1年前
読んでくださった方に満足いただけるような、邪道を心掛けます。
元は何があったのだろう。何のための建造物なのだろう。
何度目になるのか分からない疑問を抱いたまま、巨大かつ圧倒的な光量で夜闇を照らす謎の星(おそらくこの星は月ではないかとレオンは推測している)をバックに、レオンはある種異常とまで言える程に整備の施された道を歩いていた。
(どうやっても俺らの常識の外だな)
そんなことを思わざるを得ない。そもそも、レオンは元々は小国、グラン王国の一農民であったにすぎない。単なる農業国である祖国ではこの光景は絶対に見ることができないであろう。
地面を平らに固めて、脚への負担を恐らくは最小限にまでし、その道の周りに窓のような、完璧なまでに四角形である物(しかもそれが百や二百どころではなくそれこそ千近い数の)があったり。
生まれ育った村では見ることはできなかった光景が、あの日を境に、当然の背景と化してしまった。
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それは、突然だった。
あの日の天気は、燃えるように太陽が腫れていた。
変だとは思ったが、しかしだからと言って日々の畑仕事を怠ることはできなかったレオンは、いつも通りの仕事をしていた。
やはりと言うべきか、汗の量は尋常ではなく、じきにに立っていることさえも辛くなり始めた。
眩暈と、頭痛と、少しばかりの吐き気。
決して楽とは言えない暮らしの中に身を置いていて、一度の休みがどんなことを引き起こしていくのか。そんなことは経験的にも歴史的にも分かりきっている。
休むわけにはいかない。だが、流石に。
そうやって近くの小屋が作った日陰にほんの数分だけ、と自分に言い訳して腰を下ろす。
心臓の鼓動が、今にも胸を突き破らんばかりに早鐘を鳴らしていた。
「はぁ、はぁ」
これは一体どういうことだ。変、なんて言葉で表せるような生易しいおかしさではない。
確かにこの地域は夏暑いことで有名だけれど、それにしたって今日ほどのことは。
しばらく経って、拍動はようやくおさまった。ほ、と一息ついて立ち上がると、まだ太陽はギラギラと燃えていた。
日陰から出れば、ものの数秒で汗がぶり返し出す。
……この中で作業するのは、無理そうだ。
もうこうなったら仕方がない。今日は休耕日だ。
そう結論付けて、急ぎ農耕具を片付けにかかる。
畑の中央に置き去りにしたままだった鍬やら、畑のそばに置いていた台車やらをもって妻と二人の子が待つ家へ駆け足で戻るのだ。
こんなおかしな日は、苦手な内職でもしたほうがまだマシだ。
そのとき。
世界がぐらりと揺れたような感覚と、頭の先からつま先まで、汗が滝のように流れた感覚。そして、殴られときのようなかすかな血の匂いを感じた。
まずい。
経験ではなく、本能で。
死ぬ、そう感じる前に、レオンは意識から手を離した。