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『これが私の世界だから』  作者: カオリ
第五章《迷霧》
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第五章《迷霧》:接触(2)

場所は変わって中庭。

広々とした芝生の広がるそこの端に、校舎や寮棟とは別の建物がある。四階建て、まだ新しさを残す綺麗なそれは近年改装されたばかりの部室棟だ。その名の通り、各部活動やサークルに一つずつ与えられている部屋の集合する建物である。


「でね、その時に中庭で男子がサッカーやってたんだけど。暇潰しに見てたら、超カッコ良い人がいてさぁ」

「名前、わからないんですか?」


映画研究サークルの部室にはその日も数人が集まって、熱心に映画について語――っていたわけではない。他愛もない話に花を咲かせているマリアと亜梨沙の横では、自称映像監督・うるきがテレビを見ながら手のひらでルービックキューブを転がしていた。ちなみに亜梨沙は映研の部員ではないのだが、基本この部屋は来るもの拒まずの状態である。


「見たことない人だったんだよねぇ……運動神経抜群で! もぉ、うわぁって感じ!!」


目を煌めかせながら語る亜梨沙は、先日男子生徒によって行われたサッカーの試合を観戦した際に名も知らぬ少年の虜になってしまったらしい。所謂、一目惚れというやつだ。


「その男の子、今回の新入生、かな?」


首を傾げて相槌を打つマリアの横で、青春ですネェ、うるきがぼやく。

しかしその穏やかな時間は次の瞬間、がたぁぁぁんというけたたましい音と共に消え去った。部屋の扉が吹っ飛んで(そんなふうに錯覚するほどの勢いだったのだが、実際は辛うじて蝶番に引き止められた)開いたそこから突然の来訪者が顔を出す。


「ちょっとお邪魔します!」

「ありゃ、沙南サン?」


うるきが驚いて目を見開いた先、五十嵐沙南が部屋の中へと歩を進めた。よく見れば沙南はその背後にもう一人を従えて――正確には東海林愛の二の腕を掴んでいて、ずるずると引き摺るように歩いている。


「うるき、どういうことか説明してもらいましょうか」

「……あちゃー」


ばつが悪そうに顔を背けている愛を見た瞬間、うるきは全てを悟っていた。ああこりゃバレたな、と。

愛が第六棟から出てくる所をたまたま沙南に見られたのは、不運としか言いようがなかった。清川芽衣子のルームメイト、アイジャとコンタクトをとることを企画したのはうるきである。反対されるのは目に見えていた故、これは愛とうるきだけの内密な行動だった。


「全部聞いたよ。清川さんについて調べて、どういうつもり?」


問い詰められてぐっと言葉を失う。沙南の剣幕は普段に比べれば凄まじい。うるきは暫し目を泳がせた後、観念したかのように息を吐いた。


「愛サンにですネ、こっそり教えてもらったのですよ。“入れ替え”の後に死人が出るって噂があるらしいって」

「……! 愛!?」

「うひゃッ」


顔を手でガードしながら縮こまる愛を見て、沙南は小さく溜め息を吐いた。何だかんだ言いつつ、やはりあの話を愛は気にしていたのだろう。

勿論、沙南だって気掛かりではあった。だからこそ触れないようにする、そこが彼女と愛の違いである。


「そんなお話聞いたら、調べたくなっちゃうじゃないですかァ。映研としても、私個人としてもネ。だからまず皆にはナイショで、私と愛サンだけで調べることに」

「……でも! “学園”が清川さんのことについては一切の詮索を禁止にしたじゃない」

「校則なんて破ってなんぼ」

「……寮長だって何度も釘さしてた」

「第五棟の寮長はなんも言ってませんでしたヨー」


そうなの? 眉を寄せた沙南に、うるきは勢い良く頷いてみせる。

確かに第四棟寮長・ロアルは清川芽衣子について、過剰とも言える反応を示していた。“学園”の規則は絶対だと言い張り、極力第六棟にも近付かないようにと呼び掛ける。七不思議を調べる沙南たちの班に寄せられたあの噂(気味が悪くて誰も触れようとしなかったが)のアンケート用紙も、最終的にはロアルの手によって処分されていた。

