表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第二話:イツマデも自己紹介

この作品はフィクションです。作中に登場する人物・団体といった固有名詞は、私たちの世界のものとは関係を一切持ちません。

 一月十二日――アイツの転入初日は、アヤセの登場と共に、雰囲気がガラリと変わってしまった。

「アヤセは遅刻してくると、だいたい誰かの不幸を口にするんだよ」

(はた迷惑な。いや、だから名前を教えろって!)

 一限開始のチャイムが鳴る頃には着席したアイツに向かって、右に前に一つずつずれた位置に座る男子が教えてくれる。

(良かろう、右前一各(ウゼン・イッカク)と分かるまで呼んでくれよう)

 これからクラスメイトの自己紹介が始まるというのに、アイツは仮の名前が決まって満足げだ。

「ようし、では、これから自己紹介を行う! まずは私から行うぞ」

(あんた、担任じゃん! 嬉々として言うなよ)

 アイツがどう思えど伝わる訳もなく、担任教師は名前に始まり、誕生日や趣味、家族構成を話していく。

「いよっ! アマノっち、最高!」

(何が? 職員室で話してくれたままなら、一年の頃から誰かが転入してくる度に聞いてんだろう)

「……天野高次(アマノ・コウジ)。一年の頃から持ち上がりの担任教師。六月九日生まれ」

 右前が相変わらず、副音声のように通る声で話す。

(いやいやいやいや。今、自己紹介してるから)

「前回は、私たちが一人息子の一平を授かった、という所まで話したな。

 今回は小学四年生になった所から話そうな」

(ちょっと待て。息子の話しを始めたら、もはや自己紹介とは――)

 アヤセが合いの手を入れるものだから、アマノが調子に乗る。

 見回せば、櫓を漕いでいないのは、止まらないアマノと笑うアヤセ、そしてアイツだけになっていた。

(転入初日、その一限から授業で居眠りをせよと仰せか――神は!)

 一応この仕打ちを嘆くも、立ち上がるような真似はしない。アイツはただ椅子に座ったまま、仰ぎ見る。

(ああ……天井だ)

 小さい穴が均等に並ぶ白いマスが幾つとなく貼り付く天井を見上げて、

(寝よう)

 アイツは睡魔に襲われた。


 気が付けば、九時半を過ぎたところ。

 アマノによる自己紹介はまだ続いていた。板書まで行い、気の入り様が伺える。

(あー……、眠い眠い)

「天野高次の息子は中一に在籍している。話しの中に出てきた真衣は家で留守番をしているらしい」

「それは会いに行けとでも暗に言っているのか、右前?」

「不法侵入はよろしくない」

 思うばかりでは何も伝わらない。声音を低く小さく、右前に告げるが、アイツはまともらしいことを返された。

(お前がそれを言うのか?)

 カカカッとチョークを黒板に三度連打される音が、右前の言葉に訳も分からずヒート寸前だった脳回線を急速冷凍させた。

「――ということがあり……、おっと後二分で授業が終わるな。藍都君はこの紙で名前を確認しなさい」

 アマノはムクリと目を覚ました生徒たちに紙を回させた。

 アイツの手元に届いた紙には「座席表」と。

(……)

「名前以外に情報は入れてあるが、分からなかったら、授業時間外で積極的に話すんだぞ。

 それが早く覚える秘訣だ。

 今日は最初だから大目に見るが、次回以降のお喋りは禁止だ。喋るくらいなら寝ろ」

「さっすが担任だね、アマノっち」

 抜け目がないね、とアヤセの合いの手が入る。

「お前もだ。家の裏と言えば、上納里さんだろう?

 もしもピンピンしてたら、反省文を出してもらうからな」

 アマノは言いたいことを伝えきると、出席簿をつけて教室を跡にした。

「そりゃぁないよ~、アマノっち。そう思わない、ツクモ君?」

(阿谷瀬香澄……人間。誕生日ニ月末日。御歳十五)

 アイツは手元の座席表でアヤセの情報を確認した。

(『人間』ってなんだよ! 当たり前じゃん!)

 だが、違うのかも知れないと、口に出そうになるのを喉を鳴らして飲み込んだ。

 そこへ数人の壁を越えて、アヤセがやってきた。まだ義務教育も終わらない中学三年生だからかも知れないが、胸元の膨らみが気になることも、体型に惹かれることも、顔から目が離せないということも、アイツにはなかった。

 覗き込むアヤセ。

「へぇ~、ツクモ君は『ハーフ』なんだね。何のハーフ?

 黒人さん? 白人さん? にしては黄色だから……分かった、モンゴロイドかアジア系?」

(最後が疑問符とは、これまたベタな)

「って、僕の両親は日本人だからさ!」

「じゃあ、紋吾郎(モンゴロウ)文子(モンコ)の子どもなんだね。あたしは――」

 マシンガントークという程ではない。けれど、けらけらと異様に疲れの溜まる喋り方だった。

 アイツは右前に助けを求めようと首を向けたが、席に右前の姿はなかった。

「あれれ? ツクモ君は曲路(マガリジ)君のことを知ってたの」

(マガリジ?)

 アヤセの指差す先は右前の……。

 座席表を確認すると、曲路通(マガリジ・トオル)とあった。

お読み頂きありがとうございます。二週間かける必要のある内容かは疑わしいところですが、慣れない連載ということで、大目に見て下さい。次話は2/14(月)予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