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親友として

「ぬわぁーーーーー!!」

 俺は飛び起き、辺りを見回すとここは俺の部屋だ。


 窓を見ても、もちろん街並みは破壊されていなし、今の今まで男だと思っていた俺の親友が実は女の子で、不可抗力とはいえその胸を……してしまったなんて……普通この状況であればこの一言で片付く。


 あ~あ、変な夢だったなぁ。


 しかし、今の俺には、たかが夢であろうともその一言で片付けることは出来ない。


 ブーブーブー。

 枕元で鳴り響く携帯のバイブ音。


 俺は急いで携帯を確認すると、それは優からの着信であった。


「な!?」

 ……どうしよう。あんな事があった後だし……会わせる顔が……

 正直、出たくない。


 俺は深呼吸をして、ちっぽけな勇気を振り絞るために、誰かに聞かれたら死にたくなるようなセリフを声に出す。


「だが、逃げても結局なにも解決にはならない! それに、友情とは困難を乗り越えてこそ深まるものだ!」


 ――よし! 俺は携帯の通話ボタンを押す。

「……もしもし……優……か?」


「うん……ボクだよ――ねぇ、秀……変なこと聞くかもしれないけど、昨日の夢の事って本当?」

 声のトーンから重々しさが、ひしひしと伝わってくる。


「あぁ……残念だが、本当だよ」


 優はため息をつくとさっきとは打って変わって、すがすがしそうに答えた。

「はぁーーそっか……秀、君に全てを話す時が来たみたいだね……場所はいつものファミレスでいい?」


「わ、分かった……」


「じゃあ……待ってるよ」

 優は最後に悲しそうにそう告げ、電話を終えた。


 俺は身支度を整え、優と学校の帰りによく寄る、ショッピングモールにあるファミレスに急行する。


「いらっしゃいませ。何名様でございますか?」

 ファミレスの自動ドアをくぐると店員に話しかけられる。


「はぁ……はぁ……つ、つれが……先に……」

 俺は息を切らせながら店員にそう伝えると店員は「こちらです」と言い俺を案内する。


「ごゆっくりどうぞ」


 俺は店員に促されるまま案内された座席に腰をかけると、その喉の渇きから目の前にあったコップの水を一気に飲み干す。


「くっ~~! 生き返った!」


「秀、大丈夫かい?」


 声に反応し前を向くと、そこには優がいた。

「優!? お……おう、全然、全然大丈夫だぞ!?」


 俺は何とか平静を保とうとする。


「秀……」

 優は悲しげな表情で俯き、黙ってしまう。俺達の間には、しばらく沈黙が続き周りの空気が憂鬱なものになりかける。


「なあ、優――」

 俺は意を決して口を開く。


「無理にじゃなくていい……出来る範囲でいいから、話してくれないか?」


 優は顔を持ち上げ、俺をしっかり見据えて言う。


「分かった……全てを話すよ」

 そして優は時折、言葉をつまらせながらも俺に打ち明けてくれた。


 優は元々、東欧出身で優の生まれた国では、内戦が絶えず国が疲弊し、街には孤児があふれ、優もその一人だった。当時の生活はゴミ捨て場をあさり、食べられそうな物は何でも食べ、まるでその様はドブネズミのような暮らしだったという。


 そんな時、街が反政府軍によって制圧され、そこにいた孤児は全員、反政府軍の少年兵となり、それは優も例外ではなく、その生活は一変した。


 優は少年兵として生きるには男の方が有利と悟り、この時から男装を始める。そして少年兵として、突出した才能を発揮した優は、ついに反政府軍の主力部隊指揮官にまで昇進する。この時に、医療方面の知識も得たと語る。


 しかし、戦況は芳しくなく、反政府軍は劣勢に追い込まれ、ついに内戦は敗北という形で終戦を向え、優を含めた反政府軍指導部は国外へと離脱。その後、数カ国を転々とし、ついに日本にたどり着き今に至るという。


 今住んでいる場所や戸籍、金等々は日本にいた支援者から用意されたもので、日本語もその支援者から教わったらしい。

 優が日本に来ても男装を止めなかった理由は当初、用意された戸籍が男性の物だった為、仕方なく男装を続けるしかなかったという。しかし現在、戸籍は女性に書き換えられていると優は語る。


