雨のうた。
十四年前の、ある日のことです。
少女は歌を聞きました。
その頃彼女の暮らしていた、枯れてしまった国の片隅にはひっそりと、寂れて崩れそうな教会があります。そこには希望を捨てきれない人々が隠れ集って、平和を夢見ながら歌をうたっていたのでした。
少女はそれまで歌と言うものを聞いたことも、もちろん歌ったこともなかったので、その旋律はとても不思議なもののように思えました。
少女の名はテトラと言います。
それは仮初めの名でしたが、彼女の大好きな人間がつけてくれた大切な呼び名でした。
テトラが聞いたそれは賛美歌で、後にそれと自分の生きる道との溝に笑いさえ込み上げることになるのですが、まだ幼かった彼女はそんなこと知りません。
テトラはその賛美歌が気に入ってしまったので、何度か通ううちにすっかり覚えてしまいました。
歌詞の意味はわかりませんでしたが(知らない国の言葉だったのですから)、気付けば口ずさむ事が多くなっていたのです。
そんなことが続いていたある雨の日、テトラは“彼女”に出会いました。正確には、テトラが彼女を見つけたのです。
テトラは彼女に問いました。共に生きる気はあるか、否か。
(テトラは不思議な子供だったのです。その幼さには似付かわしくないほど、世のことわりを知っていました。“彼女”を見つけたとき、そこに訪れる運命は生か死の二択であることを知っていたのです)
そして二人の少女は、同じ世界で生きてゆくことになりました。終止符が打たれるその瞬間まで、たった一つの約束を胸に秘めながら。
( この雨に、 誓うよ )