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神様がおれ  作者: 新手
後編 下界降誕
13/25

第一話 第一の人生

と言いつつ増量

 まぶしい。

 視界がぼんやりする。

 宇宙人がいる。

 目がでかい。グレイタイプの宇宙人だ。

 何か言っているが、聞き取れない。

 身体が動かしにくい。

 メアリーに細切れにされたせいで、身体がずいぶん小さくなってしまったようだ。

 ていうか細切れにされても生きてるのか。さすが神だね。

 でも、これからどうすりゃいいのよ。

 メアリーどこいった。恵美ー助けてー。


「――! ――!」


 視界はぼやけたままだ。

 ていうか回復するんだろうか。

 そもそもなんでグレイに囲まれてるんだ。

 しかも一様に笑顔な気がする。

 見えないけど気配でわかる。めっちゃ歓迎ムードだ。

 アブダクションされたにしても妙だ。

 そもそもチェーンソーでバラバラ事件から宇宙人がつながらない。

 メアリーがいない。

 転生はどうなったんだよ……。


「……! ……!」


 あと、さっきからうるさい。すごいうるさい。

 何か泣き叫ぶ声が聞こえる。

 全力で、自己主張の激しい、凄まじいエネルギーだ。

 生きる力をすべて泣き声に使っている。

 歓迎ムードで皆笑顔なのに、泣き声だけすごく浮いている。

 いったい何なのなんだよこれ。


 あ。


 おれの身体が、グレイの誰かに抱き上げられた。

 暖かい。生き物って感じがする。

 グレイもあったかいんだな。血の通った生き物なのか。


 そして誰かに手渡される。

 これもあったかい。

 さっきより安心する。よくわからない。


「――。――」


 そのグレイに呼ばれた気がする。

 相変わらず、何を言ってるのかわからない。

 わからないが――気がつけば、泣き声が止んでいた。


 泣いていたのはおれだ。おれの身体だ。

 細切れの神の身体ではなく、小さい頼りない命。

 まるで閉じこめられたように不自由な身体。

 どうやら、おれは転生したようだった。





   ▽


 グレイの息子に転生してしまったのかと絶望したおれだったが、単に生まれたばかりで視力が弱いだけだった。

 さすがにエイリアンを創造した覚えはないので、そんなものがいたら困る。

 アリゲータ外生命体と接触するのは、まだ早すぎる。

 視界がハッキリして、相手が何を言っているかわかる頃には、一年近く経っていたと思う。

 どうやらおれはゲンニンの耳短族に転生したようだった。

 まあ、はじめの転生としては無難なところだろうか。

 唯我独尊と生誕時に言いそびれたのが悔やまれる。


 父はカッツオ・ハナーザ。母はユカーリ・ハナーザ。

 おれの名はイチーロというらしい。

 何でなまった日本語みたいな名前やねん。

 両親は二人とも、黒髪黒目の典型的なアジア顔だった。

 父はややイケメン寄りではあるが、母は細面の童顔以外あまり語るべき特徴がない。

 服装さえ違えば日本人と言って通るしょうゆ顔、平たい顔族だ。

 みんなこんな感じなら、耳短族から改名した方がいいかもしれない。


 父と母の会話から察するに、父親の職業は庭師のようだ。

 貫頭衣まがいのシャツにズボンと、金持ちには見えない服装だったのであまり期待していなかったが、特に貧乏というわけでもなく平民にしては小綺麗な一家だった。

 魔力のおかげで衛生面の心配は低下しているだろうけれど、これが一般的なアリゲータ住民の水準なのかは判断に難しい。


 メアリーは一体何基準でこの親の子としておれを転生させたのだろう。

 父はやや筋肉質でがっしりとした体型ではあるが、母にいたってはやや痩せ型で町人Aってな感じである。

 目的があってならば、これが平均的なアリゲータ住民の生活なのだろうと思うんだけど。メアリーだからなぁ。

