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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第三章《はじまり》
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挿話

青年は悩んでいた。



青年はとある組織にその身を置いている。組織は若干――否、かなり特別な環境下に置かれているため、平和維持を掲げて昼夜問わず活動しているのだが、その存在が表に出ることは無に等しかった。


青年はこの組織では幹部格にあたる。

幹部といえども一般企業などで展開されるようなデスクワークとは無縁だった。

この特別な環境では地位の高いものほどそれ相応の実力があることが常で、即ちフィールドワークに適していることを示す。それはここで言う“実力”が世間一般の意味とは違い、純粋に文字どおりの“力”――肉体を駆使する、暴力的な意味合いを兼ねて――であることが原因だろう。そう、ここはそういう“力”が必要な場所なのだ。


さてもうご理解戴けたことだろう、ここは普通の平和維持組織などではない。世界で唯一、武力によって世の中の不穏因子を抹消せんと日々活動している。普通の家庭に生まれて常識の範囲内で一生を終える人間には全く縁の無い、存在すら知られることの無い場所であった。名を、煉獄カーマロカという。


さて幹部であるからには青年自身、それ相応の実力を有している。射撃の腕前や体力には自信もあるのだが、それはやはり“通常の人間と比べて”にすぎなかった。彼の上司には到底及ばない。


冒頭の通り、青年は悩んでいた。正確には悩まされていた。原因はただ一つ、まさにその上司にあたる少年のことである。

先日とある街で一仕事あって以来どうにも、様子がおかしい。

恒常的に仕事意識の低い子供ではあったが、いざ本番となると嬉々として相手を追い詰めていたのに(それはそれで問題あるのだけれども)ここ数日はそれにさえ興味を失ったのか、本部である屋敷に籠もって出てこない。二人の従者をぴったり侍らせておきながら、当の本人は何をすることもなく窓の外を眺めていたりする。


どうにかせねばならない、と青年は思った。彼は真面目な性格ゆえ、自らの仕事には責任を持ち信じる正義を尊んでいる。彼の仕事には少年の力が必要不可欠なのだ、認めるのは癪だが。


「こんにちは、サブナック」


思考の海にどっぷり浸かっていた青年は、突如聞こえた声にぎょっと体を強ばらせた。何時の間にこんなところまで来ていたのか、少年を捜すうちに屋敷の奥まで入り込んでいたらしい。


「……ウォルディ閣下」


サブナックは渋々、目の前に立つ人物の名を口にした。無視するわけにもゆくまい、相手はサブナックよりひいては彼の上司――ユリシーズよりも更に高い地位につく者なのだから。


「久しぶりだね」


ウォルディと呼ばれた彼は小さな笑みを浮かべた。物腰柔らかな態度が親しみを覚えるが、やはりサブナックは緊張を解くことができずにいる。それはこのウォルディというまだ年若い少年の身分が、あまりにも青年と違っているからだった。

――ウォルディ・レノ・ファンダルス、御歳十八。予定通りならば、この組織の次期当主である。


カーマロカにはある決まりごとがあり、組織内地位のピラミッドの天頂部のみ、その法則に則って構成されている。それ以下は先刻述べたとおりの実力順だ。

つまり天頂に組み込まれているウォルディとサブナックでは、生きる世界が違うのであった。


「ユリシーズを捜してるのかい」

「ええ、まぁ」


年齢に似付かわしくない落ち着いた声色でウォルディが問う。逆にサブナックは落ち着かぬ気持ちで視線を地に落としながら、心中でユリシーズに悪態を吐いた。

貴族のような衣服に身を包んだウォルディはさながら貴公子のようであったので、年中スーツのサブナックは余計肩身の狭い思いをする。


「ユリシーズならアイジャに捕まってる。当分は無理だよ」

「はぁ」


やんわりと追い返される形になりながら、はて、とサブナックは首を傾げた。

実力順で今の地位をもぎ取ったはずの恐るべし少年上司が、別世界の住人であるウォルディ閣下やアイジャ殿下とやけに親密なのはどういうわけか。


青年は悩んでいた。彼には、ユリシーズという少年のことが何一つわからなかったのである。

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