ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店*魔女の小話*
同シリーズ作品の、
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ススキ野原の男の子 https://ncode.syosetu.com/n3257mm/
を先に読む事をお勧めいたします。
神ノ樹坂裏通り骨董店。
そこは、切実に叶えたい願いの有る、特別な者の前にだけ、魔女が扉を示すという扉。
しかし、魔女に願いを叶えてもらう代わりに、人は必ず大事な「何か」を失ってしまうという。
ここは、そんな骨董店の裏話。
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「やあ、やはり琴乃さんの煮物は絶品だな」
このビルのオーナーの孫たる高校一年生の弥栄琥太郎の目の前で、少女が美しい所作で煮物を食べている。……骨董品店のバックヤードに有るキッチンで。
少女の年の頃は高校生ほどで、要するに琥太郎と同年代に見える。
しかし、少女の年齢が一体いくつなのか琥太郎は知らない。祖母に手を引かれ、この店に初めて足を踏み入れた時も、少女は今の外見だった。
何と、祖母が少女の時ですら、彼女は既に今の見目であったそうだ。
「どうしたんだい? 琥太郎くん」
少女は里芋とイカの煮物をはぐはぐと食べながら、上目遣いで見てくる。
実際は少女が座っていて、琥太郎が立っているからなだけなのだが、何となく居心地が悪い。
滑らかな肌に流麗な眉毛、まつ毛は長く、白い肌に影を落としている。全体に色素は薄く、見ようによっては栗色に見える髪の毛をお団子にして、おくれ毛で首を隠している。
丈の短い着物に白いエプロンを付けているのだが、どうも、どの時代にもそぐわない服装だった。
「お前って、歳いくつなの?」
「おやおや。女性に歳を聞くなんて、母君はどういう教育をしているんだろうね」
少女は、ころころと笑う。
少女はこの街の都市伝説になっている骨董品店の主で、魔女である。祖母も母も少女に礼儀を尽くせと言うけれど、長年煮物を運んでいる琥太郎には、軽んじるつもりこそ毛頭無いが、畏敬の念を抱く言うよりは親しみを感じていた。
更に言うなら、琥太郎としては彼女に怖さだとか気味悪さを感じた事は無い。小さい頃から祖母に連れられて会っているので、逆に好感を抱いているからであろうか。
ただ、不思議な事に、この辺の地主である弥栄家の持ちビルにしか扉は現れないらしい。こちらから会いに来たい場合は、とあるビルの裏手に行けば弥栄家の者にだけ扉は現れるのだが、依頼者が来るとなると、必ずしも同じ場所に扉が出現する訳でも無いらしい。
「都市伝説が、煮物食ってる……」
「何を言うか、琴乃さんの腕は素晴らしいよ。ゆくゆくは、琥太郎君に引き継がれて欲しい……」
少女は目を閉じながら手を合わせて「ごちそうさま」と言うと、煮物が入っていたタッパーを洗い出す。
実は、母の料理の腕前は壊滅的だ。未だに祖母が調理担当で、琥太郎もその手伝いをしている。その煮物の味を琥太郎へ引き継げと言うのだ。
「ところで、普段オレが煮物持ってこない日は、何食ってるんだ?」
長年煮物を運んではいるが、普段どういう食事をしているか聞いた事が無い。メニューが、夕食にかち合ったりしないのであろうか。
「普段は紅茶だよ。魔女の主食は「人の気持ち」だから、普段から早々人間の食べ物を食べる機会は無いね」
「それって、人間の食べ物だけで生きていられるわけじゃないって事か?」
「スタンダードに依頼は来るから困った事は無いのだけど……主食が無くなったら魔女は消えるだけだよ。人間の食べ物は、あくまで嗜好品だから」
琥太郎は絶句する。今までそんな話は、祖母にも母にも聞いた事も無い。
「それって、オレが知り合いとか呼ばないと、その内に枯渇したりしないか?」
少女は、きょとんとした表情を作ると、堪えきれずに笑い出す。
「あははははっ……客引きとは、考えてもみなかったな」
笑い過ぎて、ぜーぜーとする少女に、琥太郎は思わずムッとする。
「おまっ、心配してやってるのに!」
「はは、有難う。しかし、今の所困った事は無いよ。心に隙間風が吹いている人間は、そうは居なくならないからね」
少女は、まるでキッチンからは見えない、店の入り口を見ているようだった。
「あと、何回か聞いてるけど、名前は? 『お前』とか言いにくい」
ふふっと、少女は純粋なようで魅惑的なような笑いを漏らす。
「魔女の名前は魔力だからね。知られてしまっては魔力が無くなってしまう」
「魔女って意外に面倒くさいんだな」
「そうでもないよ」
少女は洗ったタッパを奇麗にして琥太郎へ返す。
「琴乃さんへ、お礼を言っておいておくれ」
ニコっと笑うと、琥太郎の手に飴玉を二個乗せた。
「!?」
「ああ、違う違う、普通の飴玉だからね」
普段この少女は、人の願いを叶える代わりに人の「感情」を飴玉のようなものに封じ込めて食べてしまうので、ぎょっとしたのだ。
「お使いに来てくれた、ご褒美だ」
そう言って一つを袋から出すと、琥太郎の口に含ませる。
「んむ」
「じゃあ、もうお帰り。琴乃さんも母君も心配するからね」
むわっ。
気が付くと、暑い路地裏に放り出されていた。扉は影も形も無い。
これは、深入りしすぎて追い出されたのだろうか。
まあ、でも
琥太郎はラムネ味のする飴をガリっと噛んだ。
「夏休みは長いから、また会えるな」
独り言を言って向きを変えると、エアコンの効いている我が家目指して、坂道を登っていった。
今回はバッドでもトゥルーでもない、魔女の楽屋裏話です。短編を挟みつつ、また彼女の事を書きたいですね。