 そもそもメアリーぜんぜん見ないけど、どこだよ。

 サポートするとか言ってたのに。


 普通すぎるほど注目すべきところがない、この一家。

 気になることと言えば、庭師なのに庭いじりの道具が一切家になく、父親も毎日手ぶらで出かけるところだろうか。

 さすがに暮らしていけるのだから、庭師になりたいけどなれないハローワーク通いの無職親父って事はないと思うんだが。謎だ。


 それにしても家から出れないと退屈だ。

 まだ幼児だから仕方ないとはいえ、せっかくファンタジー世界に転生したんだから魔法がどのように根付いているのか確認したいというのに。これでは情報収集も出来ない。


 そう思っていた時期がおれにもありました。


 暇だからぼんやり母ちゃんの家事をながめていると、ふと気づいたのだ。

 家事にすら魔力が行動に影響していると。


 例えばかまどだ。

 ガスコンロなんてものは当然ないわけで、火を使うには薪を燃料にするはずのわけだが、その様子がちとおかしいのだ。

 かまどと母ちゃんが呼んでいる場所は、ただ形が整えられた長方形の石――というか岩がドンと置いてあるだけ。

 薪を入れる穴がないし、かまどというには小さすぎる。

 鍋が置きやすいように上部に二カ所、浅いくぼみがあるがそれだけだ。

 物置台と言った方がふさわしい形状をしている。


 しかしこれで料理が出来るのである。

 火打ち石で火花を出すと、くぼみから火が出てくるのである。

 くぼみになにか仕掛けがあるのかと思ったがそうではない。抱っこをねだってこっそりのぞき込んだが空だった。


 どういう事なのか。

 実はこれ、母ちゃんが魔法で火をつけているのだ。

 おれの身体が成長するにしたがって、他人の使う魔力の流れが見えるようになると、それは確信に変わった。

 火花にむかって母ちゃんの魔力が流れ、魔力の出力調整で火を操るのだ。

 これがほんとの魔法の料理である。

 わざわざ火をつけるのに火打ち石をつかうのは、無からは生み出せないという魔力の制限があるからだろう。

 燃料はもちろん魔力だ。


 他にもセンタッキという石があった。

 見た目はただの円筒形の石の器である。

 おそらく洗濯「器」とでも言うのだろう。後で知ったが実際そうだった。

 ここに洗濯物を放り込み、水を入れ、上に板と重石を置いて魔法で水流を起こして洗濯するのだ。見た目は漬け物を作っているようにしか思えない。

 ちなみに入れる水は手動である。

 主婦の腕前で脱水から時には乾燥まで出来るようだ。


 うちの母ちゃんはどうも一流の主婦らしく、念力的な魔法まで駆使して遠隔操作で料理も洗濯も掃除も出来る。

 鼻歌をうたい、ベッドで寝そべって本を読みながらすべてこなす。

 おれのおむつがえまでこなす。

 まったく動いてないのに「今日は働きすぎて肩こっちゃったー」とか言ってる様はニート主婦にしか見えないが、実際は超働いている。

 母ちゃんが買い物などに行くときは、ハイハイしか出来ないおれは家で留守番させられる。

 最初は「おい、赤ん坊ほっといてお出かけかよ。ひでえ親だな」と思っていたが、全くそうではなかった。


 ある日、おれ一人しかいない部屋にハチが入ってきたことがあった。

 しかし、やべえ! と思う暇もなく、事態は解決した。

 母ちゃんは魔力検知でおれの危険を察し、瞬間移動で帰って来やがったのである。

 なんかそういう魔法があったらしい。

 そしてハチは念力で粉々になった。合掌。

 どうも聞くところによると、アリゲータでは魔力が高いほど良い女房だとか。

 父ちゃんがいつもそれでのろけ話をしている。

 カルチャーショックすぎる。

 応用が効くように魔力を設定したが、まさかこんな生活密着型で発展してるとは思わなかった……。


 一歳半になると、おれも立って歩けるようになり、やっとお外で遊べるようになった。


「裂空十字鋏!」


 父ちゃんが技名を叫んで、庭園を格好良く飛び回る。

