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7.ただ幸せになってほしいだけ
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「私は、ケンちゃんに前に進んでほしいんです」
しばらくして落ち着いてから、恐る恐る訊いてみると、決然と古崎さんはそう言った。
「前に?」
「はい。ケンちゃん……女の子に人気あるんですよ。カッコいいし、運動もできるから」
ちょっと誇らしげに言った後で、でもまたすぐにちょっと沈んだ表情になった。
「でもケンちゃん、全部断っちゃうんです。大学に進学してからは凄くモテるのに、誰とも付き合おうとしないんです。そして……」
また、目尻から一滴流れ落ちた。
「私の命日になると、毎年私のお墓の前で泣いてくれるんです。ずっと……」
五年。毎年。
それをずっと彼の後ろから。
古崎さんは、見ていたわけか。
「私は、ケンちゃんには新しい人と出会ってほしい。新しい誰かと幸せになってほしい。私はもう死んでしまってどこにもいないんです。──そうして忘れないでいてくれるのは、正直に言えば嬉しいです。でも、……でも私のことは、忘れてほしいんです。いつまでも私を忘れずにいたら、ケンちゃんは幸せになれない。私は、ケンちゃんに幸せになってほしいんです」
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