5.そこはやっぱり懐かしい名で
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ウチはそこまで特に何も言わずに聞いていたけど、ふと思って口を挟んだ。
「呼び慣れた呼び方でいいよ」
え? という顔をする古崎さんに、ウチは笑いながら、
「無理して江ノ島君って呼ばなくてもいいよ。あだ名で呼んでたんでしょ?」
ああ、と古崎さんはまたはにかんだ。
「ええ……はい。あの、その、ええ。ケン──ケンちゃんと私は、高校に進学するまでは仲のいい友達、くらいの関係だったんです。幼なじみでしたし。でも、高校に入ってしばらくした頃に、ケンちゃんが知らない女の子と楽しそうに話しているのを見かけたんです」
遠い目で、古崎さんは語る。
「そのときは何も思わなかったんですけど……しばらくしてから、なんだかもやもやし始めたんです。それが何でなのか、さっぱりわかんなかったんですけど……その後でケンちゃんと話してたときに、不意にわかったんです。ああ、私、嫉妬してたんだなって。知らない女の子と楽しそうに話しているのを見て、私嫉妬してたんです。よくある話、かもしれないですけれど。でもそれがわかったとき、私はすぐに……自分でもびっくりしたんですけど、すぐにケンちゃんに告白してました。ケンちゃんも驚いてたんですけど、笑いながら受け入れてくれて……」
ふわっと古崎さんは微笑んだ。幸せそうな、福々とした笑みだ。
「それから毎日、幸せでした。付き合う前と、そんなに大きく変わったことはなかったんですけど、改めて……でも」
ふっと、古崎さんの表情に陰が差した。
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