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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第二章《模索》
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第二章《模索》:神出鬼没(1)




――ほら、こんなにも簡単!







『これが私の世界だから』2







だって

舞落ちる雪より儚く

人の命は散るものだから。




*



「おぉい、チィ。こっち来て手伝ってくれよぉ」

「あ、はぁい」


呼び声に振り返れば、少女の目に手を振る人影が映る。

彼こと〈ソルジャー〉の一人であるレックスは、身長二メートル四十センチの巨漢であった。喋り方も立ち振る舞いも全てのスケールが桁外れ。千瀬が此処に来てからは、レックスは彼女のことを日本人形のようだと言って可愛がっていた。彼が千瀬を“チィ”と呼ぶのは、ちとせ、という音が発音し辛いからだという。

レックスに頭を撫でられるたびに千瀬の首は折れそうになったが、彼の豪快さは見ているのが心地よいほどであった。

――太古の世界に君臨していた大型肉食動物、ティラノサウルス=レックスを彷彿とさせるかのような。まさに彼は、“Rex”の名にふさわしい人物だと千瀬は思う。


「こっちだ、こっち」


そのレックスに呼ばれるままに彼のもとへ向かうと、彼は屈み込んである場所を指差した。いくら座っていたとしても、彼の体躯は千瀬と同じくらいの高さがあるのだが。


彼女達が生活している部屋の壁を覆うように積もったガラクタの山。彼が示したのは、その粗大ゴミ(ゴミかどうかは定かではないが)の隙間である。


千瀬がそこを覗き込むと、隙間の奥にに小さなものが落ちているのが見えた。


「大事なもんを落としちまったんだ。取れるか?」


体を捻れば肩ぐらいまでは入れそうだ。千瀬は頷くと、早速隙間のなかに手を伸ばす。なるほど、どうやら彼の太い腕ではここまで届かなかったらしい。

少女は腕を伸ばして中をゆっくりと探ってみる。指先に冷たい感触。


「……あ、取れた。これ何?」


千瀬が手を開くと、掌に乗っている丸みを帯びた深緑色の物体がころころと揺れた。どこかで見たことがあるな、と少女は思う。何だっただろうか。


(あぁ、そうだ……確か、)


――手榴弾?



「……え、わ、うわっ」

「こらこら。落とすなよぉ」



答えに行き着いた瞬間少女はその物体を投げ出してしまいそうになったが、その行為の危険性に気付き慌ててそれを握り締める。

あたふたと落ち着かないその様子を見たレックスは、笑って千瀬の手から手榴弾を取り出した。


「ありがとな」

「何でそんな物持ってるの? この前聞いた時は――」


千瀬は眉を寄せながら笑う男を見つめ返し、先日のやりとりを回想した。そう、その会話をしたのはほんの数日前のことだ。


――その日、千瀬はサンドラからナイフを貰い受けた。ここ数日の間に駿とロザリーにルシファーの建物内を連れ回され、ようやくこの中での生活に慣れてきた千瀬であるが、身を守るものを何一つ持っていなかったのだ。

そのことに気付いたサンドラが彼女の使っている物を分け与えたのである。使い古された柄の部分が手に良く馴染む、コンバットナイフ。


「例えこの建物の中でもね、気を抜いてはダメなのよ。特に一人で出歩くときは」


お古で悪いんだけど。彼女はそう言って、ナイフを千瀬に握らせた。


その後だ。そのまま場の話題が武器の話になり、各々が自分がよく使用する物は何かを千瀬に教えることになったのである。

ロザリーは銃が多いと言っていたし、サンドラは千瀬に渡したような刃物をたくさん持っている。千瀬も尋ねられたので、日本刀なら多少は使えると答えておいた。


……そしてその時レックスは?


「武器なんて使わないって言ってなかったっけ」

「おう、言ったな」


俺は拳が武器だからな、と。その時レックスは、そう言って笑ったのだ。


「何に使うの? 手榴弾」


レックスの手に納まっていると、まるで亀の子のようなそれ。千瀬が手榴弾を見つめると、彼は豪快な笑い声をあげた。


「なぁに。俺が建物の中で仕事をするときは、こいつで俺が通る為の隙間を開けてから始めるのさ」


呆気に取られた千瀬を見て再びレックスは笑う。確かにその体の大きさでは、規格サイズのドアは通れないだろう。だからと言って、いちいち爆破するのも随分とはた迷惑な話だが。

千瀬達の過ごすこの“監獄”のドアも、よくよく見れば通常よりかなり大きい。(まさか彼の為に特注、なんてことがあるのだろうか。あるかもしれない)

千瀬が妙に納得しかけた、その時である。


「アレキサンダー」


響いた声は柔らかなテノール、若い男を想像させるそれ。一体何処からと探す間もなく、《彼》は少女の目の前に舞い降りた。……舞い、降りた?


千瀬は目を見開いた。

ふわり、と。文字通り、人間が上から『降りてきた』のだから。





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