 振り上げた両手の手刀が、文字通り空を裂き、庭の木をカッティングする。


 ……まあ、だいたい予想してましたけどね。

 母ちゃんの家事があんなだし。

 でも、こんな空気中に真空作る、南方の水鳥みたいな技とは思わなかった。

 魔力の動きを見るに、これも魔法の一種なんだろうけど体術にしか見えない。

 あの華麗なステップを妨害したら、植木の剪定技術も低下するんだろうか。


「イチーロも、父ちゃんが立派な剪定拳の使い手にしてやるからな!」


 ぼけーっと植木の手入れを見ていたおれの姿が羨望の眼差しにでも見えたのか、キラリと歯を光らせて父ちゃんは微笑む。

 剪定拳の使い手って……魔法の魔の字もないな。

 母ちゃんの家事にもなんかそういう名前があるんだろうか。理解に苦しむ文化だ。


 それにしてもだだっ広い庭園だ。

 見渡す限り緑一面だというのに、どこも人の手が入っていて整然としている。

 父ちゃんは森林公園の管理人かなにかなのだろうか。

 他に職人の姿は見えないが、手入れされた草木や散歩道のすべてが、父ちゃんの剪定拳の結果だとすると凄まじい。剪定拳侮りが足し。

 家から出てすぐここだったのを考えると、自分の家の庭なのかもしれないが、こんな広大な庭を持っていて一介の庭師というのも変だ。

 住み込みの兼管理人なのだろう。

 こじんまりとした持ち家に対して、あまりにも広すぎる。


 もしかすると剪定拳の使い手というのは変態的な庭いじりの趣味を持っていて、家より広大な庭がステータスというのも考えたが、予想が外れてくれるのを祈るばかりである。

 最初の転生の父ちゃんが、そんな後退のネジを外した趣味人とは思いたくない。


「精が出るな、カッツオ」


 野太い声が横合いから飛ぶ。

 見るとそこには山男とつい表現したくなるような、髭面のごついおっさんがいた。


 おっさんは顔の彫りが深く、いわゆるソース顔……でもないな。

 欧米人というか、インドアーリア人じみた顔の濃さだ。

 はげ上がったのか剃ったのかは不明のスキンヘッド。

 髭は焦げ茶で瞳はオレンジ、肌の色は小麦色。

 でも、全体的にはゲンニンの耳短族特徴なのを考えるに、種族としては同一なのだろう。

 一体この世界の耳短族の人種分布はどうなっているのだろうか。

 父ちゃんとおっさんが並んでるのを見ると違う国の人種にしか見えないが、話しているのはどちらも同じ言語だ。

 まあ、そもそもアリゲータの言語分布にしても、どうなっているのか知らないのだが。


 人類視点に立ってみないとわからないことも多いのだなぁと学んだ気分になっているおれを余所に、父ちゃんはおっさんと対峙する。


「お前に負けちゃいられんからな、シバータ」


 そう言って父ちゃんは歯を光らせる。

 どこまでもさわやかな父親だ。

 これで庭師じゃなくて騎士とかだったらよかったのに。

 醸し出すオーラがどうにも下働きのそれではない。雰囲気イケメンすぎる。

 母ちゃんが「キャーかっこいいー」とか黄色い声援を飛ばしているせいで、余計にそんな感じだ。

 ていうか、何してんの母ちゃん。


「ほう、言うようになったじゃねえか若造が」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるおっさんは、どことなく父ちゃんに対して挑戦的だ。


「どちらの剪定拳が上か、試してみるか?」


「まだ自分が試す側だと思ってるなら、それはただの傲慢だぜシバータ・ミッドランド」


 父ちゃんがおっさんをそう呼び、ビシッと指差した。

 ていうか、おっさんも剪定拳の使い手ってことは庭師なのかよ。ムキムキの筋肉無駄だな。


「煽りだけは一人前だなカッツオ・ハナーザ……!」


 シバータのおっさんは壮絶に口元を歪め、笑った。

 禿頭には青筋が立ち、全身から湯煙のようなものが立ち上る……って、なにそれ!? 一人茹でダコ?


