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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第六章《輪廻》
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第六章《輪廻》:神みつる場所(1)

長く間が空いてしまいましたすみせん…これからはラストまでテンポ良く進みたい所存。

――ロアル・エレクトラ・ウィルヘルムは制限型の能力者である。


その異能の発言に必要なのは、先祖代々伝えられる呪の込められたブレスレットだ。腕に感じる冷たい感触に意識を集中させれば、感覚が研ぎ澄まされていくのがよくわかる――これを身に付けて初めて、ロアルは先読みの力を使用することができるのだった。

先祖の教えに従っていただけの彼女に、ブレスレットがどうして必要なのかは最早わからない。ゾラによれば精神統一の効果と、特殊な金属が体内の気脈を整える役割を果たしている可能性があるらしいのだが。


「それじゃあ――はじめます」


千瀬と百瀬、駿、ゾラ、そしてロザリーが見守る中、ロアルはその白い手をすっと前に突き出した。

手首で輝く銀の鎖がしゃらんと音を立てると同時に、場の空気がぴんと張りつめる。

部屋の温度が下がったのを肌で感じて千瀬は息を飲んだ。ロアルがとても神聖で、不可侵な存在に思える。


「ローザ」

「うん」


姉の呼び声に応えたロザリーが音もなく立ち上がると、手にした小さなナイフの刃をロアルの手の甲に押し当てた。ぷつ、鈍い音と共にできた細い傷から、真っ赤な血液が一滴床へと零れ落ちる。

それを確認したロザリーは続けて己の腕にも躊躇いなく傷をつけた。ぽたり、と滴る姉妹の血。


「な……っ、何してるんですか!?」


ウィルヘルム姉妹の行為に驚愕した千瀬が声を上げるが、それはゾラに押し止められる。


「黙ってて――予見には一族の血を媒体にする必要があるそうだよ。少量だから大丈夫。ただあの姉妹はロシア人の父を持つハーフなんだ。ギリシアの、一族の血は半分しか入ってない。だから予見の精度を上げるために、ロザリーの血も足して力を底上げしてる」

「だからってあんな痛そうなこと……あっ、」


瞬間、目の前に広がった光景に千瀬は言葉を途切れさせた。

二人の血が落下した場所を中心にして床が薄赤く発光する。目を凝らせばいつの間にかそこに、魔法陣のようなものが現れているのだとわかった。


「これで準備は完了です。……モモセ、」


ロアルに促され、百瀬は胸に抱えていたものを差し出した。実家から持ち帰った“黒縄の指南書”である。

女郎花について探るには、何か縁の強いものがあったほうが正しい情報に辿り着ける可能性が高い。指南書はそのために利用するのだ。


「……はい、これ……」

「うん、借りるわね。――ゾラさん」

「何だい」


指先で指南書を撫でるようにしながら、ロアルが静かに言葉を紡ぐ。


「私の力では、女郎花そのものの居場所を突き止めることはできません。“見る側”より“見られる側”の能力が大きい場合力は跳ね返されてしまうし、逆に相手にはこちらのことがわかってしまう。女郎花の支配下の領域にいるなら、ロヴさんの居場所を探知することも難しいかと――」

「ああ。だから今回は女郎花を直に探そうってわけじゃない……見つけたいのは“関係者”だ」

「関係者?」


首を傾げた千瀬にゾラは頷いてみせる。


「女郎花の口振りからして、奴と黒沼の因縁について知っている存在は他にも、複数いるんだよ。あの尾花って婆さんもそのうちの一人だろう。尾花は傍観者を気取ってたけど――僕達に協力してくれる奴だっているかもしれない」

「そんなにうまく…助けてくれるでしょうか……」

「可能性は高いと思うよ。尾花ですら己の存在を明るみにし、指南書を此方に渡してくれただろ? たぶん――ずっと待ってたんだ。“黒縄”なる存在と女郎花の関係に決着がつくのを」


ゾラの言葉を聞いたロアルは静かに瞬きをすると、手にした指南書を額に押し付ける。

祈るような、願うような仕草。一つ、二つ、三つ、数えるように深く呼吸を繰り返し―――――瞬間、彼女の身体は白い光に覆われた。




* * *




「おい………おいおい。いい加減にしろよ」


腕を組んで車内に鎮座した駿は、額に青筋を浮かべかけている。この状況を見れば無理もないかもしれない。


「な………っんでまた逆戻り!?」

「うるさいわめくな」


捨てていくよ。ゾラに冷たく切り捨てられて渋々口を噤むも、駿の不服そうな表情は変わらない。そんな彼を見て千瀬は心の中で謝罪した。

――逆戻り、という駿の言は現状を言い表すに実に適切である。そう、一同は再び千瀬の生まれ育った地――上水流町へ向かっているのだ。それも全ては、ロアルの予見が齎した結果である。

危険性を考え、ロアルと百瀬は本部へ置いてきた。その護衛としてロザリーも留守番だ。その代わりに車に乗り込んだのは――――


「良いじゃない。私は楽しいよ」


――と笑う、ルカ・ハーベントその人である。


「僕も前回よりは愉しいね。ルカとドライブができるのは悪くない」

「ふふ、ゾラったら」

「………アンタ等、何しに行くか覚えてるか」


げんなりした表情で駿が問えば、さらりと揺れる美しい黒髪。


「勿論。女郎花について知ってる人物に会いに行って、色々吐かせるんでしょう」


後半の表現がそこはかとなく不穏である。にこにこと口角を上げるルカの顔を覗き込みつつ、千瀬は小さく息を吐いた。

ルカがいるのだから、万が一にも戦力に問題はないだろう。でも、不安は消えない。


(どうしてまた、あの町なの?)


自分はいったいいくつの存在に見張られていたのだろうか。考えれば気が遠くなる。

今から会いに行く人物が味方とは限らない。いったいどうすればロヴが戻ってくるのか、未だ見当もつかない。


(あたしは…この人達に迷惑をかけている)


黒沼の血がルシファーに災厄をもたらしたのだと思えてならない。だとしたら、自分が―――――――……………、

そこで不意に千瀬の思考が途切れた。横に腰を下ろしているルカの、白い手が触れてきたからだ。


「違うのよ、チトセ。ロヴが自分からこの状況を作ったの」


まるでそれは、千瀬の思考を読んだかのように。


「私達が、あなたに協力してもらってるだけ。だから余計なことは考えないで」

「………はい」

「――でさ、チトセ君。ロアルの予見した場所に心当たりはあるんだね?」


運転席から飛んできたゾラの声に、千瀬はしっかりと頷いた。


「―――かみずる神社に、向かってください」

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