第7話
2人のくだらない争いに、嫌になりながら膝の上から逃げ出せず、羞恥に塗れながら何て不幸なんだろうと思ってます。先ほどはグレーザー殿下の膝の上にいましたが、今はグリンゴール陛下の上です。
誰か助けてくれないかなあ〜と思ってますが、興味はあるようですが、誰も2人の不毛な争いを見ようとせず視線を逸らしてます。巻き込まれて不興は買いたくないでしょうね。
私だって巻き込まれたくなかったですよ!仕方ないわ!最後の手段効くかな?
「あの〜、お花摘みに行きたいのですが……ダメですか?」
逃げ出すのにこの方法しか思いつきません。責めてひと息吐かせてください。周りの人に気の毒で、何でこんな事になったの〜。
「「……分かった」」
やりたくない技を使ったのが効きました。勇者の元旦那から逃げる時に良く使った手です。2人きりの時は、グリグリされても許してたけれど、人前では嫌だったので、思いっ切りおっぱいを、むにょ〜って寄せて顔の側に近付けると、隙ができて割と離れる事が出来ました。
「……」
ちょっぴり、男なんて〜、と思った事は口に出しませんでした。素早く会場から出てひと息つきました。
「……戻りたくない。野獣(殿下と陛下の、叔父甥コンビ)のジャングルか、魔獣(王族、貴族のお嬢様)の群れかってとこに。元村人にはハードル高いよ〜」
逃げ出したはいいがどうしよう?あの2人の元に戻って視線に晒される……嫌だ。
「きゃ!冷たい!」
冷たい何かが、私に飛んできました。振り返ると魔獣…違った、貴族のお嬢様です。綺麗な人達の群れに取り囲まれました。野獣コンビから逃れたと思ったら、魔獣並みに恐ろしい令嬢達です。貴族の令嬢達は血筋とプライドの塊だと聞いた事があります。
私が勤めさせてもらったお嬢様は、優良物件の素晴らしい令嬢でしたが、勉強熱心で身分の低い私にも優しい人でした。もちろん婚約者の侯爵様も素晴らしい人でした。そのお嬢様と雰囲気が違います。何と言うか…肉食獣の匂いと言うか……雰囲気が見るからに狩ってあげましょう!って感じなんです。
「おーほっほっほっ!その姿が似合ってますわ。平民の癖に生意気な女ですわ」
高笑いと赤い口紅が良く似合う……食い殺されそうな感じがします。ドレスもリボンも真紅のドリル髪で金髪の煌びやかな令嬢その1です。
「普通の取り柄もなさそうな女が、どんな手を使いましたの?知りたいですわ」
お澄まし顔で、目のつり上がった狐顔の冷たい眼差しを向けてきます、令嬢その2。
「卑しい女が、グレーザー殿下に言い寄るなんて許されない事ですわ」
令嬢の取り巻きらしい小物な感じがしますが、見るからに実行犯要素満載の令嬢その3です。
「グリンゴール陛下にまで!怪しい術でも使ったのでしょう!」
取り巻き令嬢その4さんに怒鳴られてしまいました。前世から友達に言い寄る男の取り合いを横目で見てましたが、自分がその相手にされるのはこんなに大変だとは思いませんでした。
友達は美人でしたが、全く知らない女の子に始終文句を言われ壁壁してましたよ。口癖が男なんて嫌いよでしたから。
私も慰めてましたが、今なら彼女の気持ちがわかりますね。好きな人ならいざ知らず、何とも思ってない人に思われても、迷惑にしかならないよね〜と。
「聞いているの!答えなさい!」
黄昏てた私に、魔獣…いえ、お嬢様が言いがかりを付けてきました。全員に睨まれてます。私に構うより、あの野獣達をどうにかしてください。謹しんで提供させてもらいます。
「お願いします!私を逃してください!お嬢様の言う通り、私は殿下に相応しくありません!」
お嬢様達に一生懸命に訴てみました。残念ですが、野獣の地位もお金も興味はありませんので!
お嬢様達の胸……いいえ、お知り合いのでかい方にお願いして、野獣の興味を、その令嬢に移して頂けると助かります。
「おーほっほっほっー!分かればいいのよ、2度と戻って来ないでちょうだい」
1番偉い令嬢その1のお嬢様に信じてもらえました。とにかく言われる様に、2度と戻りたくありません。
「はい、分かりました」
素早く返事をすると皆さん笑顔になりました。ここに居ても碌な事なさそうですので、お暇させて頂きます。
お嬢様達に見送られて、メイドの後を付いていきます。このままの衣装だと見つかりそうなので、メイドの衣装を借りれればいいのだけど。
「あの〜、お願いがあるのですが、メイドの服これと変えてもらえませんか?」
「無理です。服は、王宮で管理されています。紛失すれば、直ぐその届けを出さなくてはいけない決まりです」
そ、そうなのね〜。スパイ対策?それとも暗殺者って所なのね。怖いとこだわ王宮は。
「無理なのね。どうしよう?」
このフリフリの、私の趣味でないドレスでいたくないのに。
「そもそも、サイズがありません。……あ!1つだけ心当たりがあります」
良かった〜!万能メイドさんだよ。私が着れるのがあるらしいわ。
「本当!良かった〜!」
私に運が向いてきた!逃げ出してやるわ!野獣共!さらば!映画のセリフみたいに決まった。心の中で絶叫しながら笑いをこぼしてました。ふふふ、笑いがこみ上げてくるわ。
「失礼ですが、私はそこには行きませんよ。給仕の最中です、お嬢様に頼まれましたが、暴露ると私が罪人になりますから」
そう言ったメイドが、置いてある場所と出入り口を教えてくれました。ここまで、教えてもらいましたので、言う事ありません。貴族の怖いお嬢様に無理やり頼まれたのですから。あの視線怖かったですね〜。どうにかしなさい!お前がって顔。でも、誰にも私が逃げた罪を被せるのは嫌ですから助かります。
「ありがとうございます。後はなんとかします」
「……でも、幽霊の噂があるけど、知らない方がいいよね。私は、掃除を頼まれるけど見た事ないから」
1番奥の部屋に、何故か昔のメイド服が2着だけあるらしい。掃除をしていて見つけたらしい。私には凄く助かる情報です。先を急いでいた私は、メイドさんが最後に零した呟きを聞き損ねました。聞いていれば、もう少し考えてこんな事にならなかったのに〜!と後悔する事に気付きませんでした。
知り合いに不幸がありまして更新が来週になりそうです。




