麗人現る
俺は背後から投げかけられたその言葉に凍りつき、動けなかったが司は瞬時に反応し、振り向きざまに、拳銃を構える。
「あんた、何者!」
司が問いかけると同時に、俺もゆっくりと声のした方向へと振り向く。
そこにいたのは、アサルトライフルを構えた一人の兵士だった。
司と兵士は、互いをけん制する様に対峙している。
兵士は顔をスカーフで半分以上覆い、深々と帽子をかぶっているため人相は確認できないうえに、迷彩服を着ているのだがそれも、ぶかぶかで体格も確認できないが、身長は俺の肩ぐらいと結構低い。
俺の視線に兵士が気づき、目が合うと驚いたのか一瞬たじろいだ様子を見せ、アサルトライフルを構え直す。
兵士は先ほどよりも、鋭い視線で司をにらみ、警告する。
「おい、女! 武器を捨て、人質の男性を解放しろ! そうすれば見逃してやる!」
「ハァ? あんたこそ、武器を捨てなさいよ!」
司も強い口調で返した。
どうやら、あの兵士は俺を人質だと勘違いしているらしい。
「五秒だけ待ってやる」
そう言うと兵士はカントを始めた。
「5……4……3……2――」
司は兵士のカウントを遮り言う。
「あんた、状況がまるで分かっていないみたいね」
司は手にしていた手帳から、電卓を取り出し説明を始める。
「この一帯には爆弾が仕掛けてあるわ。この起爆装置(電卓)でも起爆できるし、あたしの生体反応が消えても起爆する。さあ、あんたの負けよ! 武器を捨てなさい」
高らかにそう宣言する司。
「そ、そ、そんなハッタリ……このボクには――通じないぞ!」
「そう思うなら、撃ってみなさいよ」
余裕の表情を浮かべる司、それに対して兵士のほうは、次第に余裕がなくなってゆくように見える。
「ぐぬぬぅ……」
押し黙る兵士。
俺は司に耳打ちする。
「さっき言った事、本当なのか?」
司も同様に耳打ちしてくる。
「ハッタリに決まってるでしょ! 今はアイツを動揺させて、なんとかスキを…………その必要はなくなったみたい」
正面を見ると、迎撃されたのだろうか、ドラゴンがこちらに向かって落下してくる。
その姿を見た俺達はきびすを返し、兵士とは反対方向へと逃げようとする。
「おい! 動く――」
兵士が言葉を発したと同時に、ドラゴンは近くの民家に激突し、瓦礫が轟音を立て崩れ去り、ドラゴンを下敷きにする。
「な、なんだよ――あの生き物は……」
兵士の注意が俺達からドラゴンへと移る。
「秀、あそこに爆弾仕掛けて!」
兵士の注意が移ったスキをみて、司は俺に動体検知爆弾を渡し、近くにあるトラックと乗用車の隙間を指差す。彼女も俺に渡したのと同じ爆弾を仕掛けるが、何故か目に付きやすい道路の真ん中に設置する。
俺も急いで爆弾を仕掛け、司の方に向おうとする途中で、銃が落ちているのに気づき、拾い上げる。
「スナイパーライフルだ」
「秀、早く!」
俺はスナイパーライフルを担ぎ、急いで司のほうへ向い、合流し二人で戦闘により荒廃した街並みを背に駆け抜ける。
「ま、待て!」
俺達が逃げた事に気づき、追いかける兵士。
その姿を見た俺達は兵士との距離が十分に離れたことを確認し、相手から死角になる車の陰に隠れる。
「引っかかったわね!」
そう言って司は落ちていたガラス片を拾い、それを車の影から出し鏡の様にして、兵士の行動を監視する。
「そう――そのまま、そのまま…………なっ! まさか、あいつ!」
最初は余裕の表情を見せていた司だが、次第に表情が曇ってゆく。
司のその姿を見て俺もガラスを覗くと、爆弾を仕掛けた場所をちょうど兵士が通過するが、しかし、何故か爆弾は爆発しない。
どうなってる!? 動体検知爆弾は近くに動く物があれば、爆発するはずじゃないのか!?
