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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第六章《輪廻》
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第六章《輪廻》:かの少年のスーベニア(B)

* *




ふざけんな。なんだよ、ふざけんなよ。

心の中で強く駿は叫ぶ。


(これは、一体、…………くそ、)


ミクから強制的に送り込まれてくる記憶は全員が同じものを見ているのか、各々がそれぞれ適当なものを見ているのかわからない。見るものを選ぶことなどできようもないので、これは正しく現実に戻ったら全員が内容を摺合せる必要がありそうだ。

たとえばレックスやエヴィルにとっては懐かしいと感じる記憶も混じっているのだろう。しかし駿にとっては過去の一場面としてただひたすらに流れて行く情景の、その一つ一つが信じがたい内容ばかり。文句を言う暇すら与えられない。過去の登場人物たちは、映画のフィルムと同じように既に過ぎ去った現実だけを突き付けてくる。


(ルカが、なんだって?)


未だに少女のような幼さの残る彼女の細い身体のなかに、とてつもなく強大な力が眠っていることを勿論駿も知っている。

悪魔と言われた子供だったことも。幼少の折、街をひとつ滅ぼしていることも。それが幼さゆえの能力の暴発であることだって聞いていた。


(身体が、もたない?)


真にルカを悪魔たらしめているものは彼女自身ではない。その身体に巣食う化け物じみたあの能力こそが悪魔であり、ルカはその宿主だ。それはルシファーにいて、実際のルカ・ハーベントと言葉を交わし日々を過ごせば誰もが感じることであった。

かといって、彼女が幼少期のように力をもてあまし制御を失っているのかと言えばそれは否だ。ルカは己の力を自在に引き出し、操り、敵には容赦なくその刃を突き付ける。組織最強の死刑執行人(ハングマン)――。


だがその小さな身体の内側から、飼い慣らされることのない何かが少しずつ彼女を蝕んでいたとしたら?

――そんなふざけたことがあっていいものか。血が滲むほど強く唇を噛み締めた駿の目の前で、また場面が変わる。




**




「お前達。それで世に出ていけると思うなよ、社会に適応するってのが何だかわかっちゃいない」


穏やかな、けれどきっぱりとした男の声がした。教育時における大人の声色である。場面転換にくらりと視界の揺れた駿が目を凝らせば、数秒前に吐血していたとは思えぬしゃんとした身なりのグラモアが、子供たちに囲まれて立っていた。

時間軸が多少前に巻き戻っているのか、病を見せぬ立ち振舞いをしているのか、医学知識のない駿にはわからない。


「………適応する必要、あるか」


ぼそりと呟く少年はエヴィルだ。目付きの悪さは変わらないが、輪郭にまだ残る丸みが幼さを示している。

彼の着ている――というより、おそらくは着せられている――服を含め、全員随分と立派な身なりだ。グラモアもロヴももとより上質なものを着ていたが、これまで以上と言っていい。

そう、まるで今から、パーティーにでも参加しそうな。


「表社会だろうが裏社会だろうが、身のこなしってのは大切だ。組織の立ち上げ考えてるんだろう、必須だぞ? 練習だ、俺が社交界デビューさせてやる。」


そう宣言したグラモアに連れられて子供たちが眩い広間に連れていかれるのを、駿は目を白黒させながら眺めていた。なんだこれは。あまりにも華やかな世界に先程までとは違う意味で驚愕する。

所謂貴族たちの社交場にグラモアの親族として参加している――ということらしいが、社会不適合もいいところの一団に対してずいぶん思いきりの良いことをするものである。


(俺なら絶対ボロが出る。無理)


上品な服を身にまとい、きらびやかなライトに照らされて扇片手に美辞麗句。人脈作りと酒と金、思惑渦巻く大人の社交場。子供達は後々素性が割れては困るので、グラモアから仮の名前を一人一人与えられているようだ。

