夢から覚める時、そして……
決着を見た司は座っていたボンネットから飛び降り、唖然としている俺に説明を始める。
「あれが三つ目の勢力――あたしの作戦はドラゴンと武装ヘリの連中を〝車庫付近の空域〟におびきだすだけで良かったのよ、三つ目の勢力が管轄しているその空域にね。そうすれば勝手に自滅してくれる……我ながら、完璧な作戦だったわ」
司は何か思い出したような表情で続ける。
「そう! 秀、あんたにも感謝しないとね」
「俺に?」
「ほら、董島って奴いたでしょ、あいつをおびき出す途中で、逆に追い詰められちゃって、そしたら、あんたが奴の気をそらしてくれたから……あの時は助かったわ」
「やはり……テメェが仕組んだのか!!」
「い、今のは俺じゃないぞ!」
司を見ると、何かおぞましいものでも見たような表情で硬直している。
「司、どうした?」
「あ、あれ……」
俺は司の見ている方向へ顔を向ける。
「そんな……アイツは……」
「な、何でアンタ……」
董島だ。そこには赤兎に乗った、怒りに震える董島がいた。
「よくもこの私をコケにしてくれたな! 貴様ら……覚悟しろ! 赤兎、上昇だ!」
董島がそう言うと、赤兎は空高く上昇したのち上空で待機し、俺たちと一定の距離を取る。
赤兎は口を開け、光状のエネルギーを溜め始めた。
「ヤバイ! 司、何か来る! 逃げるぞ!」
俺は司の手を引こうとするが一瞬、俺と司の前をライトのような閃光が通りすぎ、近くの車に当たり爆発を起す。俺は爆風で吹き飛び無力にも地面にたたきつけられ、司と離れてしまう。
「秀!」
「次はテメェの番だ! クソ女!」
董島の指令で赤兎は急降下し司に襲い掛かろうとする。
「司! クソ、俺には何も出来ないのか!」
……いや、まだ俺にも出来ることはある!
俺は立ち上がり、ここまでずっと担いできた四連ロケットランチャーを構え、赤兎に照準を合わせ、引き金を引く。
「食らえ!」
強烈な反動と共に、ロケットが発射され目標めがけ直進するが、ギリギリの所で赤兎はロケットをかわす。
「そんな物では私は倒せんぞ!」
董島は高笑いを浮かべ、俺に向け言い放った。
「ぐっ……」
俺はロケットランチャーを投げ捨て、無我夢中で司のいる方向へ走る。
「血迷ったか! 二人とも灰にしてくれる!」
命令を受けた赤兎は司までの距離を残り数十メートルと詰めた所で止まり、再度、口にエネルギーを溜め始めた。
「司! 逃げろ!」
司に問いかけるが、司は地面にへたり込み動こうとしない。
「灰となるがいい!」
赤兎は、口に溜めていたエネルギーを光線状にして放つ。
「頼む! 間に合え!」
俺は司を光線からかばおうと飛び掛る。
俺の背後を紙一重の距離で抜け行く光線。そのまま直進した光線は川の水面に直撃し、凄まじい音と水柱を上げる。
「痛っ……秀!?」
司は閉じていたまぶたを上げ、驚いた表情で俺にそう言った。
「俺達、まだ生きてるみたいだな……立てるか?」
司は俺の手に掴まり立ち上がる。
「どうして……」
「……ほら、借りがあっただろ、助けてもらった――だから、これでチャラだからな」
本当は、無我夢中で何も考えてなかったけど……つい虚勢を張ってしまった。
「ふふ、はは……」
司は笑みを浮かべる。
「笑うなよ」
「秀……その……あ、ありがとう……助けてくれて」
消え入りそうな声で、司は俺にそう告げた。
「ん? 何にか言ったか?」
「な、なんでもないわよ!」
少し頬を赤くさせる司。
「隠れても無駄だぞ!」
董島が俺達を探すため赤兎に旋回するよう指示を出す。
今、俺達のいる場所は近くにあるトラックによって、董島からは死角になっている。
司は、深呼吸をすると、自信満々な表情で宣言した。
「……秀、アイツ倒すわよ」
「倒すって……出来るのか?」
「どんなに強い奴にも、必ず弱点はあるものよ」
「弱点?」
「アイツの弱点は、攻撃をする前のエネルギーチャージの時、その時だけ無防備になる。だから、その隙にロケットランチャーを奴の口に打ち込めば倒せるわ」
司は腰に差していた拳銃を取り出し弾倉に弾をこめ始める。
「あたしが奴をひきつけて隙を作る。秀、あんたはロケットランチャーをお願い」
「いや……俺が奴をひきつける。これ以上、司を危険な目にあわせたくない……」
司は俺から目をそらし恥かしそうに言う。
「なっ……ばか……あたしだって……」
「馬鹿はないだろ……」
「う、うるさいわね! とにかく、ロケットランチャーは任せたわよ! 分かった!?」
「わ、分かった……」
何で怒ってるんだよ……
「じゃあ、いくわよ!」
トラックの陰から飛び出そうとする司を呼び止め伝える。
「司、やられるなよ!」
「このあたしがやられるわけ無いでしょ! 人の心配より自分の心配をしなさいよね!」
そう言い残し司はトラックの陰から飛び出す。
「ほら、こっちよ! クソ野朗!」
赤兎に向け、射撃をする司、それに反応し赤兎は司のほうに向かう。
「見つけたぞ! アバズレ!」
俺は司の陽動が成功したのを見届け、ロケットランチャーを取りに全力で走る。
「覚悟しろ、ガキども! 確実にしとめてやる!」
赤兎は再度、上昇し口にエネルギーのチャージを開始、それとほぼ同時に俺はロケットランチャーを回収し構え、集中して狙う。
「お前こそ覚悟しろ! 董島!」
俺は思いっきり引き金を引く。
発射の轟音をかき消すかの如く、赤兎の口めがけて直進するロケット。
「小ざかしい真似を!」
董島はロケットの接近に気づき剣を抜くと、それをロケットに向かい投げ飛ばす。
ロケットの胴体をギリギリでかすめる剣。
外れたかに思えたが、しかし、剣はロケット後部の尾翼に突き刺さり、目標を面前にしてコントロールを失い落下するロケット。
「クソガキ! お前から消してやる!」
董島は赤兎に俺を狙うように指示を出し、赤兎の狙いが俺へと移る。
「秀! 逃げて!」
司は声を張り上げ必死に伝える。
「……逃げるだって、こんなチャンスなのにそりゃねーよ!」
今、赤兎はどうぞ撃って下さいと言わんばかりに大口を開けている! 俺はこの絶好のチャンス――確実にモノにしてやるよ!