 そして、支援者によるサポートの期限が中三までのとの事で、現在は支援を受けていない為に優も金欠で困っているとの事。


 俺は言葉が出なかった……一体、今まで俺は優の何を見てきた――優のことは分かっていると勝手に思い込んで……実際は何も知らなかった……くっそ――これじゃ親友失格じゃないか……


「秀、黙って聞いていてくれて、ありがとう……ボク……もう行くね……」

 そう言って優は涙を浮かべながら座席から立ち上がり、帰ろうとするが俺はとっさに優の手を掴む。


「……どこに行くんだよ」

 優は俺からか顔を反らし頬に涙を伝わせ、咽びながら答えた。


「離してよ……秀……僕の事、嫌になったでしょ……あんな話聞いたら……」


「そんなわけ無いだろ! 優が話してくれて俺はむしろ嬉しかったし、優のことをもっと知りたいとも思った。俺がそんな程度で、嫌いになるわけないじゃないか!」


 優は振り向き、一瞬驚きの表情を浮かべたが、目を赤く腫らして声を上げ泣き出す。

 すると、周りの客の目線が俺達に集中し、俺はその気まずさから逃れるべく、優をつれトイレに向かい、入り口に清掃中の看板を置き、中へと入る。


 優はしばらくすると落ち着いたのか、泣き止み、鏡に映る自分を見つめながら、俺に語りかける。


「……ボク、秀に本当の事を知ってもらいたかったんだ。でも、ずっと言えなかった……怖かったんだよ……もし話したら、嫌われるんじゃないかって……そしたらもう、秀のそばにいられなくなるって……」

 優は俺の方に振り向き、訊ねてくる。


「……本当にボク、これからも……秀のそばにいてもいいんだよね?」


「当たり前じゃないか、俺達は親友なんだぞ――優、これからはどんな些細な事でもいい、もし、悩んだりしたら俺に相談してくれよ」


「秀……」


 優は顔を赤くして、俺からに視線を外したが何かを決意したような表情で、再び俺の顔を真っ直ぐな視線で見つめ、言う。


「じゃ、じゃあ……秀! ぼ、ボクの事をこれからは、親友とか関係なしに……その……ひ、一人の女の子として見てほしいんだ!」


 つまり……どういうことだ?


「だめ……かな……」


「お、おう……努力するよ」


 おそらく……今までのように、がさつに接するのではなく。もっと、繊細に接して欲しいという事か?


「本当! これでボクも秀と……」

 優は安心したのか表情を和らげる。


「俺と?」


 俺がそう尋ねると、優はちゃめっ気たっぷりの笑顔で返した。

「なんでもないよ~」


 優を不思議そうに眺めていると、何か思い出したような顔をして言う。

「そうだ! 秀、君には罰を与えないと」


「は?」


 優は恥ずかしさのこもった声で、俺に伝える。

「……だって……昨日、秀にあんな……ことされちゃったから……ボクもう……ひっ……グスッ」


 今にも泣き出しそうになる優。

「わっ!? ごめんなさい、なんでもします」


 優は表情をぱっと輝かせ俺に詰め寄る。

「やった! じゃあ……買い物付き合ってよ。秀のおごりで」


「え゛!?」


 ――――と言うわけで、俺達はその後ファミレスに戻り昼食を済ませ、俺は約束どおり優の買い物に付き合う事になったのだが……


「遅い……」


 俺は、なけなしの金をATMから下ろし、今ショッピングモール内の婦人服コーナーの前にいる。


 優はまず、「女の子らしい服が欲しい」とここにやって来たわけだが……俺はなぜか「来ちゃだめ」と言われ、ここで小一時間ほど待たされる羽目になっている。


 俺は痺れを切らし、優を探すべく婦人服コーナーの入り口に向け歩き出すと、一人の少女が俺の前に立ちふさがる。


 少女を見て、俺はつい思った事を口にしてしまった。

「か、可愛い……」


 少女は夏の暑をも和らげてくれそうな、涼しさを感じる淡い水色のワンピースで黒のショートパンツと、この季節であっても殆ど日焼けをしていない、白くすらっとした美脚をのぞかせ、全体的に幼さを感じるコーディネートではあるが、少女の白く透き通った髪とその、いたいけなさを感じる表情と相まってさらに、少女の可愛さを引き立てていた。

