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 クソ……俺の目の前にいるって事は、本棚からは距離がある。

 つまり、あれは俺を起すための嘘だったって訳か……


「立てる?」

 司は俺に手を差し伸べ、俺はそれにつかまり立ち上がる。


「なぁ……司、質問」


「なに?」


 俺はさっきから聞こえていた怪音についてたずねる。

「……この銃声と怪獣の鳴き声のようなものが聞こえるって事は……もしかして……」


「もしかしなくても、ここは夢の中」


 司は俺にとって衝撃的事実をさらっと言ってのけた。

「じゃあ……迎えに行くって言ったのも、

 この夢の中での世界で迎えに行くって意味だったのか……」


「そうよ。そうに決まってるじゃない」


 そういう事なら、いくら寝ないで待っても来ないわけだ……


「……で、秀、あれから自分の預金口座に、

 ちゃんと三万振り込まれているか確認した?」


「三万……って何で知ってるんだよ!?」


「じゃあ、もう分かるわね」


「い、いや――全然、分からないんだが……」


 俺がそう言うと司はため息をつき、呆れ顔で言い返した。

「はぁ……秀、あんたも気づいていると思うけど、これは普通の夢じゃないわ」


「普通の夢じゃない?」

 夢って大概、普通じゃない気が……


「まず――この夢は一つの夢を他人と共有し、体験している……まあ、簡単に言うと、夢っていうオンラインゲームを一プレイヤーとして、プレイしている――と思ってもらって構わないわ」


「な!? そ、そんな――」

 俺は反論を試みようとしたが、司に発言をさえぎられる。


「正直、秀……あんたの気持ちも分かるわ、いきなりこんな事言われて信じろって言うほうが無理よね……」

 司は暗い面持ちのまま、俯き黙ってしまう。


 ……確かに、司の言った事は突拍子が無く夢の中で言うのも変だが、現実味に欠ける。 でも、俺には司が嘘をついているとも思えなかった。


「そうだわ!」

 司は顔を上げ、天啓でも得たのだろうか嬉しそうに俺に話す。


「そうよ! 秀に現実の世界で会いに行けばいいじゃない! そうすれば、あたしが実在する証明にもなるし、お互いを認知できれば一つの夢を共有している証にもなるわ!」


 なるほど……司の言うとおりだ。

 現実で彼女が俺に会いに来れば、全ての証明になる。

 ここまで強気に出てくるって事は、やっぱり、司の言ったことは本当なのだろうか……


「じゃあ、うちの場所を教えるよ」


「それは大丈夫。だって、この夢の世界の街と現実のあたし達の住んでいる常晴市は〝ほぼ同じ地理″をしているから問題ないわ」


「ほぼ同じ?」

 って事は、どこか違うのか?


「地理は大体同じよ。違いは、あんたも昨日見て分かったと思うけど、現実の常晴市には無い山岳地帯と海洋地域がここにはある。街の北側半分を囲むようにして山岳地帯、そして、残りの南側半分も同じで海洋地域に囲まれているわ。それと、ミサイル発射基地とか要塞砲とかも各所に設置してあるわね」


「そう――だったのか……」

 昨日は必死すぎて気づかなかった……


「――話を戻すけど、これで少しはあたしを信じてくれる気になった?」


「おう……信じてみようかな」


「そうこないとね! じゃあ……」

 司は俺を指差し……


「このあたしが、特別にあんたとパートナーを組んであげるわ。感謝しなさい!」

 と、俺に堂々と宣言した。


「んなっ!」


 パ、パートナー!? って……まさか――これは…………こ、こ、告白!?

 いや――待て、待て、待て、俺!

