推理ショー
そして、今日もやってきた夢の世界。
俺達は手っ取り早く金を稼ぐため、昨日司に電話して来た王国軍特務部長に連絡を取り、任務の打診をする。
すると任務内容がメールで送られてくる、内容は司が昨日使用した要塞砲の爆破だ。
賞金は三万と生活のかかった俺達には、少々心もとない額だが、他に当てもないので任務を受ける事にし、各自装備を整え要塞砲へと急行する。
司によると昨日は、アサルトライフルで武装した警備兵が四、五人いたと言うが……
「変ね……警備兵が一人もいない……」
到着すると、司が言ったような警備兵は一人もおらず、俺達は違和感を覚えながらも要塞砲の入り口へと向う。
「二人とも突入するわよ」
「ああ」「うん」
俺達は司を先頭に、入り口のドアを蹴破り突入するが、そこには更に奇妙な光景が広がっていた。
薄暗く、横幅の広い、真っ直ぐに伸びた廊下に、壁には一箇所に集中して撃たれた無数の弾痕とライン状の焦げ跡、そして床には薬きょうが大量に散らばり、さらに俺達の足元は真っ赤に染められていた。
バケツを倒したような、大量の血によって……
「なによ……これ」
「どっ、どうなってる!? 何で血が……この世界では、怪我はしないハズじゃないのか!?」
驚きのあまり俺と司は硬直しているだけであったが、優は血だまりを見ても顔色一つ変えずに言う。
「血はまだ新しいね……それにこの量だったら、まだ生きてるよ」
さすが元少年兵……血には慣れてるって訳か……
俺が感心していると、優は廊下の突き当たりにある医務室と書かれた部屋を指差す。
床を見ると血だまりから、一筋の赤い足跡が点々と伸び、医務室の前で途切れていた。
「二人とも……行くわよ」
俺達は医務室へ、部屋に居るであろう相手に気づかれないよう静かに向い、ドアの手前で立ち止まる。
「二人とも準備して……恐らく、ここを襲撃した人数は単独、スタイルは魔術師と銃使いを持ってるはず」
司はそう言うと、拳銃を取り出す。
「な、なあ……何でそんな事分かるんだよ……」
「そんなの、この廊下の光景を見ればすぐ分かるじゃない――まず、どうして、単独犯か……ここの入り口は、あたし達が突入してきたあそこ一箇所しかないわ。
だから、あの血だまりを踏まなければ先へは進めない、複数犯だったら足跡は無数につくはず、でも足跡は一筋しかなかった。それに、あの弾痕、ほとんどが一箇所に集中して、撃たれていたじゃない?」
優は思い出したように言う。
「そっか……複数犯なら銃撃戦の際に、人数分に分散して弾痕がつくはずだよ。でも、それが一箇所しかないって事は……確かに、単独の可能性が高いね」
「そういう事よ」
司は嘆息し、続ける。
「そして、なぜ魔術師と銃使いのスタイルを持っているか……これはもっと簡単、まず壁のライン状の焦げた跡、あれは魔術師の攻撃魔法によるもの」
「昨日、董島が「攻撃、光」って叫んで、光線を撃ち出したアレか?」
俺の質問に司はうなずき、続ける。
「そう、それよ……そして、ここの警備兵は陸軍所属だから、魔術師のスタイルは持っていないってわけ」
「でも、銃器使いっていう発想はどこから出てきたんだい?」
優がそう問うと、司はおもむろに床に落ちていた三つの薬きょうを拾い話す。
「……22口径ライフル弾、38口径拳銃弾、45口径拳銃弾、以上の三つの薬きょう。ここの警備兵が使用しているのは22口径と38口径だけよ」
「なるほど、残った45口径は外部から持ち込まれた物、つまり、襲撃犯が使用したってわけか……」
「分かったなら、行くわよ」
司はそう言うと、いち早く医務室のドアへと向い、俺と優もそれに続く。
そして、ドアのすぐ右側に司、同じく左側に俺と優というポジションで待機する。
「二人とも、突入のタイミングはあたしが合図する」
司は俺と優に告げると、ドアの下部を蹴る。
蹴った事に反応するが如く、医務室内部から物音がして響く発砲音――刹那、ドアの上部、人の頭ぐらいの位置に風穴が開く。
銃声は数発響くと、急に止まり軽い金属音に変わる。
「今よ! やつの銃は弾が切れたわ!」
司が発した声と同時に俺は医務室に突入し、司と優もそれに続き突入する。
俺の目に真っ先に飛び込んできたのは、血塗れの迷彩服を着てその場にへたり込み、弾の切れた拳銃の引き金を必死に引く人物であった。
「動く――」
衝撃で言葉が出でずに硬直する俺。
俺はこの人物を知っている……なんで……どうして――
そこにいた人物とは……
「朝陽……」
……間違いない……いや、間違えるはずも無い……彼女は今なお意識なく入院しているはずの、俺のいとこ、長久 朝陽その人だ……
「姉貴!?」
俺と同様に、一驚の表情を浮かべ硬直する優。
「……あの階級賞」
司は驚き混じりの声でつぶやくと、俯いて拳を握り締め肩を震わせながら、朝陽へと歩みを進める。
「……やっと見つけた……よくも……よくも、お兄ちゃんを……」
司は朝陽の胸ぐらを掴み、瞳に涙を浮かべ叫ぶ。
「お兄ちゃんに何をしたの! 答えなさい!」
「い、一体どうなっているんだい!?」
優はその姿を見て、驚愕の声を上げるが、俺は状況が飲み込めず声すら出せなかった。
司は涙に咽びながら言う。
「こいつは……あたしの兄である星崎 権護 陸軍総統の部下で……お兄ちゃんが行方不明になるきっかけになった……二ヶ月前の内乱を先導した張本人よ……」




