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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第六章《輪廻》
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第六章《輪廻》:Nobody-Knows(2)

「――ロヴ? さぁ、知らないわね」


今朝から姿は見てないけど。呼び止められたミクは乞われるままに答えてやる。

金の髪が首を傾げる動作に合わせてさらりと滑り落ちた。ミクは自分を見上げる少年――これでも昔よりは随分背が伸びてきた――を見やって、心底不思議そうに続ける。


「あんたがロヴに用? 珍しいこともあるのねルード」

「……まぁね」


また問題を起こす気ではないか、と疑われているのをひしひし感じる。自業自得であるのを理解していたルードは、精一杯の笑顔で誤魔化した。


「で、いつ本部ここに戻ってくるかもわかんないんだ?」

「ええ。常にロヴの行動を把握してるのなんてゾラくらいのものよ」


――千瀬の故郷から帰還してすぐ、ルードは駿と共にあることを実行した。それは大胆にもロヴの――ルシファー首領の行動を調べよう、というものである。

千瀬の相手はロザリーに任せ、その間に二人は手分けして幹部たちへの聞き込みを開始した。ルードがミクを捕まえたのもそういう理由からである。


「……いったい何処行ったんだろ、ロヴ」


しかし聞けども聞けども、ロヴの行動は一向に掴めなかった。ここ数日は単独で出歩いているしく、本部内で彼を見たというものは皆無である。


「……ちなみにさ、ミク。ミクはどーしてロヴが本部を日本に移したか、知ってんの?」


それとなく本題を切り出すと、ミクは僅かに押し黙った。


「……知らないわ」

「ホントに?」

「本当よ」


じっと顔をのぞき込んでみても、別段嘘を吐いている様子はない。むぅ、とルードは小さく唸った。

……一番知りたいのは本部移動とオミナエシ、そして千瀬との関係だ。しかしミクも知らないとなれば――――。


「……今回の移動は本当に、ロヴの独断だったのよ。ルカやエヴィルならもしかして、何か知ってるかもしれないけど……」


ルードの思考を読んだような正確さでミクは続けた。或いは本当に読んでいたのかもしれない。――ミクには隠し事ができない。己の不利を悟ってルードは、早々に退散することにした。


「あ、じゃあオレもう行くね! 変なこと聞いて悪かった!」

「…………ルード」


ぱっと踵を返した少年の背に、静かな声がかけられる。おそるおそる振り返ったルードを、ミクの真っ青な瞳が見つめていた。


「あまり、余計なことはしないのよ」

「あははは、はーい!」


脱兎のごとく逃げ出したルードには、その後零れ落ちたミクの言葉は聞こえなかっただろう。

祈るように僅かに目を伏せて、彼女は呟いた。


「――何をする気なの、ロヴ」









****







オミナエシって知ってる?

故郷からの帰路、ルードに問われた千瀬は身体を震わせた。そうして小さく頷くと、今まで一人胸に秘めていたことを洗いざらい吐露したのである。

夢のこと、それに現れる女の声のこと――そしてユリシーズの忠告。

千瀬の告白を聞いて駿は心底驚愕した。皆が少しずつ集めていた糸の端がその瞬間、一本に繋がったのである。


“クロヌマ”を追うように世界へ舞い降りる“オミナエシ”。それを何らかの理由で探していたロヴが組織に引き入れた、“黒沼千瀬”。

オミナエシとは一体何者なのか、“クロヌマ”との関連は何なのか。そして何故、ロヴはオミナエシを探しているのか――根本はまだ解決に到っていない。しかしここで一致した符号は、一つの事実を導き出した。


――ロヴはおそらくこの日本で、オミナエシを探しているのだ。


(ユリシーズ……)


ふわふわした巻き毛の少年を駿は思い出す。では上品な身なりに底知れぬ狡猾さを秘め、人外の力で炎を操った。ルカに執着し、間接的にではあるがサンドラの死を招いたかたき。“学園”では駿の妹、一咲に情報を与えて取引をし、ウォルディの妹――アイジャを連れて消えた。しかしその際千瀬に、オミナエシという“魔女”に関する忠告をしたのだという。


(あいつ、何を知っている――?)


考え込みながら駿は回廊を進んでゆく。探しているのはルカだった。おそらくは、ロヴ以外で一番正解に近い人物。

数刻前に見つけたエヴィルに彼女の居場所は聞いている。放浪癖の気があるルカが、おとなしくその場にいてくれる可能性は低かったが。


「あ、」


角を曲がった所で見知った顔に出くわした。駿と同様、諜報活動に勤しんでいたはずのルードである。


「シュン。どーだった?」

「まぁ予想通りだな。そっちは?」


ルードは駿と並ぶと歩調を合わせて歩き出す。そのまま自分の活動成果――ミクに聞いたことの結果を話せば、駿は渋面を浮かべた。


「やっぱな。ミクも知らないか……」

「エヴィルも?」

「ん。ルカに聞いてみろって言われた。それから――」


無口で無愛想、朴念仁代表のようなエヴィルが珍しく質問に応じてくれたことが駿には不思議だった。ルードに聞かせるため、彼の話していた内容を思い出す。

エヴィル曰く、ロヴはもう何日も単独行動を続けているのだという。


『あいつが何をする気なのか、俺は知らない』


淡々と告げたエヴィルは僅かに眉根を寄せていた、ように見えた。駿の気のせいだろうか。


『オミナエシ、については?』

『――オミナエシを探してるのは本当だ』


単刀直入に尋ねた駿に、エヴィルはあっさりと答えを返した。驚いたのは駿の方である。てっきり機密事項だと思っていたのに。


『……俺に話していいの?』

『聞きたいんじゃないのか? ……言うなと言われた覚えはないし、一部ではもう知られている話だ。ロヴはもう何年も、オミナエシと呼ばれる者を探してる』

『それじゃあ……』

『オミナエシについて知りたければ、アサミやツヅリ、キョーゴあたりの方が詳しい。あれはこの日本を縄張りにしているみたいだからな』


お前たち、チトセのことを気にかけてるんだろう。

言い当てられた駿は二の句が接げなくなった。お前“たち”と言うことは駿と同じように、ルードがあちこち聞き回っているのもばれていたに違いない。


「……ってわけだから、ロヴについてはこれからルカに聞きに行く。オミナエシについてはイチハラ……は嫌だから、ツヅリあたりに――」

「俺が何だって? シュン君」


突如声が聞こえたと同時、がしっと背後から頭を捕まれた。ぐえっという情けない声を二人は同時に出してしまう。


「い、イテテテ! 痛いよキョーゴ!」


頭を握る手にぐいぐいと力を込められてルードが悲鳴を上げる。駿はこの上なく苦々しい顔を作り上げ、嫌々背後を振り返った。

……この男はどうして、こういうタイミングで現れるのか。


「何だか面白そうな話をしてるね。仲間に入れてよ」

「……イチハラ。てめーいつか絶対泣かす」


ルシファーが幹部の一人、市原恭吾はさも愉しげに口角を上げて笑った。

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