしたちと、パーティを組んでくれないかしら」




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