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神様がおれ  作者: 新手
後編 下界降誕
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第九話 サブマスターとお国事情

「私が植木職人ギルドのサブマスター、ダーノ・ナーガリアンなのじゃ」


 ここはギルドの応接室らしき一室。

 事務的な組織のためか豪奢さは一切なく、実務的な作りの部屋。

 やや硬めのソファーに腰掛けて待っていると、唐突に扉が開け放たれ――。

 平坦な胸を張って、銀髪耳長娘が現れた。


 ……うん。

 ダーノはどう見ても、おれと同い年くらいしか見えない。

 背もやや低いほど。

 蒼い眼もややつり目がちではあるものの、かわいらしいお嬢さんではある。

 肩より伸びた長い銀髪で顔の左半分を隠しているのが、ちょっとアンニョイな感じ。

 で、あるが「サブマスター」を名乗るほどの人物にふさわしい容姿年齢とは思えない。


 しかし、おれの目はごまかせないのだ。

 剪定拳の使い手として研鑽した結果、魔力感知の技などとっくに修得している。

 この少女の身から発せられる魔力量は、ただものではない。

 軽くおれの二倍、へたすれば三倍あるだろうか。

 魔力量は魔法の習熟と共に増していくというが、ここまでの量となると並大抵のものではないはずだ。

 現におれと父ちゃんの魔力差は、もうさほどの開きはない。

 おれは父ちゃんの丹羽剪定拳に加え、瓶割剪定拳をも修得しつつあるため、将来的には父ちゃんの魔力を越えるだろう。

 ……まあ、使い方でまだまだ全然負けてるんですけどね。ぐっすん。


 ならば、この少女は見た目通りの年齢ではないだろう。

 業界用語でいうところの、ロリババアに違いない。

 のじゃとか語尾につけてるし。


「ほう? 小僧、良い目をしておるの。ユカーリとカッツオの子かえ?」


 意識せず観察していると、ダーノから声を掛けられた。


「おう、息子のヒザに乗ってるのも含めて正真正銘おれの子よ」


 父ちゃんに肩をバシンと叩かれる。

 ちょ、いてえよ。力入れすぎっすよ。


「イチーロ・ハナーザです。こっちはロージー」

「おーばーあー」


 おれの挨拶にあわせて、ヒザ上のロージーも挨拶? する。

 けしてババアと相手に呼びかけているわけではないはずだ。けして。


『え?』


 えっ?


「イチーロ、このチビっ子はチビだがただのチビっ子ではないぞ」


 父ちゃんがそう言って、ダーノさんを無遠慮に指さす。

 若干にイヤそうな顔でにらまれているが、ものともしない。

 さすが父ちゃん。


「これでもダーノは三十二歳なんだ」


「中途半端にリアルな年齢だなっ!?」


 もっとこう何百歳、何千歳って感じじゃねえのっ?

 これじゃあ年齢的に父ちゃん母ちゃんと同年代だよ。

 魔力がおれの二倍か三倍くらいって、そのまま年齢を重ねた年月分じゃねーか。

 ……でも、よく考えると耳長族をそこまで長命の種族にしたつもりないし当たり前か。

 まあ、それは置いておいても「のじゃ」ってのはなんだったんだよ、のじゃって。

 キャラ付けなの?