 結論を急ぐな…………


 でも、パートナーって事は、そういう意味じゃないのか――だが、しかし、この場合は……

 司は、瞬間湯沸かし器の如く顔を急激に火照らす俺を見て、ようやく自分の発した言葉の意味に気づいた様だ。


「ば……馬鹿! そっ、そ、そんなわけ無いでしょ! へ、変な、勘違いしないでよね!」

 俺と同様に司も、急激に顔を赤らめる。


「そ、そうだよなーー(棒)あは、あははは」


 俺は棒読みになりながら、何とか必死に笑ってごまかそうとするが司は、そんな俺の姿を見て何故か、少し残念そうな表情を浮かべ俺に背を向けてしまう。


「……でも、いつか…………そうなれば……いいな」

 司が何かぼそぼそ言っているが、俺は上手く聞き取れなかった。


「あ……あの、司?」


「ひゃ!?」

 驚いたのか、肩をビクッと振るわせる司。


「きゅ、急に話しかけないでよね!?」


「わ、悪い……」


「で……な、何よ!」


「さっきの、その……パートナーを組むってどういう意味なんだ?」


 司は疲れた表情をし、近くにある机に腰をかける。

「そうね……あたしが悪かったわ。ちゃんと説明するべきだったわね……この夢のもう一つの特徴として、ここで手に入れた金は現実に反映されるのよ」


「じ、じゃあ……あの振り込まれていた三万は、システムトラブルのせいじゃないのか!?」


「まあ――そういう事になるけど……秀、あんた通帳記入はした?」


「ああ、もちろん、したけど……」


「そう……それなら、システムトラブルのせいじゃないわ。トラブルが起きたのは預金残高表示のシステムのだけで、そのほかのシステムは異常なしだってニュースで言っていたじゃない。だから、通帳記入で振り込まれた履歴が書き込まれていれば――それは、システムトラブルのせいじゃないって事……分かった?」


「確かに……」


 司は腰をかけていた机から立ち上がり、話を続ける。

「――そして、ここで金を稼ぐには昨日みたいに他のプレイヤーと戦い勝利すること、そうすれば賞金として負けたプレイヤーの所持金が、自分の口座に振り込まれるってわけ」


 司は、おもむろに腰に差していた拳銃を抜き俺に差し出す。

「秀、あんたにコレあげる」


「……もらっても俺、使い方知らないんだけどな……」


 俺は司から拳銃を受け取ると、拳銃上部のスライドを薬室が少し見えるぐらいまで引き、初弾が薬室に装てんされていない事を見た後、弾倉を拳銃から取り出し残弾数をチェツクする。


「大丈夫よ。接着剤なんて詰めてないから」

 何故かニヤニヤしている司をよそに俺は作業を続ける。


 続いて、弾倉を拳銃から外した状態でスライドを前後させ、妙ながたつきが無いかを確認、今度は撃鉄を起し引き金と連動する動作および、安全装置の機能も点検。

 俺は全て一連の動作を終えると、拳銃に弾倉を戻し安全装置をかけて腰に差す。


「ちゃんと使えるじゃない」


「ど、ど、どうなってる!? 銃なんて今まで使った事が無いのに、その構造、手入れの方法、使用上の注意――全てが、手にとるように分かる!」


「驚いた? この世界では、全てのプレイヤーに何かしらのスタイルが与えられるの、秀あんたは、あたしと同じ銃使いの様ね」


「スタイル? 銃使い?」


「まあ……要約すると、特技みたいなものよ。これを会得すると、無条件でその術、知識、技術が習得できるわ。銃使いは、主に近代兵器の運用に長けるスタイル、他にも騎士、これは剣術と、それに付随する術に特化しているわ。あとは――魔術師、これは魔法使い。そして……昨日、戦ったヤツがこれに当てはまるわね――ドラゴン使い、もう分かると思うけど、ドラゴンを自由に操れるようになる……スタイルは以上の四つ、もちろん一人で複数のスタイルを持つことも可能よ」


「つまり……今までの話をまとめると、この世界では金を稼ぐことが出来る――そして、稼ぐにはプレイヤー同士、スタイルを駆使して戦わなければならない」


「そうね、大体それで合ってるわ」


「それでパートナーを組むって事か……」


「一人で戦うより、二人で戦った方がいいに決まってるじゃない」


 ――懐事情の厳しい、俺にとって願っても無い話だが……

 いや、待て俺、何を迷う必要がある! 叔父さんからの仕送りで、ゲーム機を買ってしまい首の回らない俺にとって、願ったり叶ったりじゃないか!