迷わず俺は四連ロケットランチャーを構え直す。そして残った最後、一発のロケットに望みを掛け、トリガーを引く。
「行け!」
ロケットは美しい直線状の白煙を引き、赤兎めがけて突き進む。
「残念だったな! ガキ共、これで終わ――」
爆音と共に、火煙に包まれる赤兎と董島。それは、ロケットが命中した何よりの証だった。
「がはぁ……赤兎、反、撃……」
もはや、赤兎に戦意は無くボロきれの様に落ちて行く。
「貴様ら……覚えていろ、必ず、灰に……してやるからな……」
董島は断末魔の如く、そう叫び赤兎と共に川に落下し壮絶な水柱を残して川底へと消えゆく。
俺は構えたロケットランチャーを降ろすと、言い知れぬ高揚感に襲われる。
「やった……倒した! がぁ……」
俺の顔面に麻袋の様な物が覆いかぶさる。
「何だ、これ?」
俺は袋をとり、あけようとするが、気づくと司がこちらに向かい歩いてくるので俺は手を振り、司を呼ぶ。
「おーい、司、俺達やったぞ!」
「馬鹿!」
「な、何だよ……いきなり」
「心配したじゃない!」
潤んだ瞳で訴える司。
「……ゴメン」
はっ! となり後ろを向いてしまう司。
「か、勘違いしないでよね! 別にアンタなんか……でも……」
司は今日、一番の笑みを浮かべ振り向むき……
「ありがとう。秀、おかげで助かったわ」
そう俺に告げた司は、出会ってから今までの中で一番、可愛かった。
「……その袋、どうしたの?」
「ん? ああ、これか……董島を倒した時、一緒に降ってきた」
「貸して!」
司は俺から袋を取り上げ、中身を確認する。
「何すんだよ!」
袋から財布を取り出す司、袋には財布以外は入ってないようだ。
「はい、これ賞金よ」
そう言って、司は財布の中の全額、三万を俺に渡す。
「お、おう……って、ダメだろ!」
俺は三万を司に返そうと、持っている手を見が……
「三万が無い……」
綺麗さっぱり消えていた。ちゃんと握っていたし、落とすはずも無いと思うが……
「な、なあ、司……さっきの三万が……」
俺の話をさえぎるように朝日が俺達を照らす。
「チッ、時間がない。よく聞いて秀、明日また同じ場所、時間に迎えに行くわ。だから、遅刻するんじゃないわよ!」
俺にそう告げると、司の全身が砂状の粒子に変化し、風で飛ばされるようにして、司は消滅する。
「は!?」
俺は驚き、自分の体を確認すると同様に体が、砂状に変わり消えていく。
「うわーーーーっ!」
俺は飛び起き、ソファーから勢いよく落ちる。
「痛って……」
ぶつけた箇所をさすりながら立ち上がり、俺は辺りを見回す。
「やっぱり……あれは、夢だったのか……」
今俺は、リビングにいる。もちろん、壁は破壊されてないし、体もなんとも無い……俺の記憶が正しければ――昨日、求人雑誌を見ながらそのままリビングでうたた寝して今、朝を迎えている……
俺はふと、時計に目を移す。
「九時か……しかし、変な夢だったなぁーーあ!」
しまった……銀行、行かないと金が……
財布を確認するが千円しか入っていない。
「行くか……」
はぁ……早めにバイト探さないと、懐事情がヤバイな。貯金、残り二万ぐらいだったか? 先が思いやられる……などと考えながら俺は身支度を整え、銀行へ向かった。
「えっと――まずは残高……確認するか」
ATMにカードを挿入し残高確認のボタンを押す。
やっぱり……二まん――
「五万!?」
ば、馬鹿なそんなはずは……先週、確認した時は二万だった。そうだ、通帳!
俺はATMからカードを取り出し、代わりに通帳を入れ、通帳記入のボタンを押し排出されるのを待つ。
「まだか……早くしろよ」
クソ、どういう事だ……出た!
「なんだよ……これ……」
通帳には、今日の日付で入金 30,000とあった。
俺には、この額に覚えがある……そう、あの時の――
「まさか――ありえない。そんな事って……」