「なぁにが中途半端じゃ。このガキめ」


 ダーノはハアとため息をつくと、


「まったく親子そろって失礼な連中じゃ。ほんにこんな調子で大丈夫なのかの。――まだ早いのではないか、ユカーリ」


 一瞬、

 ダーノの目が鋭く光る。


「一見おマヌケだけど、カレンお嬢様への情愛は本物よ。ここで打ち明けなかったら何しでかすかわからないくらいにね」


 母ちゃんは肩をすくめてそう答える。

 何度も家出の前科あるからな、おれ。ごめんなさい。


 そして、カレンお嬢様……。

 そうだ。

 オレはそのためにここに来たのだ。

 なにやら明らかな陰謀っぽいものに巻き込まれているお嬢様を、オレの手で救い出さねばならんのだ。

 これはおれの宿命なのだ。


『本当にカレンお嬢様好きですよね、兄さん。その愛を妹にも少し向けてください』


 ぶーぶーと文句を言うロージー。

 すまんな。今のおれには余裕がないのだ。

 カレンお嬢様を無事お救いしたあかつきには、ふたりでたっぷり愛でてやる。

 覚悟しておけい。


『期待して待ってます』


 うむうむ。


「ふーむ。どうにも意識が散漫で不安が残るが……まあユカーリがそう言うならよかろう」


 うろんげな目でおれを見やるダーノ。

 ロージーとの心の会話は、当たり前だがおれにしか聞こえない。

 ダーノには、ただおれがぼんやりしていたように見えたのだろう。

 まあ仕方ないね。仕様です。


「では教えよう、植木職人ギルドの真実を。――そしてエルフの子らの悲劇を」


 ダーノは一度目を伏せ。

 おごそかに、語り始めた





     ▽


 ――メリケン帝国。

 それは耳長族を中心とするリケン王国が前身であった。


 その昔、リケン王国は魔物の集団に王都を襲われ、存亡の危機に瀕した。

 魔物は人の死骸から生まれ、その骨格だけで動く様からリビングデッド、もしくはスケルトンと呼ばれた。

 中でも強い魔力を帯びた個体は『キング』と名付けられ、人々を恐怖のどん底に追い落としたという。

 国民であれば誰もが知る、骸骨戦争と呼ばれる戦いがこれである。


 そこで立ち上がったのが、当時は耳長族の奴隷階級に過ぎなかった耳短族の英雄だった。

 名をミミタン。

 奴隷階級にあった耳短族は個人の名前どころかその種族名すらなく、後にこの英雄の名がそのまま種族名となった。


 伝説では彼が古き神々より啓示を受け、その名を授かったという。

 そして神から伝えられた祭詞を使い、見事スケルトンを退けたという。

 その功績を称え、リケン王国は奴隷階級を廃止し、耳短族を市民として迎える。

 国名もメリケン王国と改められ、その国力が増大するにつれ帝国を名乗るようになった。

 これがメリケン帝国の誕生である。


 しかし、これは表向きの話だ。

 実のところ耳長族はスケルトンたちの襲撃でそのほとんどの人口を失っており、耳短族の独立を止められなかっただけというのが当時の資料から伺える。

 竜より知恵を授かり、日の光で滋養を得る魔法が生まれたのもこの時期であり、単に食糧事情の改善により奴隷階級の必要性が薄れたというのも

特筆に値する事項だ。


 耳短族と耳長族確執は根深く、同じゲンニンという同種の人類でありながら、それは他人類に対するものよりも大きい。

 たとえば耳短族の信奉する古き神々。

 神々の啓示を受けた耳短族にしてみれば、もっとも尊ぶべきものだ。

 だが耳長族にしてみれば、自分らではなく奴隷に力を貸した邪神の類。

 彼らは魔力至上主義教会――通称・マ教を提唱し、それ以外の宗教を廃絶しようと試みる。


 そしてマ教はそれまでの生活に根付いた魔法を改善し、より戦闘的な術を生み出す。

 これが魔法戦術、通称・魔術である。

 魔力の駆使こそ人類の叡智と喧伝し、メリケン王国をメリケン帝国に押し上げたのは他ならぬこの『魔術』であった。

 いつしかマ教は国教となり、古き神々への信仰は次第に呑み込まれていった……。





     ▽


「――しかし、信仰は密かに続いていたのじゃ」


 信仰は形を変え、名を偽り、続いていた。


「それが植木職人ギルドだったのじゃー!」


 ダーノはドヤ顔で人差し指を突き出し、ポーズを決めていた。

 人に指さされると不機嫌なのに自分はいいのか。そうか。


 満足げにしているのを見ると、きっとおれは驚いた顔をしているのだろう。