 俺は覚悟を決め司に告げる。

「司、俺とパートナーを組んでくれ」


 司は俯き、小さくガッツポーズをした後、深く深呼吸をして言う。

「さ、最初からそう言えば良かったのよ!」


「って事は……」


「秀、あんたは今からもこれからも、ず~~っとあたしのパートナーなんだからね!」

 司は微笑み、嬉しそうに言った。


「よろしくたのむよ」


「それじゃ、一旦、ここのエリアを出たほうがいいわ」

 そう言って司は、窓を指差す。


 そこには、納得の光景が広がっていた。

 窓の外を見ると、ここから数百メートルの地点で、ドラゴン使いと銃使いの連中が派手に戦闘を繰り広げているのが見える。


「そうした方がいいな……」


 俺達は、外に出て戦闘を避けるようにしエリアからの脱出を図るが、しばらく走らされることになる。


 ……三年間補欠だったが、中学時代に陸上部だった俺にとって長距離を走る事は造作も無いが、司にとっては違うようだ……


 たぷん、たぷん……と揺れるその豊満な胸のせいで、かなり走りずらそうだ。


「こ……この辺まで――来れば、大丈夫。……はぁ」

 司は息を切らせ立ち止まり、俺達は二人して道路に座り込む。


 辺りを見回すと、ここも戦闘があったのだろう……街並みはひどく破壊され、見るも無残な惨状だ。


 俺は息を整え言う。

「司、二つほど質問いいか?」


「どうぞ……」

 司は疲れのこもった声で答えた。


「昨日言ってた三つの勢力が、どうのこうの……ってあれどういう意味なんだ?」


「あぁ……それね――この世界では陸軍、王国軍、連合軍の三つの大きな勢力が互いに争っている。昨日、武装ヘリに乗ってた連中が陸軍、市街地を拠点としていて、人員はほぼ銃使いで構成されているわ。で、ドラゴンに乗ってた連中が王国軍、山岳地帯に拠点があって魔術師、ドラゴン使い、騎士で成り立っている。そして、戦闘機でやって来た奴らが連合軍、ここは海洋地域と市街地の一部が拠点となっていて、二つ以上のスタイルを持った人物で組織されているのだけれど……三つの中でここが一番強いはずよ」


「どうして?」


「二つ以上スタイルを持っていると、一つしか持っていない者と比べた時、使える戦術の幅が格段に違う。でも……本当に極まれにしかいない――みんな、大抵一つしか持ってないわ」


 司は立ち上がり、腰に差している拳銃を取り出し言う。

「移動するわ。秀も準備して」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。最後の質問、司は何でそんなにこの世界について、詳しいんだよ」


 俺がそう言うと、司はおもむろに制服のスカートをめくり……って、ちょ!?


「な、何にやって!?」


 あらわになる太もも、そこにはスカートに隠れる様にして太ももにバンドが巻いてあり、バンドには何か挟まっている。手帳だろうか?


 司はその手帳のような物を取り出し、俺に渡す。

「特別に読むことを許してあげる」


 手帳を開くと、そこには司が先ほど説明した、この世界に関する事が詳細に数十ページにわたって記されていた。

 残りのページには日記が書かれ、その最後のページに……

 ――陸軍総統 星咲 権護(ほしざき けんご) 著と記入されていた。


「まさか……星咲って事は――」


「陸軍の元最高司令官であたしの兄よ」


「元?」


 司は悲しげな表情で答える。

「あたしもこの世界に来て、まだ二週間しかたってないから、詳しくは知らないんだけど二ヶ月前に内乱が起きて失脚したらしいの」


 二ヶ月前――朝陽が倒れた時期と同じだ……


 さらに司は続ける。

「それと同じ頃に――兄は行方不明になったわ……」


「行方不明!?」


「そう……だから、この世界で兄の手帳を見つけた時、絶対ここで手がかりを見つけて兄を探し出すって決めたの」


 俺は小声でつぶやく。

「司は強いな……」


 本当、強いよ……今まで見ていて、彼女はどんな時でも前を向いていた。昨日だって、追い詰められ普通なら絶望してしまう様な状況でも、絶望せず常に反撃の機会をうかがいそして、勝利を収めた。現にこんな所で二週間も一人、兄を探していたなんて、俺には到底出来ない……俺は今まで、常に誰かに支えられて生きてきた……両親を亡くした時は朝陽に、朝陽が倒れたときは優に、俺にとって一人で生きていくなんて考えられない。だから、俺の目に映る司の姿は大きく、そして眩しかった。


「ん? 秀、何か言った?」


「……俺も探すのに協力するよ」


 司は俺の発言が予想外だったのか、一瞬驚きの表情を浮かべる。

 しかし、すぐに笑みを浮かべ、期待と嬉しさの混じった声で言う。


「本当!?」

 と言ったすぐ直後に司は腕を組み、咳払いをして俺に告げる。


「ま、秀はあたしのパートナーなんだから、それぐらいして当然なんだけどね!」


 ……発言を撤回したくなってきた。


「でも……ありがとう」

 司は恥ずかしそうにはにかみ、俺にそう言った。


「そろそろ移動したいんだけど……他に質問は無い?」


「それじゃあ、戦ってもし負けた場合って……死ぬ……のか?」


「そんなわけないじゃない――秀、これはあくまでも夢なのよ。だから、ここでは怪我も出血もしないし、痛みも殆ど感じない。でも、ダメージを受けると、だんだん、まぶたと体が重くなってくる……で、完全にまぶたを閉じきった時、それが負けの合図。そして、目が覚めいつもの日常に戻るわ……でも、この世界には二度と来られなくなる。さらに、この世界に関する記憶と、貯金全額が消える羽目になるけどね」


 結構……リスクでかいな……


 司は拳銃に初弾を装てんして言う。

「そう言えば、あと、一応この世界にはタイムリミットがあって、日の出の時刻になると昨日みたいに体が砂と化して、目が覚めるわ……大体の説明は以上ね」


「覚える事、結構あるな……」


「まぁ……やってるうちに覚えてくるわよ――それじゃ、移動しましょ」


 俺は司に手帳を返し、立ち上がろうとする。

 その時だった。


「動くな!」


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