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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第五章《迷霧》
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第五章《迷霧》:さがしもの(3)

ルシファーが朝霞恒彦の姿を最後に確認したのは五年ほど前の事であった。シンジケート発足からは、実に八年。

当時のロヴ・ハーキンズは、そのカリスマ性を発揮し既に裏社会でかなりの地位を確立しつつあった。情報取得の為の様々な手段を駆使し、あのデータを持ち去った“アドラ”構成員の名前までを割り出していたのである。数年前の物ではあったが、顔写真も入手した。

それでも恒彦が見つからなかった理由の一つには、トリクオーテ消滅の半年後に“アドラ”が正式解散したことが挙げられる。“フィド=ミノス”と提携していた彼らは、やはりその助けなしでは存続できなかったのだろう。

――そして何よりも“アドラ”は、【悪魔】の報復を恐れていた。


「もうそろそろ五年になる。軌道に乗ったルシファーは勢力の拡大を目的として、様々な他組織と取引を行っていたわ」


その日の取引相手は“鬼屋たまほめや”と名乗る、和製の密売組織だった。言って、ミクはすっとその目を細める。獲物を狩り取る補食者の眼だ、思って千瀬はそっと息を呑んだ。


「当時うちは“鬼屋”から商品を買い取って、然るべきルートから転売する仕事を請け負ってた。その日の品物は結構ランクが高くてね――“ダムダム弾”って知ってる?」

「だ……、むだむだ?」


首を傾げる千瀬の横で駿が思い切り吹き出した。むっと膨れて睨み付ければ、銃弾の一種だよと少年は笑う。


「ちょっと前に……イチハラのヤローに見せられたんだ。今は世界じゃ使用禁止になってるってゆー」


市原恭吾の名を口に出す瞬間だけ、駿の表情は嫌そうに歪められた。その通りよ、と笑んでミクが話を引き継ぐ。


「弾の実弾体か頭部に鉛の露出がある被甲弾でね、人体に着弾すると鉛が潰れて傷口がかなり大きくなるの。ほとんどが貫通せずに体内に留まるし、一撃で仕留められなくても鉛毒で傷は治り辛い――殺傷能力にはかなり、長けてるってこと」

「……イチハラの奴、ダース入りの箱で保存してるぜ」


取引の残りをロヴがあげたのよ、笑いながら言ったのはルカである。途端露骨に顔をしかめる駿を横目で見やりながら、千瀬は苦笑と共に話の続きを促した。


「……それでね、その“鬼屋”との取引現場に現れた運び屋が――ツネヒコ、だったわけ」

「一目でわかったんですか?」

「その頃は信用できる組織員が少なくてね、大切な取引はあたし達が直接出向いていたから。人相は頭に叩き込んでたもの、少し老けてはいたけれど」


わからない、はずがない。きっぱりと言い切って、しかしミクは僅かに眉を寄せた。


「でも、大事な取引の最中にツネヒコの身柄を押さえるわけにはいかなかった。仕事が終わってから追いかける予定が――」


逃げられたのだと、苦々しく。呟いて少女はぎゅっと拳を握り締めた。

ツネヒコは私たちに気付いたの――ルカが静かに零す。成長した悪魔の少女とその仲間の存在に、彼は気が付いてしまったのだと。

“鬼屋”との仕事が後処理まで片付いた時、朝霞恒彦の消息は完全に断たれていた。彼は“鬼屋”とも運搬業者とも、すっぱりと手を切って。


「その男が、この“学園”に……?」

「正確には、ツネヒコの親族にあたる人間が、ってとこね。ここ数年がかりで調べたのだけれど、最近やっと少しだけ情報が入って」

「……じゃあ、その親戚の人間から辿ってツネヒコを探す気なんだな?」


駿の言葉に、ミクは静かに頷いた。漸く納得したのだろう、少年は腕を組み真剣な面持ちを浮かべる。


「見つかるのかよ、まだその“親族”だって誰だかわかってないんだろ?」

「もう手は打ってあるの。それより――」


先を越されては、困るのよ。

落とされた声は白刃のような、鋭利な冷たさを孕んでいた。



*




ゆらり、揺らめく炎の紅。暖かな色合いとは裏腹に、その部屋の空気はどこかひんやりとしていた。

備え付けられていたランプを見つめた後、沙南はゆっくりと部屋の中に視線を移す。壁一面にはめ込まれた本棚と、それを埋め尽くす古書の群れ。仮に噂通りこの場所に何かが隠されているとしても、それを探すのは随分骨を折りそうだった。誇りを被ったこれらの本の、中身を確認するならば尚更。


「本の匂いがする」


部屋の真ん中にぽつんと置かれた、木製のテーブルに触れながらロアルが言う。指を這わせればすっと線が引かれた。どうやら、ここにも随分と埃が積もっているらしい。


「とりあえずまぁ、何か見てみる?」


その言葉に沙南と百瀬が頷いて、それぞれ目ぼしい本を手に取りはじめた。背表紙を眺めている沙南の後ろで、残る二人がそっと目配せする。沙南はそれに気付かぬまま、文字の剥がれていた一冊を棚から抜き取った。


「ねぇ、サナ」


ロアルの呼び掛けに振り向けば、四つの瞳が真直ぐにこちらを見つめている。沙南は一つ首を傾げ、手にした本をテーブルに下ろした。そこには既に百瀬が選んだのだろう、数冊の本が積まれている。


「ロア? 百瀬まで。どしたの」

「……あのね。私たちの担当してる、“黒髪の女の子”の話なんだけど」


……それか。思って沙南は眉を寄せた。どうにも好きになれない話題だ。七不思議の中で一番、厄介な匂いがする。

それがどうしたの、と問い返せば、百瀬が僅かに逡巡した。彼女は一瞬だけ視線を彷徨わせ、次いで意を決したように口を開く。


「あなたはこの話、どう思う?」



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