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Unity  作者: aula
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第五話 初陣

 格納庫へ向かったアレンはウェリテスへ乗り込んでいた。ウェリテスのメインシステムを起動し発進準備を整える。アレンの指先が踊る様にタッチパネル上のキーボードを叩く。

 画面にウェリテスの正面図が表示される。各部位から引き出し線が伸びており、正面図の左右で不規則に並ぶウィンドウへ繋がっている。ウィンドウには各部位の状態などが書かれており、文字が流れる様に下へスクロールする。

 ウェリテスの背部には、オプションでブースターが取り付けられていた。通常のスラスターより一回り大きく、円形の内側からノズルが顔を出している。これにより宇宙空間において高い機動性を得られる。

 アレンはアタッシュケースを開きコクピットのインターフェースへ接続した。銀色のアタッシュケースは内部にコンソールとディスプレイを備えていた。ディスプレイには“cherubim-system combat support”と表示されている。

(宇宙戦仕様で…マシンガンと160mm砲、ハリオンナイフか…)

各部状態と仕様を確認した後、アレンは武装一覧に目を通す。今回はただの殲滅戦ではなく時間制限がある。アレンは適した戦術を組むために思考を巡らせた。

装備を確認し終えたところで、ディスプレイはcompleteの文字に切り替わっていた。



 巨大な岩石を引きずるような音と共に船体が激しく揺れた。敵が攻撃してきたのだ。直撃はしていないが、ただの貨物船には掠っただけでもダメージとなる。

「アレンさん。隊長機は中口径エーテルライフル装備。内二機は通常のB型装備と索敵仕様です」

コクピットに通信が入り、ティアの顔がモニターに表示される。

「ヤヌス三機がかなり迫って来ています。直ちに発進してください」

ティアは淡々とそう告げた。彼女は組織の中でも一、二を争う優秀な情報分析官だ。地球に降りた後は、オペレーターとして従事する予定となっている。恐らく自ら買って出たのだろう。これまでの訓練や任務でティアにオペレーターを務めてもらう事が殆どだった。そのため、アレンとしてもそちらの方が戦い易かった。



「アレン! 」

エドワードから割り込んで通信が入った。

「蜜蜂は敵の『目と耳』を塞ぐので精一杯だ」

つまり煙幕と通信かく乱を打ち込んだという事だ。それはかなり助かる。ケルビムによる戦闘は目撃されると都合が悪い。

「十分です。『タウ』! 160mm砲で殲滅する」

アタッシュケースのディスプレイが、青色を基調とした画面に切り替わる。

「ええ、仰せのままに」

落ち着いた気品のある声色で、アタッシュケースが喋る。ロボットが喋る様な独特のイントネーションは無く、ほぼ人間が喋っているのと変わらなかった。

「他の奴らが気づく前に片づけよう」

「はい。恐らく妹達の出番は無いでしょう」

 アレンは鼻から大きく息を吸い込み、ゆっくり口から吐き出した。

「ウェリテス、発進! 」

スラスターが点火し、アレンの乗るウェリテスは宇宙空間へ飛び出した。



 隊長機と僚機のヤヌス一機を確認する。索敵型は離れた位置にいるのか。煙幕により蜜蜂はぎりぎり敵の射程から逃れられている。この距離をこれ以上縮める訳にはいかない。出来るだけ蜜蜂から離れた位置で戦闘を行うため、こちらも敵へ向かって進む。

 アレンのウェリテスを捉えると敵の僚機は離れ、隊長機のみがこちらに向かってきた。

 一人で十分だと判断したのだろう。僚機の狙いは蜜蜂か。あの隊長は戦い慣れしているが自分の経験に大きく頼る。ウェリテスと同等のヤヌスで一対一の戦闘を仕掛けてくる。その戦況判断の早さからアレンは予想した。



 人類が初めて開発に成功したPMW、それが連邦の「ヤヌス」だ。現行のヤヌスは初期型に比べれば、かなり改良が加えられている。

 初めてヤヌスが歩行した際に開発者は「人類が初めて月に、地球以外の天体に降り立ち、刻んだ一歩以来の偉大な飛躍だ」と話した。ヤヌスという名前は、扉や始まりを司るローマ神話の神から名づけられた。後を追うように帝国もPMWを実用化させた。それがウェリテスだった。しかし帝国は連邦に大きく出遅れており、既に連邦は二体目のPMWを開発していた。更に特殊な環境に対応するPMWを研究するなど、目まぐるしい早さで連邦のPMWは進歩していった。

 出遅れた帝国には連邦のPMWに対抗する唯一のものがあった。PMW開発がされる前に世界各地で大規模な地震が頻発した。その様な中、帝国領である地中海の海底から現存する鉱物のどれとも一致しない、未知の鉱物が発掘された。

その鉱物は発見者ジャック・ハリオンに因んで「ハリオン鉱石」と名付けられた。

 ハリオン鉱石の特性はまだ未解明の部分が多く残っているが、まず明らかになったのは優れた強度と硬度を持つ事だった。帝国は兵器へ転用し、PMWの装甲や武装に使用している。採掘量は決して豊富な訳ではなく、機体によりハリオン鉱石の使用量は異なる。