「あれはシバータ・ミッドランドの得意技。瓶割剪定拳の奥義、臥牙嵐の構え! その身から高温の蒸気を立ち上らせ、土中の草の種まで枯らすという必殺の草刈り技よ!」


 おれの驚き顔を見て、母ちゃんがドヤ顔で解説し始める。

 幼児にそんなこと言って理解できるかっつーの。おれだからわかるけどさ。


 母ちゃんのテンションに唖然とするおれ。

 一方、父ちゃんもなにやらゆらりゆらりと左右に揺れる独特の歩方で、シバータのおっさんを幻惑している。


「対するは丹羽剪定拳奥義、乱殺円舞! 一見ゆっくりした動作に見えるそれは、微細な緩急のにより相手の認識を狂わせる魔性の構えよ。それは見よう見切ろうとすればするほど技に呑み込まれ、剪定拳の心得なき者は相対しただけで平衡感覚を失うという禁断の秘技!」


 もう植木関係なくね?

 殺人術じゃないですか。

 なんだよ認識狂わせるって。植物に意味ねえよ父ちゃん。

 しかもシバータのおっさんのと剪定拳の名前違うけど、これ流派とかあるのかよ。

 ていうか、おれ大丈夫なんだろうか。

 横から普通に見てるんですけど。技の影響が怖い。


「――嘩ッ!」


 シバータが気合い一閃。

 右手のひらをグッと前に突き出すと、纏った蒸気が意志を持ったかのように父ちゃんへ襲いかかった。

 動きは、速い。


「疾ッ――」


 父ちゃんは両手の形を獣の顎に模すと――ぶっちゃけかめは○波みたいなポーズをすると、かき消えた。

 蒸気ではなく、父ちゃん自身がかき消えた。


「はあっ!?」


 てっきりポーズのせいでエネルギー弾でも飛ばすのかと密かにワクワクしていたおれは、完全に意表をつかれた。

 いや、おれの意表ついたところでどうでもいいんですけどね。ただの観客だし。


「あれは乱殺円舞から繰り出す殺人技、その名も絶影拳。影すら置き去りにする高速の一撃!」


 高速の一撃より速く解説する母ちゃん。

 殺人技って言っちゃってるよぉ。



 肉体同士ではありえない、岩で岩を殴る鈍い音。

 速すぎて、おれの目には父ちゃんの姿が見えない。

 おっさんには何が見えているのだろうか。

 目を走らせ、手で受け流す動作をするたび、音は聞こえる。

 突然繰り広げられる高速戦闘に、おれはドン引きだ。


「ん……?」


 気のせいだろうか。音はどういうことか、おれの後ろから聞こえてくるような。


 ガッゴッ ガッゴッ


 何故、それに気づかなかったのだろう。

 まず理解より疑問が浮かぶ。

 振り返り、目で見て、脳が認識して、はじめてわかる。

 周囲に反響して、音源がどこかわかりにくかったのだと。

 そして、もうひとつ。

 何故、音が背後から来たことに、唐突に気づけたのか。

 それは音が、おれに近づいてきていたからだと。


 いたのは、少女だった。

 まだ幼い――と言ってもおれよりは年上だろう、小さな少女だった。

 三、四歳くらいだろうか。

 整った人形のような顔立ち。透けるような白い肌。流れる金色の長い髪。

 ――と三拍子そろって、その髪からのぞく耳は横に長く尖っていた。

 長命で知られるゲンニン、耳長族だ。

 白いフリルのワンピース、腰帯には後ろに結びがくる青いリボン。

 これで幅広の帽子でもかぶっていれば、避暑地に来た御令嬢と言ったところだ。


 だが――。

 つかめば折れそうな細身の幼女に、おれは戦慄していた。

 もし、まだ歩けるようになったばかりでなければ、全力で走って逃げていただろう。

 それほど彼女で異様だった。


 ガッゴッ ガッゴッ


 音が鳴る。


 右の手。


 ガッゴッ


 左の手。


 ガッゴッ


 少女の手に転がされ、ふたつの丸い岩がぶつかっている。

 岩は少女の目線ほど、大人の腰ほどもある大きなものだ。

 左右交互に転がされるそれは、ほとんど同じ距離を動き、停止している方の岩にぶつかった反動で元の位置に戻る。

 無表情に、無感動に、少女は同じ動作を繰り返している。

 彼女はただ、岩を左右に転がしているだけだ。

 ――いや、それだけでも十分異様なのだが、おかしいのはそれだけではない。