 俺はこの美少女に覚えがある。


「ま、まさか……優?」


 優は頬を火照らせ、恥ずかしそうに聞いてくる。

「似合ってる……かな……」


「ま、まあ……その、け、結構……あってると思うぞ」


 ……優は俺の予想以上に可愛かった。


「本当に! よかったぁ……似合ってないって言われたら、どうしようかと思ったよ」


「つ、次は……ど、どこ行きたい?」


 ヤバイ……なんか、緊張してきた。


「……とりあえず歩こうよ」

 俺達は優の提案で、ショッピングモール内を歩いて散策する事になった。


 ……俺は緊張と恥ずかしさのあまり、隣を歩く優の顔を直視できないでいた。それは、優も同じだったのか、こちらを見ようとせずにいる。

 会話もろくに続かず、少しでも目が合うと俺達は目をそらし、そのつど沈黙に襲われ、それを何度か繰り返した時だった。


「……秀、手……繋がない?」


「お、おう!? て、手か……」


 俺がなかなか手を繋がないでいると、優は悲しげな表情でこちらを見て言う。

「もしかして……嫌……?」


「そ、そんな事、ないって」


「じゃあ……繋ごう」

 そして、俺は恥ずかしさをこらえ優と手を繋ぎショッピングモールを歩く。


 今まで気づかなかったが、優の手は俺より小さく、そして、小さいながらもがんばって俺の手を包み、そのぬくもりはとても優しかった。


 ふと、優の顔を見ると目が合い、優は頬を淡く火照らせはにかむ。

 それを見た俺は顔が熱くなるのを感じ、優をまともに見られなかった。


 ……おい。待て俺、何を恥ずかしがっている。相手は優だぞ、俺の親友で、女の子で、ちっちゃくて、その、幼げ漂う可憐な表情がとても愛くるしくて……今すぐにでも、抱きしめたい。


 ……ゴクリ。


 な、何を考えているんだ。親友に手を出すなんて……ダメに決まっているだろ!

 

 ――でも……


 俺が不毛な葛藤にいそしんでいると、優はあるエリアの前で立ち止まる。


「秀、映画見よう」


「え!? 映画!?」

 俺は考え事に集中しすぎて気づかなかったが、俺達は映画館エリアの前にいた。


「な、何見たいんだ?」


 チケット売り場にある、アクション大作物のポスターを指差す優。

 俺はほっと胸をなでおろす。もし、恋愛系とかだったら俺の気が持たなかったであろう。

 それに、これだったら気分転換にもなる。

 そうと決めた俺達は早速チケットを買い、まだ上映まで時間はあったが、劇場へと入り指定された隣同士の座席へと座る。


「なあ……優、手離してくれないか」

 優は座席に座っても俺の手を握っていた。


「だぁめ」

 優は微笑み、いたずらっ子のように俺にそう告げ、離してはくれなかった。


 そうこうしていると映画が始まり、内容が俺の好みだった事も手伝って集中して見ているといつの間にか、クライマックスに差し掛かり、場面が主人公とヒロインのキスシーンに変わる。すると、優は俺の手をぎゅっと握ってきた。


 俺は優の方に視線を向けると、優は上の空な感じで画面を見つめていたが、その視線はどことなく羨ましさを含んでいるような感じがした。


 そして、上映が終了し俺達は映画観エリアを出て、近くにあったベンチに腰をかけると優が遠くを見るような表情で話しだす。


「秀、今日はありがとう……ボク、こうやって普通の女の子みたいに買い物したり、遊んだりするのが夢だったんだ。おかげで楽しい一日を過ごせたよ」


「俺も今日は、楽しかったよ……服、大切にしてくれよな」


 上下あわせて、八千円近くしたんだから……


「うん! この服は初めて秀からもらったプレゼントなんだ。ボクの宝物だよ」


 そう言って今まで握っていた俺の手を離し、優は立ち上がると、俺にワンピースを見せるようにして一回転する。その時の優の表情は本当に楽しそうだった。

 優は一回転し終えると、近づいてくる。


「じゃあ、今日はもう……帰ろう」


 そう言って優はまた俺の手を握り、俺達はショッピングモーから外に出ると、その涼しさで忘れていた、真夏の夕日の暑むさ苦しさに襲われながら、帰路につき、家まであと少しという所だった。背後から物々しい気配を感じ、俺達は振り向く。