 帝国と連邦のPMWで差別化を図るならば、帝国製は装甲が頑丈であり実弾による兵器が主である。

 また、帝国は作戦に合わせてPMWの外装を交換して運用する。この外装は人間が着用する甲冑の様なものだ。今アレンが乗るウェリテスを例に取れば、背部のブースターパックと各所に取り付けられた銀色の装甲が外装に当たり、「宇宙戦パック」と呼ばれる。そして、外装を身に着けていないウェリテスそのものを「基本フレーム」と帝国は呼称している。



 漂うデブリの隙間を縫うようにウェリテスは敵へ向かう。そして右肩に乗せた160mm砲の狙いを隊長機に合わせる。

 それを確認した敵は速度を落とすことなく、即座にこちらへ攻撃してきた。橙色に発光するエーテル粒子が雷の如くウェリテスへ迫ってくる。

(この動き…偵察が本職じゃないだろ)

敵の反応速度にアレンは肝を冷やした。こちらの攻撃でケルビムを最大限生かすためにも、被弾することは決してできない。

「タウ! 」

明確な指示を出す暇は無い。それでもタウは意図を解し即座に動く。ウェリテスは半身を捻りエーテル粒子を寸での所でかわす。それと同時にアレンはトリガーを引いた。

 意表を突かれた敵は回避行動に移ることは叶わなかった。減速する間もなく放たれた砲弾は隊長機に直撃し、爆発と共に宙域を漂うデブリの一つとなった。



「…右腕がいかれたか」

ライフルを持つ右腕の関節部から火花が散っていた。ギアが噛み合っていない様なカクカクとした動きをしている。

 一般的な人形にあの様な回避行動は不可能だ。ケルビムシステムによる、高度な姿勢制御、射撃管制により可能となる。

 本来機体は各部位への負荷を考慮し、出力及び可動範囲などを戦闘支援システムにより制限している。当然ながら設計は実際の負荷に対し余裕を持たせた定格を設ける。ケルビムはそれら制限を解除し、高度な演算処理により定格限界まで機体のポテンシャルを引き出す。出力を約三〇パーセント向上させる事が可能だ。



 しかしケルビムによって、人形がより人間に近い動きが可能となっても機体自体の限界は前述の理由により存在する。そのためケルビムシステムの多用は機体の寿命を縮める。

 両手で構え射撃姿勢を取りながら使用する160mm砲を、片腕で支え無茶な回避姿勢から撃ったのだ。機体に掛かる負荷は相当であったろう。

哨戒の部隊だと侮った。あの隊長…。もしヤヌスではなく実力に見合う機体を駆っていたら、作戦の成功確率は極端に下がっていただろう。

「蜜蜂に向かった敵を落とす。索敵型は隠れているのか…」

アレンは気を引き締めるつもりで、もう一度大きく深呼吸をした。ライフルを左腕に持ち替える。そして旋回し、急ぎ蜜蜂に向かった敵を追いかけた。



 蜜蜂へ向かった敵機の足を止める事は容易だった。一瞬で撃墜された隊長機を見て、冷静さを欠いている事が見て取れた。問題は何処にいるか分からないもう一機だった。

 敵の索敵範囲はこちらの比ではない。おまけにステルス機能により、近づいたところで知らない内に逃げられるか、不意打ちを食らうかの何れかだ。ならば敵自らに居場所を報せてもらおうか。

 本来の用途は救難信号用であるビーコンをケルビムシステムにより、信号パターンを書き換える。これをヤヌスに取り付ければ、敵のレーダー上では帝国軍に見える。コクピットが無傷なら、ヤヌスの制御をハッキングし生き餌として利用出来るのだが。



 ウェリテスがビーコンを取りつけられたヤヌスを蹴り飛ばす。ルアーはデブリへ真っ直ぐ突っ込んで行った。

「タウ、外すなよ」

「大まかな場所は予想出来ますが…。この子あまり目が良くなくて」


 敵の予測範囲を捕捉出来る場所にアレンは陣取った。元は戦艦だったのだろうか。楕円形の大きいデブリはウェリテスの身を隠せる程の空間がある。デブリに銃身を乗せ、使い物にならない右腕の代用とした。

(食いつかないか…)

ウェリテスは射撃体勢のまま、デブリの宙域を睨んでいた。その時デブリの中から発光が見えた。予想外に餌の進む方向はかなり的を得ていたようだ。

「捉えました! 」

タウの声を聞いたと同時に、トリガーを引いた。砲弾は索敵仕様のヤヌスを撃ちぬき爆発と共に散った。



「戦闘終了―― 」

「よくやった」とエドワードから通信が入る。ウェリテスは旋回し蜜蜂へ向かう。アレンはヘルメットを脱ぎ、煙草を取り出して口へ咥えた。

「タウ、お疲れ様。蜜蜂まで送ってくれ」

「はい、お疲れ様でした。この後はゆっくりしてください」

ティアから帰艦のオペレートを聞きながらフリント式のライターで火を点ける。ケルビムシステムによる自動操縦でウェリテスは、蜜蜂へと帰って行った。


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