第五章《迷霧》:間話
「――【コンタツ】の奴が派手に動いたらしいわね」
暗がりで人影が揺れる。彼らは光り一つ差し込まないこの場所と、同じ色の世界の住人だ。
「……随分と情報が遅いな【ジーザス】。“監視役”のはずのお前が」
「どーせあのハゲオヤジ、“目”への報告を忘れてんのさァ。ボケだよ、老ボケぇ」
きゃらきゃらと笑う声は随分と幼い。腹を抱えているその主を咎めるように、不機嫌な音が降った。
「……お前は黙れ【ミリアム】。語尾を伸ばすその口調をどうにかしろ――不快だ。消え去れ」
「うはぁ、【ペルソナ】ってば怖ッ! こんな血も涙もない奴なのにィ……君を信じてるオトモダチが可哀想ー」
そのやり取りを見て、【ジーザス】と呼ばれた女はくすくすと笑みを零した。自分も含め、人の屍を糧に生きる世界の者とは思えぬ面々なのだから笑ってしまう、と彼女は思う。【ミリアム】も【ペルソナ】も、その容姿だけならまだまだどこかいとけない。だからこそ、生徒のフリなど出来ているのだが。
「あなただって十分、オトモダチを騙せてるわよ【ミリアム】。キャラクターが間逆ですもの」
「僕はうまーくやってんのさァ。【コンタツ】の馬鹿とは違って目立たないところで殺ったからねェ。あのオヤジなんて、よりによって正面玄関だよォ?」
そりゃー目立つわなァ。
【ミリアム】はそう言ってまた一人笑い始める。声のボリュームを控える気などさらさら無い少年を一瞥し、無視することを決めたのだろう。【ペルソナ】は表情一つ変えず【ジーザス】に向き直った。
「ところで【ゴスペル】と【バプテスマ】は何をしているんだ?」
「やる気の感じられない二人だからねぇ……報告もないし、もしかしてもう死んでるかも」
「――ふん、良い気味だ」
一応とはいえ、仲間の行方が知れなくとも心配の色一つ見せないどころかあっさり切り捨てる。冷徹の“仮面”、その名は伊達じゃないと【ジーザス】はひとりごちた。
「まぁ良い――仕事に戻るぞ【ミリアム】」
「ふぁ〜い」
いってらっしゃいと手を振りながら、【ジーザス】は口元に笑みを浮かべた。あの二人が真面目に仕事をするのだ、また誰かが犠牲になる。
彼女にとっては、赤の他人が何人消えようと同じ事だ。大切なのはただ一つ、任務の遂行のみ。追い求めてきた物はきっと、もうすぐ手に入る。
「……今宵の山羊に、安らかな死を」
そして犠牲者の贄血を、あの山に捧げるのだ。