古代文明 1
「気が遠くなるほどの昔……魔法がなくても発達した世界があったっていう話は、聞いたことあるだろう?」
そういった話はよく聞くけれど。でもあれは……
「伝説ですよね? 何千年も前に文明があって、しかもそれが今の世界より発展していただなんて」
私の応答に応えるように比良隊長は笑って、上を見上げた。それにつられて空を見上げると、当然かも知れないけれど、美しい星の輝きが目に落ちた。
たしかに伝説かも知れないね、そういった隊長の右手には、一部の資料が握られていた。
「それは?」
隊長は突拍子もなくこんな話をする人ではない。だとすれば、その資料には伝説にまつわる何かが有るのだろうと、私は直感した。
「巨人族との交渉結果さ。前々から、彼らとの文化交流の為に国が色々やってたのは知ってるだろ? これは、その第24回会議の報告書だよ」
「その話なら聞いたことはありますけど、そんなに何回も会議してたんですね……はっきり言って、知りませんでした」
はは、と苦笑気味に隊長は笑った。
「隊長格以上の人間にしか巨人族との会議の進捗状況は知らされていないからね。樽野くんが知らないのもある意味、かんこう令がよく行き渡っているという証拠になるんじゃないかな」
隊長は星を見たまま、そばのベンチに座った。今日は満月ではないから、あのうさぎのような模様が見れなくて残念だと思うのは、私だけなのだろうか。
まぁ、そんな呑気なことを言ってられないようなことを隊長は口にしたからそんなのはどうでもいいけれど。
「かんこう令って……私なんかに話していいんですか? そんなこと」
「いいんだ。遅かれ早かれ、全国民が知ることになるだろうからね。でも、あまり言いふらしてくれると困るけどさ」
そんなことはしないけど。でも、一番聞きたいことはそれじゃない。
「その巨人族の話と、伝説と。なんの関係があるってんですか? よくわからないんですが」
ふと、隊長の笑顔が消えた。彼の笑顔じゃない顔は、どうも胡散臭い。それを隠す為にいつも笑ってるんだろうけど。そんないつも心がけていることを忘れるほどに、大事な何かが、その報告書にあるというのか。
「実は刀剣隊のトップ連中は、きっかり6の倍数の時しか会議に参加しちゃいけないっていうよくわからないルールがあるんだけどさ」
なんだそのルールは。たしかに戦力だけなら近衛隊もあるから十分かも知れないが。
「それで、今回は24回目でしょ? だから、僕ら7人も行ったんだよね。僕らとしては4回目なんだけど」
7人?
刀剣隊は、8隊あるから、トップももちろん8人であるのだが。
「ああ、山蔵は休んだんだよ。すごく行きたがってたのに、ちょうどタチの悪い風邪をひいたみたいでね。……それはともかく、ここからさ。僕がかんこう令って面倒なものを破って君のような一般隊士にまでつい喋りたくなるような話は」
ふと、風が吹いた。きっと、隊長の風魔法だろう。音を遮断する壁を作ったんだと思う。
「……なんですか、一体?」
隊長は手元の報告書に目を落としながら、呆然としたかのようにこう言ったのだ。
「数千年前の文明を作っていたのは、彼ら巨人族だった可能性がある」