「司、何でここに!?」

 そこには顔が引きつり、俺達に向けてただならぬ殺気を放つ司がいた。


「昨日、会いに行くって言ったじゃない……それよりも……あんたら、楽しそうね……手なんか繋いじゃって」


 それを聞いた優は、得意げな表情をして司を見下すように言う。

「うん、楽しいよ~今日は秀に服をプレゼントしてもらったし、それから、二人で映画見て、それで……」


 今にも殴りかかってきそうな見幕で、俺に詰め寄る司。

「秀、あんた……一体どういうことなの! 説明しなさいよ!」


「えっ!? いや……だから……」

 俺と司の間に、わって入る優。


「クソビッチには関係のない事だよ。秀、行こう」

 優は俺の手を強引に引っ張り、司から離す。


「優、アンタねえ……ってコラ! 待ちなさいよ!」


「全く、君もしつこいな」


 司は優と俺の前に立ちふさがり、腰に手をあて言う。

「あたしは、秀に用があるの――優、アンタに用はないわ。うせなさい!」


「俺に用――」

 俺が司に要件を聞こうとするが、優はそれをさえぎる。


「秀、こんなのに付き合う必要はないよ」


「黙りなさい、部外者! あたしは秀のパートナーなのよ」


 そう言われ、なぜかうろたえだす優。

「パ、パートナー!? ……な、何を……だ、黙れ、クソビッチ!」


「嘘だと思うなら、秀に聞いて見なさいよ」


 優は瞳を潤ませ、不安に満ちた表情で聞いてくる。

「秀、嘘だよ……ね……」


「いや、本当だぞ」


「え…………そんな……」

 俺の言葉を聞いた優は、その場で崩れるように地面にへたり込む。


「優! どうした!? 大丈夫か?!」


 優は俯き、うつろな表情で返す。

「……そんな……」


「まあ、貧乳のガキんちょなんかに、秀のパートナーなんて務まるはずがないものねぇ」


 それを聞くと優は、体を震わせ、ゆっくりと立ち上がり司につめ寄り言い放つ。


「そんなことはないさ! 秀のパートナーにどちらが相応しいか勝負しろ! クソビッチ!」


 司は余裕の表情で言い返した。

「いいわ――受けて立とうじゃないの。でも、条件があるわ」


「条件?」


「……今から私が言う事を復唱しなさい、それが条件よ!」

 そう言って司は嘆息し、続ける。


「……二度とクソビッチとは言いません。お詫びに、この貧乳のボクを司様の下で一生ご奉仕させて下さい」


「な!? そ、そんな事言えるわけ、ないじゃないか!」


 司は優を馬鹿にするような口調で言う。

「なに? あんた喧嘩売っといて逃げるの? 身長も胸も、ちっちゃくてその上、根性もないわけ?」


「う゛~分かった……言うよ……」


 優は顔をしかめ、悔しさをにじませながら言う。

「二度と……クソビッチとは言いません…………」


「ほら、早く続き言いなさいよ」


「お、お詫びに……僕を…………下さい」


「はぁ? 聞こえないんだけど」


 優は怒鳴るように司に言い放った。

「ぐ~~ッ! お詫びに、この貧乳のボクを司様の下で一生ご奉仕させて下さい!」


「じゃあ、宣言どおり奉仕してもらおうじゃないの」


 司は邪悪な笑みを浮かべそう言うと、俺と優にクリップで留められた数枚のレポートのような物を渡す。


「何だ、これ?」


 俺の質問に、司はため息交じりで答えた。

「……あの世界での今日の仕事よ。詳しくは現地で話すわ。だからそれまで、二人ともそれよく読んでおきなさい」


 優はレポートをぐしゃぐしゃに握り締め司に詰め寄る。

「僕は協力しないぞ! 絶対!」


 呆れ顔で答える司。

「アンタも頑固ね……でも、賞金の額を聞いても同じ事が言える?」


「結構でかいのか?」

 俺が尋ねると、司は堂々と宣言する。


「賞金は三百万……だから、三等分して一人百万ってとこね!」


「「百万!?」」

 俺と優は驚き二人して同じ言葉を発し、顔を見合す。


「……参加する、しないは各自で判断していいわ――じゃあ、よろしく」

 そう言って司はきびすを返し、立ち去って行った。


「待て! クソビッチ!」

 優はそう言って刺すような視線を司に向け、追いかけようとするが俺は何とか、堪えるよう説得し優を家まで送り届けて、俺も自宅までの家路を歩く。


 ――今日は色々疲れた……そう言えば、これ読んでおかないと……


 俺は司から渡されたレポートに目を通す。

「そんな!? 馬鹿な!?」


 俺はレポートの内容に思わず声を発してしまった。


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