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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第五章《迷霧》
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第五章《迷霧》:接触(3)

時は少し遡る。

一目散に飛び出してゆく後ろ姿を碧い瞳が見つめていた。何かを考えるようにすっと細められたそれを縁取る金の睫毛が、滑らかな頬に影を落とす。


「え、ちょ……何?」


自分と入れ違いになった相手に驚きを隠せぬまま、東海林 愛は口を開く。今この場にいるのは自分と、部屋主である少女のみだと思っていたのだ。


「今の子は……?」

「……さぁ」


にこり、アイジャは微笑んでそれ以上の言及を許さなかった。

愛は僅かに眉を寄せた後、去っていった後ろ姿を脳裏にもう一度思い描く。切り揃えられた黒髪と同じ色の瞳、一瞬見えた白い横顔が目蓋の裏にまだちらついていた。

何処かで、見たことがあるような。否、誰かに似ている?


「……今の人は、お客さま」

「友達、……じゃないんだ」

「貴女と同じよ。メイコのお客さま」


アイジャの言葉に驚愕して、愛は目を見開いた。メイコ――清川芽衣子は先日亡くなった、この“学園”の生徒である。“学園”側の対応によって死因は一切伝えられていない。

愛が今日この部屋を尋ねたのは、芽衣子のルームメイトであるアイジャから話を聞くためだ。詳しい話が聞けることなど期待していないがしかし、芽衣子の死について調べている自分たち以外の人間の存在は、愛にとって予想外のことだった。


「……アイジャ。さっきの子は、清川さんについて何か言ってた?」


早速、単刀直入に問い掛けて愛は相手の様子を伺う。アイジャは僅かな逡巡の後、とくになにも、といらえを返した。

聞いて愛は腕を組む。アイジャの曖昧な答えでは、真相に辿り着くのに骨が折れそうだった。自分の力でどうにか、核心に近付ける質問をぶつけるしかない。

――もしも今部屋を出ていった少女が、あの“噂”を知っていたら。その可能性を考えれば、無視はできなかった。


「……“入れ替え”の後には死人が出る、って噂があるの。知ってる?」


言外にその“死人”が誰かを滲ませれば、アイジャはすぐに悟ったようだった。真剣な面持ちの愛を真っすぐに見上げ(彼女は背が低い)、アイジャがその唇を開く。


「――メイコはその為に死んだっていうの?」

「それは……わからないけど」

「アイジャにメイコの事を聞くのは、その真偽を確かめたいからね」

「……うん、そう」

「…………ねぇ貴女、真実が知りたい?」


アイジャを信じてくれる?

不意に声のトーンを落とした少女を訝しんで、けれど愛は頷いた。アイジャの碧い目の奥で、一瞬ちらりと何かが揺れる。

内緒、内緒よ。アイジャと貴女の秘密。少女は言って、桃色の唇を震わせた。


「メイコが殺されたのは、きっと、そんな噂のせいじゃないわ」

「え…………」

「アイジャのせいなのよ。お仕事、間に合わなかった」

「――ちょ、ちょっと待って!」


――殺された?

呟いて愛は瞠目した。清川芽衣子の死因は他の生徒に一切伝えられず、第一発見者の少年もまた塞ぎ込んだままのはずである。そんなことは初耳だった。何故知っているの、思わず語尾を荒げて愛は問い詰める。


「知らないわ。でもね、アイジャにはわかるの。メイコは殺された」

「…………誰が、そんな」

「アイジャは、それを追い掛けてここに来たから」


意味がわからないと小さく唸って、愛は指先で頭を押さえた。ただ一つ確実なのはこのアイジャという名の少女が何かを知っていること、そして自分がとんでもないことに頭を突っ込んでしまったらしいということ。

ロアや沙南の注意を聞いとけばよかったかな。思っても、もう遅い。


「アイ・ショージ、貴女はメイコが死んだ理由に興味があるのね。でもね、真実はとっても危険なの」


全て忘れるのと、アイジャに協力するのと。どっちが良い?

選べと言われて初めて、愛はアイジャの考えに気が付いた。見ず知らずの他人を部屋に迎え入れた瞬間から、アイジャはこれを見越していたのだ。即ち、協力者の確保。

差し出された手に視線をやって、酷く悩んで、ついに愛はその手をとった。一度首を突っ込んだことからは逃げ出さない、それが彼女のポリシーだったからである。

ぱしり、重なり合った手と手が軽快な音を立てた。


「契約成立ね」

「……あんた、フルネームは?」


問い掛ければ少女は金の髪をふわりと揺らし、柔らかな微笑みを浮かべる。


「――アイジャ・ラ・ファンダルス」




*




第六棟寮を飛び出した千瀬が真直ぐ向かった先は、第二棟――武藤 駿のいる男子寮だった。今すぐ仲間に報告しておきたい事ができたが、昼間から食堂の隠し通路を使うわけにはいかない。よって“生徒”として潜入している駿に、正面から接触を図ることにしたのだ。

幸いにも千瀬は今、学園内の生徒と寸分違わぬ制服を身につけている。刀だって持っていない。一人紛れ込んだ程度では、誰も気付かないだろうと踏んだのだ。


原則として男子は女子寮に、女子は男子寮に入れない。千瀬もまた例外ではなく、二棟の中まで入ることは叶わなかった。それでも此処へやってきたのは、駿に自分の存在を知らせるためである。

――ルシファー首領、ロヴ・ハーキンズから事前に配られた“擬似制服”には幾つかの仕掛けが施してあった。駿の身につけているネクタイは通信機を内蔵しているが、その他の機能として、同じ通信機を持つ仲間が半径七十メートル以内に居れば反応を示す造りになっている。

千瀬は第二棟の前まで来ると、駿のいる部屋の方角を考えて壁添いに立った。反応に気付いた彼がやって来てくれることを、後は待つだけ。

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