ただでさえ口下手な駿は数分でもこんな場に耐えられないが、当時の彼らも同じであったらしい。今現在はどうだかわからないが、この時は全員幼い子供だ。そつなく挨拶や会話ができていたのはロヴだけで、残りは飾り物のように全員壁際に貼り付いている。とくにレックスなど心の底から肩身が狭そうで、過去の事柄ながら同情してしまった。子供の時分の性格がどの程度反映されているかは定かではないが、今の彼を思えばこの空間はさぞ以後ことが悪かったことだろう。


(あれ、)


と、駿の視界の端で白いものが動いた。ふわふわヒラヒラ純白のドレスに飾り立てられていたルカである。幾重にも重なったフリルのワンピースと頭部の派手なボンネットで身体の殆どが覆われているが、溢れ落ちる黒髪とのコントラストが一際目を引いてアンティーク・ドールそのものといった風体だ。

いくらその中身が悪魔と呼ばれていようと、口を噤んで目ばかりが大きい幼女は見目だけは極上である。暇をもて余した参加者の興味をひくのも仕方のないことなのだろう。中年の男に声をかけられたらしいルカは本人も退屈していたのか、あっさりと手を引かれて男についてゆく。


(おいおい)


そんなに簡単に仲間から離れんなよ。過去の映像とわかっていながらついつい駿は心配になって幼女の行方を目で追った。

メインの会場から離れて人気のないところまで来ると、男はルカに目線を合わせて屈み込み何やら話しかけているようだ。声は聞こえないが、ちらちらと浮かぶ下卑た笑顔が駿の不安を一層煽る。これはなんだか良くない予感がする――思った瞬間、男の手がルカの頬を撫でた。


(おいおいおい)


耳朶から顎を伝って首筋までゆっくりと掌が滑り落ちて行く。何を意図した接触なのかわからないのだろう、不思議そうに僅かに首を傾げた折、黒髪の隙間から細くて白い首筋が覗いた。粘り気を纏ったような視線がその肌を舐めるように動くのを駿は見た。そして次の瞬間には、声も上げずされるがままになっている少女の唇を男の親指が柔らかく押す。


(おいおいおいおいおい)


ふざけんなちょっと待て―――何一つ届かないことを忘れて駿は男を引き剥がそうと二人の方に駆け出した。これはダメだ。なにがとは言わないが駄目なやつだ。

いつの間にか男の手は分厚くフリルの重なったスカートをたくしあげている。このロリコン野郎、叫んだ声が聞こえるはずもなかったが、そのタイミングで男が何かを呟いた。ルカが僅かに反応する。ゆるり、瞬きをひとつ。


――ぱんっ。


次の瞬間、風船を針で突いたように突然男の首から上が破裂して辺り一面に真っ赤な液体が飛び散った。至近距離でそれを受けたルカは頭からしとどに血液を被りぐっしょりと濡れている。

唐突な惨劇に駿は目を白黒させた。何が起こったのか全くわからない。銃声も聞こえなければ爆発物が投げ込まれた様子もない。わかるのはただ少女に無体を働いた男の頭が弾け飛んだという事実だけ。

そこに、するりと少年の影が現れる。


「うん、遅かったか」

(本当におせーよ!)


どこから見ていたのかはわからないが、ルカを追ってきたらしいロヴに駿は心の底から渾身の突っ込みを入れた。


「俺が殺すつもりだったが先を越されたな……ルカ、もう少し綺麗に始末しないと後片付けが大変だ」

「うん……? そっか……今、食べさせる」


頷いた子供の足元が淡く光り、ずるりと影が滑り出た。暗がりではっきりとは見えないが、ルカの身体に眠る例の異能であることは間違いないだろう。水、などと千瀬は呼んでいたがそんな清らかな物ではないことだけは一目瞭然だ。それはぬるりと音もなく床を這って、倒れた死体を飲み込んでゆく。飛び散った血液も同時に吸収しているらしく、それが通ったあとは元通り綺麗な床が残されただけだった。