さらに、こちらのガラスに気づき、兵士も近くの車に隠れ、身を隠す。
「アイツ中々、やるじゃない――あたしが仕掛けた爆弾を、あの状況でダミーだと見破るなんて……チッ!」
悔しそうに、舌打ちする司。
「ど、どういう事だ? ダミー?」
「もし、秀があいつの立場だったらどうする?」
「俺だったら……司が仕掛けた爆弾を見つけたと同時に、隠れるけどな……あ!」
そうか……あの状況なら、司が仕掛けた爆弾をダミーと見抜かない限り、爆風から逃れるため、トラックの後ろ、つまり、俺が仕掛けた爆弾のある場所に隠れるしか、地形を考えてもそれ以外に選択肢はない。
「でしょ! そうよ! 普通なら、隠れるはずよ!」
司は俺に詰め寄る。
「そ、そんな怒るなって……」
「怒ってないわよ!」
十分、怒ってる気がする……
「でも、困ったわね……銃撃戦をするにしても拳銃対アサルトライフルじゃ、話にならないし…………ん? 秀、それどうしたの!?」
司は俺の背負っている、スナイパーライフルを指差す。
「あぁ……爆弾を仕掛けたときに拾っただけど」
「貸して!」
俺はスナイパーライフルを司に渡すと、司は残弾があることを確認して辺りを見渡し、ここら辺一帯を一望できそうな五階建ての建物を指差しながら宣言する。
「あの建物から、アイツを狙撃するわよ! ふん! 一撃でしとめてやるわ! 覚悟しなさい!」
そう宣言すると、司は近くにある空き缶とガラスを拾い、ガラスを俺に渡す。
「秀はこのガラスで、アイツの動きを見てて」
俺は言われるがまま、ガラスを影から出し兵士を確認すると、兵士も同様にガラスでこちらの様子を、伺っているのが分かる。
「この距離なら、缶なのか手榴弾なのか、なんて見分けがつかないはず。秀、アイツ逃げ出したら言って!」
司は缶を思いっきり、高く投げる。
司の言うとおり、兵士は缶を手榴弾と誤認したのか持っていたガラスを捨て、一目散に逃げ出す。
「今だ!」
俺の合図と同時に、司は隠れていた車の陰から飛び出し、俺もそれに続き、二人で建物へ向け、全速力で走る。
「ここだわ」
俺達は急いで建物へ入り、屋上へ向う。
ドン!
俺が屋上のドアを蹴破ると、司はすぐさま先ほどの道路が見渡せるポイントに移動し狙撃の準備を始める。
「この距離だと、観測手が必要ね……秀、頼んだわ」
どこから出したのか、司は俺に双眼鏡を渡す。
観測手……狙撃において、射手をサポートする役割である。
うつ伏せになりスナイパーライフルを構え、射撃の準備を終える司、俺はすぐに司の隣に移動し双眼鏡を構え、覗くと司の投げた缶を悔しそうに踏み潰す兵士の姿が見える。
「せいぜい今のうちに、悔しがっておきなさいよ」
司は悪意に満ちた声でつぶやいた。
俺がサポートを開始しようとすると、兵士は俺達のいる建物を見つめ、迷うことなくアサルトライフルを構えた。
「こっちの位置がバレたのか!?」
馬鹿な……五〇〇メートル近くは離れているぞ!?
焦る俺を尻目に、司は冷静に答える。
「問題ないわ。バレる事は想定済み。このスナイパーライフルの射程は、八〇〇メートルそれに対して、アサルトライフルの射程はせいぜい三~四〇〇メートル、だからここには届かない」
司はそう言ったが、兵士は一向に構えたアサルトライフルを降ろそうとせず、それどころか、完全にこちらに狙いを定め、銃口を徐々に上に持ち上げ始めた。
「何で銃口を上に……まさか!」
恐らく兵士の狙いは、アサルトライフルの射程を延ばすことだ。
銃弾は発射されると、最終的に放物線を描き落下する。だから、銃に角度をつけて発射すればここまで届く!
「司、ヤバイ!」
司に考えを伝えようとする俺、しかし、司は遮るようにして言う。
「分かってる。でも……そんな方法じゃ届いたとしても、当てるのは奇跡に近いわ」
俺は司の言葉を信じ、サポートを開始する。
「……目標までの距離、四百七十メートル。東の風、西に五度補正」
兵士も射撃の体勢に入り司と兵士、二人は、ほぼ同時に引き金を引き、乾いた銃声が辺りに鳴り響く。
「キャ!」
銃声に混じり司の悲鳴が聞こえ、俺は慌てて司のほうに振り向くと、兵士の放った弾丸は司のスナイパーライフルに命中し、銃はバラバラに砕け、司はうつぶせのまま動かない。
「司!」
「……ちょっと、ビックリしただけだから……大丈夫」
司はうつぶせのまま顔を上げ、俺にそう告げる。
「本当に大丈夫なんだよな?」
「大丈夫よ――それより、アイツは? 倒せた?」
俺は双眼鏡を覗くと、司の撃った弾丸も兵士のアサルトライフルに命中し、同様にバラバラに砕け散っていたが、肝心の兵士は倒せておらずこちらを見据え、向ってくる姿を確認する。
「こっちに来る……」
「ん~~もう! 何なのアイツ! あんな無茶苦茶な方法で、狙撃を成功させるなんてもはやチートじゃない!」
司は、立ち上がり地面を蹴りだす。
しかし、俺は相手がチーターだろうが、何だろうが倒し、賞金を獲得しなければ……そう、明日の飯代の為に!
