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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第四章《慟哭》
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第四章《慟哭》:装填(2)

ジェミニカ・アルファーナ。名乗った女は身を屈めて千瀬に目線を合わせると、にこやかに手を握った。

千瀬はそれに会釈を返しつつ僅かに首を傾げる。


(アルファーナ?)


何処かで聞いた覚えのある音だ、と思った。はて、一体なんだったろう?

元来良くはない自らの記憶力を恨めしく思っていると、突如千瀬の背後から新たな声が聞こえた。


「あーあ……」


ふいに響いたその悲痛な音に振り返ってみれば、千瀬の目に入ったのは黒一色だった。アジア系のそれとは違う、深い黒を湛えた長い髪――言わずもがな、その持ち主はルカである。

ルカは骸と化した男をひらりと跨ぎ、先刻の銃の爆発現場を覗き込んだ。正確には一緒に爆ぜてしまった廊下を、だが。


「ジェミニカったら、室内でこれやるのはやめてって言ってたのに……」


もぉ、と冗談めかして頬を膨らませながら少女は言う。その様子に千瀬は目を瞠ってしまった。

ひび割れて僅かに落ち窪んだ廊下を撫でているルカに、女は――ジェミニカは、からからと笑ってみせた。


「人命最優先じゃない、ほら。まぁ困るのはグレッタぐらいだし、良いじゃない」

「そうだけど……」

「あ、もしかして知らない? ミス・グレッタっていうのはうち専属の事務員よ。言わば掃除のオバサンね」


状況を飲み込めていない千瀬の様子を勘違いしたのか、ジェミニカがピント外れの説明を入れる。しかしそのお陰で、千瀬の抱く疑問のうち一つが解消されたのだった。

確かに千瀬は何度か、白髪の老婆が廊下を徘徊しているのを見たことがあった。あれがグレッタか、と一人納得する。


(いつも片手に箒を持ってて――じゃなくて、)


待て待て問題はそこではない、千瀬はズレかけた思考ベクトルを無理矢理修正する。

今最優先すべき事柄は、ジェミニカとは何者か、なのだから。


「あぁ、ジェミニカ。紹介するわね、この子がチトセよ」


思い出したようにルカがぽんと手を打った。

それを聞いたジェミニカは納得したように『あぁ』と呟く。


「噂の“クロヌマ”? どーりで腕が良いと思ったんだ。大変ねぇ、まだ若いのに」

「?」


小首を傾げる千瀬に、ジェミニカは人好きのする笑みを浮かべてみせた。小さな子供にするように頭に手を乗せてられて、千瀬はくすぐったい思いをする。


「それからチトセ。この人はジェミニカ・アルファーナ。私が迎えに行ってきたの」


ルカが千瀬のほうに向き直る。次の瞬間、形の良い薄い桃色の唇が全ての答えを紡ぎ出した。


「〈マーダラー〉よ」

「……マ、」


千瀬はぽかんとジェミニカを仰ぎ見た。同時に、彼女の名を何処で聞いたのかを思い出す。

デューイだ、先日千瀬と行動を共にした《ポート》のデューイ・マクスウェル。彼の出会ったと言っていた――。


(――四人目、)


以前駿が、〈マーダラー〉は四人だと言っていたのを思い出す。

ミクと恭吾とルードと。つまりこのジェミニカ・アルファーナが、四人目――最後の一人、ということなのだろう。

するとやはり先程の爆発は、このジェミニカの仕業なのかもしれないと千瀬は考えた。〈マーダラー〉の不思議な能力の存在に、もう十分に千瀬は順応しているのである。受け入れることは容易かった。(これはきっとルードの存在が大きいのだろう。)


外回りの多い、四人目の〈マーダラー〉が帰還した。わざわざルカが迎えに出向いたのだという。――これが何を示すのか。

嫌な感じだ、と千瀬は思う。徐々に集結してゆく戦力は、装填されてゆく銃弾を連想させた。発射されるのは、いつ?


「ロヴが」


突如ルカが囁いた。丸い瞳を僅かに細め、何処か遠くを見つめるような仕草をする。


「――ロヴが呼んでる」

「え……?」


警報が鳴ったわけでも、無線のやりとりをしたわけでもない。千瀬はただ首を傾げた。

ルカの様子を無言で眺めていたジェミニカが一つ頷くと、ついと踵を返す。


「――行こう。チトセ、あなたもね」


最後に千瀬が振り返った先には、男達の死体を“掃除”しようと遠くからゆっくり歩んでくるグレッタの姿が見えた。





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