 そして子供ながらに理解力が高いと喜んでくれているのだろうか。

 実際ものすごい驚いている。

 それは植木職人ギルドのことだけではない。


 それはスケルトンキングもそうだし、ミミタンもそうだし、祭詞も信仰の変遷もそうだし。

 つまり全部だ。

 なにしろ古き神々というのはまさに、おれ自身のことなのだから。

 ていうか、ミミタンってあの石槍持ったおっさんだよな。

 あの人おれの声聞こえてたのかな……。

 ミミタンって名前ついたのと、死者を鎮める祭詞授けた時差考えると色々ごっちゃになってる気もするが、この際歴史の正確性はどうでもいい。

 問題は。


『なんとなくでやってたことも、こうやってヒトの世界に来ると大事件だったんだなあって実感しますよね』


 のんきにロージーがそんなことを言っている。

 しかし、おれはそれどころではない。

 正直かなりショックだ。

 ヒトとして降臨しているせいだろうか。

 感情がヒトよりのせいで、神のとき起こしたことが実にとんでもないように思えてしまう。

 しかもそのすべては、全部なんとなくでやったことなのだから。


「植木職人ギルド――表向きはそう名乗っているが、一番重要なことは最も古き神や月の女神、大地母神の信仰を守るギルドなのじゃ」


 ダーノは喜々として話を続ける。

 最も古き神、月の女神、大地母神。

 その三柱の神を、古き神々というのだという。

 つまり、こいつらはおれの信徒たちなのだ。

 ひょっとすると、父も母もシバータも。


 インパーク領で宗教的要素が薄かったのは隠していたからで。

 ご飯時の挨拶は、ささやかな抵抗だったのだろう。

 頭がクラクラしてきた。


「マ教の思想は危険じゃ。魔力こそパワーを元に、今とんでもない計画を実行しようとしている。エルフと名乗る魔術師連中を中心としてな」


 重要なことを話している気もするが、頭によく入らない。


「エルフたちは養子と称して、耳長族を中心に魔力の高い子供たちを集めておる。

 おぬしらの言うカレン・ミッドランドも、生まれつきの魔力の高さ故に狙われた一人でな。シバータが匿っていたのじゃが……。結果は知っての通りじゃ。

 エルフの子ら。エルフチルドレン計画と呼ばれるそれは、魔力を高めるだけ高めた子供らを贄に、新しき神を自分らの手で作り出そうとしているのじゃ。

 絶対の神を作り出し、我々の古き神々への信仰を完全に消し去るためだけに。……哀れなことじゃ」


 つまり、こいつらが戦っている理由はおれで。

 相手が戦う理由もおれなのだ。

 そして、そこにおれの意志は存在しない。

 神だから、文字通り立っていた次元が違うのだ。


「――ダーノさんも耳長族ですよ、ね。どうして耳短族の信仰なんかを……」


 そんな思いついた疑問を、差し込むのが精一杯だった。


「私か? そうじゃの。言っておくべきか」


 ダーノは銀髪で隠していた顔の左半分に手を入れ、その耳を出した。

 奇妙なことに、その左耳は短かった。

 まるで耳短族の耳だ。


 よく見れば瞳の色も左右で違う。

 右は蒼だが、左は黒だ。


「私は耳短族と耳長族のハーフじゃ。他人類の混血は両親どちらかの種族となるが、同人類別種族は極稀に変異種ハーフというものが生まれる。両方の特徴を持ち、高い能力持つというやつじゃな。

 子供のままの容姿もそのせいらしいが、詳しくはわからん。私のような特徴の出た変異種ハーフは他に見たことがないからな。

 おかげでこの年だというのに、未だにエルフに養子として狙われてしまうんじゃな。忌み子とか言っておったくせに、今ではハーフエルフなどと名付け持て囃しおる。迷惑な話じゃよ。

 まあ、若く見られるのは気分がいいがのう」


 カッカッカと愉快そうに笑うダーノ。

 彼女の中で、それは持ちギャグなのだろう。

 生まれの不幸を笑いに出来る、強いメンタルの持ち主なのだろう。


 おれはまったく笑えなかった。

 それどころかダーノに土下座しそうになるのを、必死に抑える有様だった。

 交流もろくにない他人類との混血は考慮しても、交流が活発な同人類別種族は考慮していない。

 そんな中途半端な設定をしたのも、おれなのだから。


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