そう言えば……あの兵士、俺を人質と勘違いしている――これだ!
「司、ちょっといいか?」
「何!」
「俺に考えがあるんだが……」
「考え?」
――――そして、今俺は司に銃を突きつけられ、建物の外にいる。
「秀、確かにこの方法なら、アツを倒せるかもしれない……でも、危険すぎる」
司は不安に満ちた表情で俺に語りかける。
「大丈夫だって――こっちは二人もいるんだから」
「でも……」
……俺の考えとは、あの兵士の思い込みを利用する。
まず、兵士に遭遇したら、人質を解放する代わりに武装解除をしろと要求し、武装解除に成功した後ある程度こちらに引き寄せ、二人で襲撃するという算段だ。
「隠れているのは分かっているわよ!」
司がそう叫ぶと兵士が潜んでいた塀から飛び出し、こちらに向けて拳銃を構える。
「人質は解放する。だから、あんたも武器を捨てなさい」
「いいだろう」
兵士は司の要求にあっさり応じ、持っていた拳銃を捨てさらに、こちらに向けて歩き、俺達まであと残り数歩と迫った所で兵士は立ち止まる。
どうして、なぜ来ない……
兵士は数秒立ち止まると今度は、疾風のごときスピードで俺達との距離を詰め、俺の目の前に現れる。
俺は事態を飲み込めず、あっけにとられていると、兵士は俺のみぞおちに向け拳を放つ。
「ぐはっ!」
拳は見事ヒットし、俺は衝撃でよろけ体勢を崩す。
…………そんな……まさか、見破られたのか――だが、なぜ俺に止めを刺さない……
まさか! 奴の狙いは司の方!
今の司は、殴られた俺に注意が向いていて、迫る兵士に気づいていない!
「ごめん、秀」
兵士は俺にそうささやくと、司に迫る。
「誰……だ……」
俺は倒れぎわに兵士の顔を覆っていたスカーフを掴むと、それがほどけ俺が地面にひざまずく際に完全に兵士の顔があらわになった。
優!?
あらわになった兵士の顔は紛れもなく、見間違うはずもない――俺の親友、伏見 優、その人であった。
なぜ優が!? どうしてこの世界に!? 何で攻撃してくる!?
クソ! どうして……だが……今の俺に迷っている暇はない! 優を止めなければ!
「優……やめ……」
俺は声を発しようとするが、殴られた際の衝撃で声が出ない。
優は司にあと一歩と迫った所で、横顔を狙い上段の蹴りをかますが、司は間一髪でそれに気づき、両肘でガードをして何とか、優の攻撃を防ぐ。
「危なかったわ……」
もはや司の表情に余裕は微塵もなかった。
「よくも……よくも、秀を危険な目にあわせたな……」
「あんた、一体何者なのよ!」
「死に逝く者に答える義務はない!」
優は直ちに体勢を立て直すと、すかさず隠していたナイフを取り出し、司の喉元めがけて切りかかる。
「も~~! 何なの!」
司は銃を捨て、自分もナイフを取り出そうとするが、それでは間に合わないと判断すると、優のナイフ攻撃をギリギリでかわし、ナイフを上空に蹴り上げる。
「チッ!」
ナイフを蹴り上げられ、一瞬、優に隙ができる。
「これで終わせてあげるわ!」
司は、急いでナイフを取り出し同様に優の喉元に切りかかる。
しかし、優は司の攻撃を難なくよけてしまった……様に見えたが、着ていた迷彩服の胸元を切られる。
「ふ~ん……少しは出来るみたいだね」
「アンタなんかに褒められても、ちっとも嬉しくないんだけど!」
この時、二人は互いに距離をとる。
すると、先ほど蹴り上げたナイフが二人の間を裂くようにして、対峙している中心に突き刺さる。それを見た優はナイフを取りに一直線に走りだす。
「させないわよ!」
司はそれを防ごうと互いに中心へと向うが、優のほうが紙一重の差でナイフを手にした。
「残念だったね」
「やめろ優!」
俺は声を張り上げるが、優には届かない。
優はナイフを手にし司に切りかかると思いきや、近づいてきた司の足めがけ下段の蹴りを繰り出し、司を転倒させると馬乗りになり、司の胸元でナイフを振り上げる。
「僕の勝ちだ!」
もはや一刻の猶予もない!
