6.あの日の嘘への後悔を今も
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「高校二年生になった春先に、急に酷い目眩がすることが何度かあったんです。貧血か何かだろうと思ってたんですけど、ある日とうとう倒れてしまって。お母さんに病院に連れて行かれて検査されたら、……病名は忘れてしまったんですけど、何か重い病気だったそうで」
「重い……病気」
古崎さんは小さく頷いた。
「余命一年と言われました」
一年。
つまり、高校を卒業できるか、どうか。
「そのこと、江ノ島君には?」
「言えませんでした。どうしても……ケンちゃんの前で倒れてしまうことも何度かあったんですけど、そのたびに貧血だって必死で説明して……ケンちゃんは、絶対に変だって思ってたと思うんですけど、深く訊かないでいてくれました」
それが幸か不幸かは、また別の問題だったんだろう。
でも、こうなってしまった今となっては、おそらく。
「定期的に病院へ通っていたんですけど、すごい勢いで悪化していったんです。倒れる回数も増えていって、学校も休みがちになりました。そうなるとさすがに貧血だとは言えなくて、ちょっと病気に罹ったって、ケンちゃんには説明していました。でも──すぐに、良くなるって」
嘘を、ついてしまいました。
落とすように、古崎さんは囁く。
視線は下がり、肩も落ちている。膝の上で、両手は固く握り合わせられていた。
きっと、ずっと責め続けていたんだろう。
そんな嘘を、ついてしまった自分を。
「病院に行くたびに、余命は少しずつ短くなっていきました。私に直接宣告されていたわけじゃなかったんですけど、周りの人たちの振る舞いとか、自分の身体の調子とかで、きっとそうなんだってわかりました。それでも、もう少し──せめてクリスマスまでもってほしいって、できることは何でもしました」
小さく、嗚咽が聞こえた。
「クリスマスの一週間前に、もの凄く調子のいい日がありました。その頃はもうほとんど寝たきりでしたから、チャンスだ、と思ってクリスマスのプレゼントを買いに行きました。……やっぱりあの日は、消える前の蝋燭が、っていうのだったんでしょうね」
くっ、と一度息を詰まらせ、それでも、言った。
「間に合いませんでした」
クリスマスに、間に合わなかった。
その、前日に。
「その後のことは、あまり覚えていません。気が付いたら、ずっとケンちゃんの後ろをついて歩いていました」
それから、五年。
「何で、言えなかったんだろうって……ケンちゃん、それからずっと……私のせいで──」
もう言葉は続かなかった。語尾は崩れて、膝の上で握られた拳に、ぼろぼろと涙が落ちる。
彼女に触れられないウチは、肩を抱くことも涙を拭いてあげることもできず、黙って座っているしかなかった。
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