「あとはその汚れたドレスもどうにかしなくちゃ……洋服の血も吸えるかい?」

「試してみる」

「――待て、ルー、ロヴ」


ルカの肩がぴくりと跳ねた。あまり表情の起伏がない彼女の顔が、一瞬翳りを見せた事に駿は驚く。ロヴはもともと声の持ち主が近付いてきていたことに気付いていたのだろう。


「グラモア……」


ルカがさっと己の影の中に異能を隠したのを見て、見られたくなかったのだろうと駿は悟った。


「ごめん、なさい」

「ルー、謝らなくていい。だが教えてくれ。なんで殺した?」

「……、」


少女の視線が微かに彷徨う。小さな唇を僅かに開き、閉じ、また開き、それでも声が出てこないのを老人は辛抱強く待っていた。叱られた子供と反省を促す教育者の姿そのものだ。背景がこんなに血生臭くなければ、の話であるが。


「……このひとグラモアのこと、好きじゃないってゆうから」


え、そっち?

漸く話を始めたルカの、その解答は想像の方向から完全にずれていた。一人突っ込みを入れた駿の後ろでロヴ少年が同じ言葉を呟いている。


「……もっと他に理由あるはと思ったんだけどな」

「ロヴ、一回黙っていろ。ルー、続けなさい」

「グラモアのことが好きじゃないなら、味方にはならない。 グラモアの敵ならこのひとは、私たちの敵」


ぶっ飛び理論である。幼い子の少女の世界はどうやら敵か味方かの2択に完全分割されているらしい。

それはある意味真理かもしれないと駿は思った。しかし社会においては、敵イコール即排除、では立ち行かぬことのほうが多い。そもそも排除できる力がある者のほうが少ないから、表面だけでもうまく立ち回る術を誰もが必要に迫られて獲得するのである――――その力、を最初から有している子供にとっては、理解が難しいのも仕方のないことなのかも知れなかった。


「……今回はルカが早かっただけで、俺もこいつは消すべきだと思ったけどな」


グラモアが深い溜息を吐いたのと同時に黙っていろと言われたはずの少年が口を出す。そもそも彼に、誰かに従うという考えはない。グラモアもそれは十分わかっているようだった。


「おいおい、今日は勉強に来たんだろう。お前ちゃんと一般人に擬態する気あるか?」

「……グラモア。あんたもさっきのを見ていたら、殺せって言うと思うよ」

「あ?」

「俺が来たときにはその男がドレスをたくしあげて、ルカの太股の当たりに――――」

「よし殺せ」


重低音だった。温和な雰囲気を終ぞ崩さなかったはずの老人の目が一気に剣呑な光を帯びる。

アンタ締まらないなぁ、と声を洩らしてロヴは笑った。


「そういうことなら仕方ない……いや、仕方ないって言ったらお前たちの役に立たないんだが。そうだな、ルー、これからナイフを携帯しなさい」


教育の方向性が完全に変わった。これアリなのか? 呟く駿の声に答えてくれる者は誰もいない。


「良いか、無闇に力を使うな。必要のある殺しかを考えろ。排除することを当たり前だと思うな。わかりあえなくてもいい。周りの人間なんて小蠅みたいなもんだろう、それでも良いんだ。だが、駆除する必要性をしっかり考えろ。見逃したり、許容することを覚えろ。許容できないと思ったら、必要だと思ったら、今度は殺し方を考えろ」


簡単に力を使うな。まずは銃やナイフや毒に頼れ。殺傷力の高い武器はこの世にごまんとあるし、必要ならば手に入れてやる。その特別な力は、とっておけ。

執拗に、少女の身体に刻み込むように男は繰り返した。


「最初はそれだけで良い、それは必ずお前の助けになるから」


やはり、と駿は思う。グラモアは確信しているのだ――いつかこの少女の身に起こることを。むやみに力を解放せず、コントロールさせることをこの時から教えようとしている。それはひとえに未来のいつか、酷使された彼女の身体が限界を迎えることを避けるため。可能な限りそれを先のことにするため。


