1話
時は恐らく平安時代。
私、日暮 旭、高校2年生、性別女、は5年前突然21世紀からこの平安時代にタイムトラベルしてきた。
しかも、ただのタイムトラベルではなく、5~6才頃の姿になって。
オマケに霊感なんか、爪の先も無かったハズなのに視えるようになるというオプションまで付けられて!!
いるかどうか分からない神様、今日私は改めて貴方に聞きたい。
・・・・・・確かに困った時と冠婚葬祭と寺社に行ったときしか拝まない、無信心な私ですが!そんなの!現代日本じゃ少なくないハズなのに!
何故私!?
〈おんやぁ?
娘さん、随分と強い力を有しているねぇ〉
「え゛」
〈しかも、視えるときた。
憑かせてもらうよ娘さん〉
「えぇ゛ッ?!」
お遣い帰りに鞍馬山の麓を歩いていれば遭遇した、透けているおっさ・・・オジサンは、私を見てニヤリと笑うと、すうぅと私の身体に入ってきた・・・・・・。
あぁ、ホントに私が何をしましたか!
「うわ、身体重たい・・・・・・!!
最悪だ、オカアサンに怒られる!」
身体の重さと気の重さに重い溜め息を吐きながら、山を登る。
住み処への入り口は鞍馬山の中腹にある。
オジサンを連れ帰って良いのか散々悩んで、どうせ怒られるし、と気合いを入れた。
入り口を抜ければ、そこは烏天狗の里。
私を目敏く見つけたオカアサンが、眦を吊り上げて、一直線にやって来た・・・・・・あぁ、回れ右して逃げたい。
《旭!!何に憑かれて帰ってきた!?》
「不可抗力だよオカアサン!!」
《誰が母だ!!》
〈へー、こりゃあ面白いねぇ。
烏天狗の里が鞍馬山にあるとは聞いていたが、まさかこんなに大所帯で、しかも娘さんのオカアサンとは〉
《貴様》
突然私の中から出てきたオジサンが扇を開き、のんびりと異変に気付いて集まってきた烏天狗達と里を見渡す。
オカアサン、基、烏天狗の夕霧はさっと私を背に回し、そんなオジサンに武器である錫杖を構え睨みつけた。
〈はは、愛されてるね娘さん。
烏天狗に好かれる人間というのは稀有だよ?そんな娘さんを見つけた僕は幸運だった〉
「オジサン、何が目的なの?」
《旭は黙っていなさい》
「う゛・・・・・・ハイ」
ピシャッと言われて、おずおずと出していた顔をサッと夕霧の背に戻した。
〈過保護な烏天狗も面白いなあ・・・
目的ねぇ・・・・ある男をギャフンと言わせることかな?〉
「(ギャフンて古!
いや、平安時代ならむしろ新しいのか?うーん)」
《旭、余計なことを考えているだろう》
「え゛」
〈ふは、仲が良いことよ〉
アハハハと大口を開けて笑うオジサンに、夕霧がキレたのは言うまでもない。
オジサンは、小野道隆と名乗った。その名前を聞いて、夕霧と集まった皆(烏天狗) はざわめく。
「ひょっとして、有名人??」
《先の陰陽頭だ》
「おんみょーのかみ?」
ナニソレ?と首を傾げれば、夕霧達は盛大な溜め息を吐いた。・・・・・・無知でごめんなさいねぇ!
《むくれるな。
陰陽師はわかるな?》
膨らませた頬を指で刺されながら、陰陽師は聞いたことある、と頷いた。
《陰陽師達は、陰陽寮に所属している。朝廷の数ある部署の1つだ
そして、陰陽師を統括しているのが、陰陽頭というワケだ》
「偉い人?全然見えない・・・・・・」
〈正直な娘さんだなあ〉
笑い上戸なのか、この時代の偉い人にしては珍しく隠す気もなく爆笑するオジサン、基、小野道隆さんにふと沸いた疑問が1つ。
「なんで成仏してないの?何かその男の人に恨みがあるの?・・・・・・根に持つタイプには見えないけれど」
〈たいぷ?が何か分からないが・・・・・・
恨みっていうほど大層なものじゃないがね、僕だって、思うことはあるんだよ〉
からりと笑う道隆さんに、一体何があったのかと気になる。
《(全く、好奇心旺盛なのも困ったものだ)
それで、ギャフンと言わせたい相手がいるのは理解したが、何故この娘に取り憑いた?》
〈陰陽師の才能があると分かったからだよ。
磨けば光りそうな原石の塊。
是非、僕の知識や技術を教え込んで、天才に打ち勝たせたい。あわよくばギャフンと言わせたい〉
「(天才?)」
ギャフンと言わせたい相手は天才なんだ、と内心で呟くと、まるで心を読んだかのようなタイミングで夕霧と目があった。
《旭、この男はな、左大臣派と右大臣派の派閥の抗争に巻き込まれ、陰陽対決をして負けたのだ。
陰陽頭が一、陰陽師に負けたとあっては問題と、病気療養の名目で陰陽頭を退かされ、流行り病に本当になって、死んだのだ》
「え、なにそれ不運過ぎる」
〈これは驚いた。よく知っているなあ烏天狗クン。
まあ、押しと権力に負けた僕も悪かったんだけどねー、相手役、僕と対決した後、鼻で笑ったんだよ?
一礼もせず去ったのが悔しくてね。負けたのは確かだけど、仮にもその時、僕は上司なのに有り得ないでしょう?これは死んでも死にきれなくてね〉
はあ・・・・・・と、どんよりした息を吐く小野さんに流石に憐れみの視線が集まる。
烏天狗はアヤカシだが、同情はするらしい。
《ともあれ》
咳払いをして、小野さんに集まっていた視線を戻した夕霧。
少しだけ考える素振りを見せた後、じっと私に目を向けたまま口を開いた。
《旭が学ぶのは、良いことだ。
ここへ来て、5年・・・・・・旭は鞍馬しか知らない。
この男に教えさせるのは、多少考えるが、旭は我々とだけ一生過ごすわけには行かないだろうから、人としての生き方を学ぶ良い機会だと、思う》
7月20日・・・おんみょうがしら→おんみょうのかみ
恥ずかしい間違い、変更しました!