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▼瑠璃色のタンブラー▼


「アカネさん、頼まれたものバックに置いてありますから」

「神崎くんありがとう、搬入ずれ込むから先に休憩入って」

「了解ッス」


印画紙と台紙をバックヤードに運び、事務所に声をかけるとチーフのアカネから返事があった。


「あ、そうだ」


書類を捲る手を止めずに、アカネは爆弾発言を投下した。


「リサちゃんも休憩に行かせたからいつものカフェにいると思うよ、ガンバレ、青少年」

「っ!!!」

「ばれてないとでも思った?ホントわかりやすいなぁ、神崎くんは」

「まさか、全員にばれてるとか?」

「気づいてるのは私とダンナとカズコ嬢ぐらいじゃないかな」

「え、ノブユキさんにもばれてんスか?」

「ノブユキ曰く、テツジさんに似てるらしいよ」

「…そうですか」


苦い顔のトオルを見て、アカネはふと尋ねる。


「テツジさんのこと、許せない?」

「そのせいで俺たち兄弟がどうなったか、知ってますよね?」

「そうね、配慮のない一言だったわ、ごめんなさい」

「アカネさんたちが両親なら良かった」

「トオルくん?」

「飯、行ってきます」


トオルはアカネの言葉に答えず踵を返すとロッカールームから青い蝶のモチーフが入った財布を取り、リサがいるであろうカフェへと向かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




店から徒歩二分にあるカフェは、『coloful drops』の従業員お気に入りで店ぐるみでお世話になっている。

木の温もりを感じさせる落ち着いた内装だが、緑地に面した広いウィンドウから入る自然光で日中店内が薄暗いことは無い。

ブライダルパーティーで使うことも可能で、パーティー時の写真撮影で業務提携もしている。


「お疲れ様ッス」

「おつかれ」


入って一番奥の二人掛けテーブルにリサがいる。彼女の指定席だ。


「今日は早めの休憩なんだね」

「搬入がずれ込んでるんで休憩が先」

「そうなんだ」

「ってかこの後の長丁場を思うとテンション下がる」

「ガンバレ~」

「愛が籠もっていないッス」


クスクス笑いながら、リサがメニューをトオルに渡す。


「今日の日替わりランチはポテトとハムのホットサンドだって」

「パスタは?」

「アンチョビと枝豆のペペロンチーノ」

「桜庭さんどっちにした?」

「あたしはホットサンドにした」

「じゃ俺もそれにする」


カウンターにいるウェイターに声をかけ注文すると、リサに向き直る。「で?」と問いながらグッと顔を近づけた。


「四日前に何があった?」

「その話題、昨日もカズコさんに聴取されたんですけど」

「俺は聞いてないよ」

「幸せなランチタイムを返せ」

「ここ俺が持つからさ」

「そんな安いの?あたしの失恋は」

「だったら今夜はどう?俺の奢り」


呆れたように息を吐き出すと、渋々といった様子でリサは承諾する。


「いいよ」

「じゃ、そういうことで」


上機嫌で水を一気に煽ると、ウェイターにむかって瑠璃色のタンブラーを見せる。すぐに水差しを持ってウェイターがやってきた。

その様子をなんともなしに眺めながら、ふと気づいたことをリサが問う。


「そういえば最近敬語はずれてきたね」

「え?そうスか?」

「うん、さっきはガッツリはずれてた」

「桜庭さんと仲良くしたいからさ、だめ?」

「だめじゃないけど…」

「あぁ、大丈夫、仕事の時はちゃんと敬語使うから」


渋るリサに拒否させまいと、トオルは畳み掛けるように言う。


「ってか仕事の時に敬語はずしたらチーフに怒られるんじゃん?」

「そ、だからタメ口はプライベートの時だけ」

「しょうがないなぁ」


苦笑しながら水を一口含み、タンブラーをテーブルに置く。すると、顔を出した太陽を反射したタンブラーの瑠璃色がリサの心臓の上でゆらゆら揺れた。

だんだんと色づく様をじっと見ていたトオルを怪訝に思い、リサは眉をひそめ胸元を見る。


「何か付いてる?」

「動かないで」

「何?」

「桜庭さんの胸のところにタンブラーの色が反射してる」


そう言いながらトオルは自分の携帯電話を取り出すとカメラ機能を呼び出して写真を撮った。撮られることに慣れていないリサは突然のことに眉をさげてすっかり困り顔だ。


「ホラ、可愛く撮れた」

「全然可愛くないじゃん!!」


みせられた写真を見て抗議するリサに真剣な顔でトオルは言う。


「リサは可愛いよ」


真っ赤になったリサの胸の上では瑠璃色がゆらゆら揺れている。それはまるでリサの心を映したようだった。


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