 前進しているように見えないのに、少しずつ大きく、少しずつ近づいてくるのだ。


 一体、どんな歩き方をしているんだ。

 そう思った瞬間、

 岩が。

 急激に大きくなって。

 ――いや。

 こっちに飛んできた。


「――ッ!?」


 攻撃。

 害意を向けられた。

 反射的に、顔をかばって右手を突き出し――直後。

 岩が、割れた。


「なん……」


 何が起こったのか。

 鈍い音を立て、地面に転がった岩。

 断面は鋭利。包丁で両断されたミートボールのように真っ二つだ。

 爆弾、いや割腹岩だろうか。何かにぶつかりそうになると、自分から割れるとかそういう。

 そんなわけねーな。

 疑問には、聞くまでもなく母ちゃんが答えてくれた。


「こ、これは……! 丹羽剪定拳奥義、斬岩両断刃! 急所を的確に突く事で、対象物はまるで刃物で切り分けたかのように真っ二つに裂かれるという幻の技!」


 もう何だかわからねえな。

 リョーダンジンって、父ちゃんの手はどういう構造なんだよ。

 あきれ半分で母ちゃんの方を見ると、その隣には父ちゃんが両手を組んで立っていた。

 しきりにうなずきながら、感心したような視線をこちらに向けている。

 シバータのおっさんも同じ姿勢だ。

 いつの間に……って、お前ら戦いはどうしたんだ。


「すごいぞイチーロ! その歳で岩の急所を見抜くとは、さすがおれの息子だ!」


 は?


 おれは自慢げな父ちゃんの言葉に唖然とした。

 ニコニコ顔の母、にやけ顔のおっさん。そのすべてが「でかしたイチーロ」と言っているよう。

 割れた岩に目を向ける。

 割れてる。

 見事に真っ二つだ。スイカ割りでもこうは行かない。

 これをおれがやったというのか……。しかも無意識に魔力を使って?

 ごめんよ父ちゃん、疑って。

 おれも同類だった。


「しかしカレン。いきなり岩を投げるのは感心しねえなあ?」


 少女の方を見やるシバータのおっさん。

 カレンと言うのが彼女の名前だろうか。

 実に可憐な……いや、なんでもないです。


「ごめんなさい、御父様。この子の魔力が興味深くて、つい岩を投げてしまいましたの」


 つい、で幼児に岩を投げる。

 子どもって時として残酷。

 って、御父様って……この子シバータのおっさんの娘なの? に、似てる要素がひとつもねえ……。

 筋肉ムキムキのおっさんから華奢な女の子って、進化ってレベルも越えてんぞ。


「イチーロ、良い機会だから御挨拶しましょう。カレンお嬢様、この子が私たちの息子のイチーロ・ハナーザです。――さ、イチーロ。よろしくおねがいしますって」


「よ、よろしく、おねがい、します」


 母ちゃんに促されるままに、頭を下げる。

 舌っ足らずな口調が、自分でももどかしい。


「まあ、この子が? ――私はインパーク領の領主、シバータ・ミッドランド=インパークの娘、カレン・ミッドランド」


 ……?

 母ちゃんがカレンをお嬢様と呼ぶのも違和感があったが、カレンのセリフも理解しがたいものがある。

 カレンはお嬢様。シバータの娘。シバータのおっさんは、この土地の領主。

 つまり、そこに住むおれらは使用人。

 ということは?


 シバータのおっさんが、おれら家族の雇い主なんじゃねーか! 父ちゃん気安すぎるだろ!

 思わず叫びそうになるのを、おれは何とかこらえた。

 父ちゃんに目を向けると、さわやかな笑顔で歯を光らせ親指を立ててサムズアップしてやがる。

 これがこの世界の風習なのか? わからなすぎる。


「よろしくね、イチーロ」


 お嬢様はニコリともせず、慈愛に満ちた声で話しかけてくる。

 無表情と、やさしげな声。そのアンバランス。

 それを、どこかでおれは知っていた。


「まさか……」


 言葉を発しようとするおれを、カレンお嬢様は唇に人差し指を立てて止める。


『やっと会えましたね、ジョージ』


 懐かしささえ感じさせるその声は、おれの頭の中だけに響いた。


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