崩れ去った街 side.D
この小説はこれより、大まかには2人の主人公による視点の切り替わりによってストーリーが進みます。
「うわっ!………あ、あ?」
今し方、目の前で巨大な火の玉が飛んできた気が、するんだが。俺は防御陣の展開は苦手だから、避けようとして。
でも足元には切り捨てたニファーナ兵の死体があって、其れにつまづいて、かわせなくて、死を、(英雄とよばれても死に様はこんなものなのかと思いながらも)覚悟したのだが。
「……なんじゃこりゃ」
俺の目の前に広がるのは、崩れ風化し、原型はないけれど、間違いなく『それ』だとわかる物が幾つも幾つも在る。
「なんで、ビルが?」
*****
戦場の喧騒が、耳に響く。セカイが空虚な物にしか思えない俺には、戦場が唯一と言っていい俺の在るべき場所だと思う。今だって、この鼓動の高鳴りが心地よくさえ感じられるのだから。
「団長。あちらの隊からの連絡です」
兜で頭部を守っているため、彼の表情は見えないが、今伝令にきた彼も、きっと気分が高鳴っているに違いない。
「ああ。話せ」
「はっ。戦列を整えたのち、花火2発で突撃せよ、とのことです」
そういって彼の持ち場に戻っていく。
思えば久しぶりの大戦。先鋒部隊にふさわしい働きをしなければならないだろう。それは国のためなどではなく、俺自身の為に。
「団長? いかがなされました?」
今回の副隊長がそう尋ねる。何かおかしなところがあったのだろうか。
「いや……なんでもない。久々の大戦だからな。気分が高揚しているのだと思うよ」
そう言うと、副隊長が膝を叩いて破顔する。そんなにか?
見ると、他の連中もそのようだ。
「いやはや、確かに。聞けば今回一連の戦でドレイクとかいう猛者が現れたとか。やはり実戦には何物も及ばざるとはよく言った物ですな」
「ドレイク? ふぅん……」
正直なところ、そんなものに興味はない。きっと一時間もすれば忘れる知識だ。
*****
ボン、ボン!
花火の音と共に、主に傭兵団のメンバーで構成された部隊が突撃する。
幾度もの戦を経験して、大火力で無双するのに飽きていた俺は、馬には乗れないので身体強化の魔法だけ使って敵陣に切り込む、いわゆる『いつもの』のスタイルで戦場に繰り出した。
慢心、と言われればおそらく慢心だろう。
俺はそのまま、30人ほど連続で斬り殺し、ああまたかと一人で萎えていたところに件の大火球が飛んできて、無様に死んだのだ。
*****
……と、思っていたが……違うのかな?
いや、微かだが皮膚の焼ける感触があった気が……しないでもない。
「まず、この状況はなんなんだ」
そうだ。死んだと仮定しても、そうでないにしても、このビルのあるような場所に俺が今いることが分からない。
周りを見渡せば、崩れて一体どれだけあったのか分からないほど時間が経過して、ツタが絡み放題になっているビル群と、ひび割れたアスファルトと思しき地面。
妙に青い空には、雲ひとつ無い。
そして、後ろを振り返ると。
黒い箱があった。
ここまで辛抱強く読んで下さり、感謝いたします。
次から、第1章の本格スタートとなります。