「そうだな、力を使って殺すかどうかはロヴに判断させるといい。組織を作ったらこいつかお前達のボスなんだろう。仕事として必要なときだけにするんだ。ロヴ、お前もちゃんとそれを見極めろ」

「ああ」

「どうして、そんなことをゆうの?」

「それはな、ルー。俺がお前を、お前達を大切だと思ってるからさ。大切な奴には生きていて欲しいと思う。この世界で、俺はお前に生き抜いて欲しい。俺が死んだそのあとも、ずっとな」


その時ルカはこの老人の教えを、この世界で人に混じって生きるために必要なアドバイスだと解釈したことだろう。『能力を使うな』よりは『武器を使え』が重要な教えなのだと捉えた。武器同士の戦いならば、それは人と人の戦いになる。未知の力で薙ぎ払うより、人の領分で武力を行使したほうが社会においては事がスムーズにいくのは間違いないからだ。

……だからルカは《ルシファー》で【ハングマン】の立ち位置にいても、自分自身が戦地に赴くことはほとんどない。だから駿達、武器を扱うヒトの【ソルジャー】がいて、それを率いる立場に収まっているのだ。


ルカは思いもしなかっただろう。彼の本意がその言葉のまま――彼女の命を伸ばすためにあったということに。

生きていて欲しいと、願われていたことに。


「約束、できるか」


そんな純粋な祈りが、自分の命に向けられていたことに。


「…………わかった。やくそく」


ルカは殺さない。仕事と必要で判断されなければ、ロヴの役に立つと思わなければ、その能力を私情でふるう事はない。

ルカは、今でもその約束を守っている。


グラモアの本当の願いは、彼女には届いていない。




* * *





気付いた時、駿は背中に一つのぬくもりを感じていた。振り返れば艶やかな黒髪と、自分の方よりも低い位置につむじが見える。……千瀬の頭だ。


「揃った、みたいだな」


聞こえたのはエヴィルの声だ。

いつの間にか現実に戻ったのかとも思ったが、顔を上げればまだ視界には子供姿のロヴがいて未だ彼の記憶の中にいるのだと知る。どういうわけか、ここにきて『視聴者』は一か所に集まることになったらしい。千瀬だけではなく他のメンバーも同じ空間にいて、何人かは急な変化に首を傾げていた。


「俺たち、今まで全員同じものを見てきたのか?」


状況を把握しているであろう、この映像の投影源である男を駿は仰ぎ見た。


「――いや。効率化を図った。全員に同じ情報量を流すとお前たちは脳の処理が追いつかなくなるから、説明の面倒な昔話だけ選んで見せた」


お前たち、と言って視線で示されたのは駿とロザリー、そして千瀬の3人だ。異能者とは脳の作りにも差があるのだろうか。なんか納得、とぼやいたのは千瀬である。


「足りない部分は俺たちの口から説明する。どこまで理解した?」

「……ルカは、このままではその能力に身体が耐え切れなくなって死ぬ」


躊躇ったが、そのまま言い切った。視界の端でロザリーがぎゅっとスカートの裾を握りしめたが、何も言わない。それは純然たる事実として全員の目の前に転がっていた。


「ロヴだけがそれを知っていたってことか?」

「……いや、」


エヴィルがそのまま続けた言葉に3人は目を見開く。


「ルカにいつか限界が来ることはわかっていた。ルカ自身も、気付いていたはずだ」

「え……?」

「トリクオーテであいつの力が暴発した時……内臓が傷ついて、たくさん血を吐いて。体温が下がって数日戻らなかった。俺とミクとロヴと、力を注いで何とか繋ぎ止めて…それでもひと月は危ない状態が続いていた。そういう諸刃の力だと知っていたし、単純に力を使うだけでも少しずつ命を削っているのがわかった」