清川芽衣子については絶対に触れないで調査を続ける。七不思議班の中には、暗黙の了解が流れていたのである。だからこそ沙南は、愛がどこに行っていたかを知ったとき激昂したのだが。


「なんでか知りませんけど、四棟の寮長サンはやけに過敏になってますネ」

「それは……そうかもしれないけど。だって気味悪いし、あたしだって嫌だって思うよ」

「私、やっちゃダメって言われたことほどやりたくなっちゃうんですヨー」


あ、それはわかる。呟いたのは黙って成り行きを見守っていた亜梨沙だった。その隣、マリアは僅かに不安げな表情を浮かべる。

沙南がそれ以上反論できないのを見て取って、うるきは愛の方に視線を向けた。


「バレちゃあ仕方ない、堂々といきまショ。そんで愛サン、芽衣子サンのルームメイトには会えたんで?」

「あぁ、うん。それなんだけど……」


沙南に握られていた腕を漸く解放されて、愛はぐるりと部屋内を見渡した。少女は自分が第六棟を尋ねた、ほんの一時間ほど前のことを思い出す。


アイジャという少女にアポを取ったのは、その前日のことだった。清川芽衣子とその死について、より詳しいことを知りたい。七不思議との関連を説明すれば、アイジャはそれを快く承諾した。

愛が彼女の部屋を訪ねた時、そこには既に先客がいたらしい。しかし愛にその姿をはっきり確認する暇は与えられなかった。その先客は、愛が部屋に入るなり凄まじい勢いでその場を飛び出していったのである。

――今の子は?

問い掛けた愛に対して、アイジャはさぁ、と曖昧に笑っただけ。しかし愛には一瞬すれ違った横顔が、どこか見覚えのあるもののような気がして仕方がなかったのだ。


「誰かが、いたんですか?」


マリアの疑問の声に、愛は説明を中断する。見ればうるきも興味津々といった様子でこちらを眺めていて、少女は小さく首を竦めた。


「うーん、なんか見たことあるような気がしたんだけどねぇ」

「四棟の生徒とは?」

「違うね。さすがにそれは見ればわかるし」


両目とも1.5の視力を誇る愛は自信を持って断言する。五棟と六棟の生徒までは全員を把握しているわけではないが、それでも知らない人間だと断言できた。

――知らないのに、見覚えがある。そんなことがありえるのだろうか。


「それで、アイジャ自身は清川さんについて何か言ってたわけ」


渋々話の続きを促しながら、沙南は頭の中で今後の予定を組み替えていた。きっと愛とうるきは、この“調査”を続けるに違いない。計画を知ってしまった以上、見ぬふりはできない性分だった。ロアルや百瀬、怖がりの双子には隠したほうが良いに違いない。口の堅い絹華はどうだろう。そして自分は、どうする?


「それがね、アイジャなんだけど……何か、変っていうか」

「変?」

「メイコが死んだのは自分のせいかも、とか言い出してさ。よくわかんなかった」


何かを思案しながら口にする、愛が全てを語ってはいないことを沙南はすぐに察した。やっぱりショックだったんじゃないですか? 亜梨沙が平和的な見解を述べる。


「じゃあ収穫は特にナシ?」

「イイエー。いっこありますヨ。愛サンが見た、その“先客”とやら」


清川芽衣子殺しの関係者だったら、面白くないですかネ?

爽やかに言い放ったうるきとは反対に、場の空気は凍り付いた。うっげ、マジで? 言いながら愛も顔を引きつらせる。


「まさかー。さすがにそれは……」

「犯人ってのは言いすぎかもしれないですけどネ、でもその“先客”サン、清川芽衣子について調べてたってことっショ? 私たちみたいにネ」


その子を探せば良いんじゃないですかネ。あっけらかんと言い放ったうるきに、ぎょっとして思わず沙南は口を開いた。


「……ちょ、ちょっと! もう止めなよ、何かヤバいって絶対」

「沙南サン。“学園”が何を隠してるか、知りたくないですか?」


この“学園”は、おかしいんですヨ。

誰もが一度は感じたことをはっきりと言葉にし、うるきはにっこりと笑う。ころり、彼女の掌から見事に色の揃えられたルービックキューブが転がり落ちた。一度も手元を見なかったにも関わらず完成させられたそれの完璧な出来栄えに、沙南は一人息を呑む。



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