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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第一章《始動》
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第一章《始動》:EPPC(1)

微かな黴の臭いが鼻についた。重たい扉を開いたその奥は薄暗く、空気も心なしか淀んでいるように感じる。

千瀬は小さく息を吸い込むと、ゆっくりと部屋の中へ体を滑り込ませた。


「あなたがチトセ?」


突如耳元で聞こえた声に千瀬は体を強ばらせる。恐る恐る横に目をやれば、一人の少女が千瀬を見つめているのだった。

――近い。少女の鼻先から千瀬の顔まで、僅か十センチ程の隙間しか開いてない。少女の気配を全く感じなかったことに驚いた千瀬が目を丸くすると、相手は人好きのする笑みをにこりと浮かべてみせた。


「シュン! 早くっ!! チトセが来たよ」


少女は後方へ向かってそう叫ぶと千瀬の手を握る。白くて華奢な指先が遠慮なく千瀬の掌を包み込み、そのまま勢い良くぶんぶんと振られる。


「あたしは、ロザリー・エレクトラ・ウィルヘルム。皆はローザって呼ぶよ」


よろしくね、と少女――ロザリーは屈託のない笑みを浮かべた。高い位置でツインテールにされたプラチナブロンドの髪がふわふわと揺れる。同じ色の睫毛に縁取られた大きな瞳は薄い青、肌は抜けるように白い。しかしどこからどう見ても西洋人の彼女から紡がれた言葉は流暢な日本語で、千瀬は再び目を見開く。


「で、あっちがシュン」


息つく間もなく喋り続ける少女の指差したほうを見ると、緩慢な動きで一人の少年がやってきた。


「どーも。武藤 駿デス」


シュンと呼ばれた彼は無造作に伸ばされた黒髪を掻き上げながら欠伸を一つ零した。さして興味もない様子でに千瀬の事を見下ろしながら、お前が新入りかと尋ねる。

千瀬が小さく頷いたのを見ると、駿はその場にあぐらをかいて座り込んだ。


「ふぅん。で、お前は何したわけ?」

「ちょっとぉ、シュンってばいきなりー」


手を伸ばして咎めるロザリーを欝陶しそうしに避けながら、駿は目だけで千瀬に答えを促した。質問の意図がわかってしまった千瀬は、それを躊躇う事無く口にする。


「……殺し」

「だろーな。センコー? ダチ? 親か?」

「親類……ほぼ全部」


千瀬が静かに答えると、駿はそうかと頷いて笑う。それがかひどく真直ぐな笑みで、なんだか千瀬は彼から目が離せなかった。


「《スローター》へようこそ、黒沼千瀬。俺たちがお前の当座の教育係だ」


ぱちぱちと、隣でロザリーが無邪気に拍手を送っていた。スローター? と首を傾げた千瀬に、あとで教えてやるよと駿が言う。


「お前、歳いくつ?」

「十三……違う、十四」

「あたしと同じだぁ!」


嬉しそうにはしゃぐロザリーを駿が押さえ付けて黙らせる。聞けば彼のほうは十七歳、歳が近いからこそ二人が千瀬の教育係に選ばれたのだろう。

教育、といっても千瀬には何を教わるのか皆目見当が付かなかったのだが。


「じゃあまず、面子の紹介からいこうか」


駿が部屋の奥に視線を向ける。千瀬は今になってはじめて、この部屋の中に他にも人間がいることに気付いた。


少女達が今いるこの場所は四方から灰色の壁に囲まれ、天窓が一つしかない。全体を見ればかなりの空間があるのだが、酷く圧迫感があった。部屋と言うのにもいささか語弊があるかもしれない――まるで、牢獄のようなのだ。

全ての壁の前には大量のガラクタ(一見して粗大ゴミのようだ)が積み上げてあり、それに紛れてしっかりしたベッドやソファーが置かれている。


そのソファーや、ベッドや、あるいはガラクタの山の上。めいめいに腰掛けている、いくつかの人影に千瀬は気が付いたのである。



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