俺はそう判断すると、腰に差していた拳銃に初弾を装填し構え、優のナイフめがけ発砲する。
銃弾は命中しナイフが砕け散る。
何が起こったか理解できていない優、司はそれを好機と見て無防備になった優の頬に拳を食らわす。
「がはっ!」
たまらず優は馬乗りを解く、すると司は急いで立ち上がり、優の腕を掴み助走をつけ一本背負いを決め、優を拘束しようとするが既に優は伸びていた。
「司!」
俺は司に駆け寄ると緊張がほぐれたのか、司は俺に体を預け、崩れるようにして地面に座り込む。
「ごめん、司……俺がもっとしっかりしていれば……」
「別に……気にしなくてもいいわよ……それよりも――」
司は立ち上がり険しい表情で優を指差しながら、俺に言い放った。
「秀はアイツと一体どういう関係なのよ!」
俺は司の権幕にたじろぎながらも優は俺の親友であり、なぜ襲ってきたかは分からないと懸命に伝えている最中、ちょうど優も目を覚まし俺達は優を含め話し始める。
……優はその勘違いから司を倒そうと俺達を襲ったそうだ。
俺は最初、優の戦闘能力の高さからこの世界でのベテランだと勝手に思い込んでいたが、驚くことに、優は今日はじめてこの夢の世界に来たと言う。
俺と司は優にこの夢の世界の事そして、司の兄の事を説明し協力してくれるように頼む。
「話はわかったよ」
「じゃあ! 協力して――」
司がそこまで言いかけると優はそれをさえぎり……
「嫌だ」
と、はっきりと告げる。
「なぁ、優、頼むよ――そんなに悪い話じゃないんだし」
「僕は嫌だね――こんなアホ丸出しのビッチ女と組むなんて」
それを聞いた司の表情が変わる。
「ハァ!? 黙りなさいよ! この貧乳!」
「貧……ふん! ぼ、ボクはそんな……君みたいに無駄な脂肪の塊なんていらないさ!」
「ばっかじゃないの! あんた、強がってるのみえみえなのよ!」
優は図星だったのか、悔しそうな表情を浮かべ司の胸をにらみ、言い返す。
「僕だって……成長期が来れば大きくなるはずだよ!」
司は優を見下すようにまくし立てる。
「成長期? あんた十七でそれだと、もう成長しないんじゃないの?」
「うるさい! きっと成長するさ! 秀もそう思うよね!?」
「いや……俺に振られても……ってその前に優お前、男だろ――なんで胸の事なんか気にするんだよ」
俺の言葉に優は青ざめ、慌てふためく。
「いや……えっと、そ、それは――」
「秀、何言ってんのよ。コイツどう見ても女じゃない」
司は優の胸元を指差す。
「いっ、一体何を言っているんだい。このクソビッチは! 秀、こんなのと一緒にいちゃダメだよ。さあ、行こう」
優は俺の方に近づこうと前に出るが、自分のズボンの裾を踏みバランスを崩す。
「え!? うわ!?」
俺はとっさの事で対応できず、優よって豪快に押し倒される。
「痛って……ん?」
ふに……何だ、手のひらから伝わるこの感触は……
ふに、ふに……まるでショートケーキのスポンジの様に柔らかく、それでいて弾力もあり、すごく手に馴染む……
そして、その中心にある小気味よい感触のこの突起物、一体これは……
ふに、ふに、くり、くり、ふに。
「……んっ……はぁ……ら、らめぇ……」
俺は優の発した奇妙な声に気づき目を開けると、視界には手のひらに収まるサイズの小ぶりな優の胸を握っている自らの手が映る。
「な!? ど……な!?」
色々な意味で、俺は自分の顔から血の気が引いていくのを感じていると、優も目を覚ます。
優は状況を理解したのか顔を真っ赤にさせ、俺に覆いかぶさった状態からゆっくり体を起し、目に涙を浮かべて、悲鳴をあげ俺の頬に強烈な平手打ちを食らわす。
「キャーーーーーーーーー!!」
パチンッッッッ!!
「ぶはっ!?」