何度か聞いた事故の、そのとんでもない後日談に千瀬が絶句する。


「ルカは成長するとともに能力の扱いもうまくなっていった。でも同時に、能力自体も少しずつより強固になっているようだった。いくら化け物じみた力があっても……その入れ物になっている身体は人間の女のもので、命は有限だ。消耗は避けることはできない。少しずつ、削られていく」

「……わかってて、」

「ルカが自分でそれに気付いたのは正確にはいつかはわからないが……その後も自分の命に頓着するそぶりはなかったな。窘めても無駄だった――今の様子を見ればわかると思うが、必要と判断すれば躊躇いなく力を使っている。ただ、万が一の時の対策を取ってほしいと、俺達に言うようになった」

「万が一?」 


一つ頷いてエヴィルは目を伏せる。


「もしも次に暴発するようなことがあったら、自分ではこの力を止められないから――『私を殺すための準備をしておいて』と、あいつは言った」


ギリリと拳を握りしめる音はゾラのものだ。冗談でも言おうものなら即刻その首を跳ね飛ばすことも辞さないような殺気を纏って、それでも彼女が黙っているのはそれが真実だからだろう。

駿や千瀬が目にすることのなかった回想で、ゾラはその瞬間を目にしたに違いない。


「そして“ここ”が、そのための施設」


囁くように告げるミクは僅かに目を細めて今より二回り以上小さい、映像でしかないロヴの背中を見つめていた。はっと気づいたように顔を上げた恭吾がぐるりと周囲を見回した。巨大な嵌め込みガラスの向こうには試験管のような形をした大きな水槽がいくつも並んでいて、何かを作っている場所のように見える。

培養、と表現すべきかもしれなかった。


「これは――ここが、“研究所”なのか……?」


その単語に聞き覚えがあったのか、ゾラもまた鋭い目線をロヴに送る。少年はこちらに背を向けたまま、なにか小難しい論文と照らし合わせて複雑な機械を操作しているようだった。

研究所、と聞いて駿と千瀬は首を傾げる。どこかで聞いたような気がするが思い出せない。ので、仕方なく千瀬が質問することにした。


「あの……」


――――しかしそれは唐突に表れた存在に遮られる。



『――ロヴがここで何をしているのか、教えてやろうか?』



それは幼い少女の声だった。

話しかけられた? 起こりうるはずのない事に千瀬は混乱する。一瞬ロヴが喋ったのかとも思ったがそんなはずはない。

過去の、干渉できない映像のはずなのに、それはまるで千瀬の思考を読んだかのように語りかけてくる。


『そんなに驚いた顔をするなよ。皆私の事はしっているんじゃないのか?』


その場にいた全員が驚愕に目を見開く中で、少女はくすくすと笑った。

現れた彼女はまるで最初からそこにいたかのように膝を抱えて座ったまま、壁に身体を預けている。白いラフな作りのノースリーブのワンピース。そこから伸びた手足は日に全く当たっていないのだろうか、透けるような色をしていた。


「え……?」


千瀬は少女の顔に見覚えがあった。見覚えどころの話ではなく、渦中の人物そのものである。

ただし目の前の子どもは記憶の彼女よりもかなり幼く、どちらかといえばちょうど今まで見せられていた――追憶の中の少女に近い。それに、なによりも。


「ルカ……?」


疑問符に満ちた問いかけになったのには理由がある。

――少女は真っ白だった。それは洋服や肌の色の印象だけの話ではない。

どう見ても幼き日のルカそのものの顔をした彼女の、肩よりも長く伸びた特徴あるはずの髪色が完全に抜け落ちているのだ。エヴィルの銀髪とも違う、完全な純白。ルカと言えば真っ先に思い浮かぶその黒色が、綺麗に反転されたかのようにどこにも存在していない。


「……お前、何なんだ」

『誰だと思う?』


真っ白な『ルカ・ハーベント』は駿の不躾な問いかけにも小首を傾げ可笑しそうに微笑む。


少女のその瞳の色だけは、燃えるように赤かった。



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