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第四十話「流れを壊す者」

 戦場は、静かだった。


 いや。


 “整っていた”。


「補給線、第三ルート遮断成功!」


「敵飛行艇、出撃数減少!」


「前線、維持できています!」


 報告が軽い。


 戦える。


 押し返せる。


(……本当に変わった)


 クロノスは空を見上げる。


 ヴェントラが風を裂く。


 オルディウスの指示通りに動くだけでいい。


 それだけで、戦場が整う。


「楽だな」


 ガイアスが笑う。


「今までが無茶だっただけだ」


 クロノスもわずかに笑う。


 だが。


 その隣で。


 ユークスは、黙っていた。


 頭に残っている。


 瓦礫。


 崩れた家。


 助けられなかったもの。


(……守れた。でも)


 拳を握る。


(全部じゃない)


 その感覚が、離れない。


「おい、どうした」


 ガイアスが声をかける。


「……いや」


 短く返す。


 だが。


 視線が、揺れている。


 すると、突如。


 風向きが変わる。


「……前線、応答なし」


 隊に緊張が走った。


「第七部隊、通信途絶!」


「第九部隊――壊滅!」


「は……?」


 意味が分からない。


 優勢だったはずだ。


 なのに。


 壊滅。


 “瞬時に”。


 壊滅した部隊達の中心には奴が、いた。


 黒いワイバーン。


 その上に立つ男。


 ヴァルター。


 周囲には。


 何も残っていない。


 ただ。


 壊れた空だけがある。


「……遅い」


 それだけ。


 次の瞬間。


 動く。


 一閃。


 終わる。


 部隊が。


 “消滅”する。


(……なんだ、これ)


 遠くから俺は惨状を見た。


 戦いではない。


 ただの“処理”。


「おい……」


 ユークスの声が低い。


「アレ、無理だろ」


 俺は答えなかった。


 その時。


 ヴァルターの視線が動く。


 こちらを向いた。


(……っ)


 空気が変わる。


「――来るぞ!」


 俺はが叫んだ。


 ヴェントラが加速。


 だが。


 間に合わない。


 一撃。


 空が裂ける。


(終わる――)

 

 すると、


 ――横から、衝撃。


 空気が弾ける。


 軌道が逸れる。


 ヴァルターの動きが、止まる。


「……ほう」


 その先にいたのは。


 元帥のオルディウス


「若いのをいじめるな」


 軽く言う。


 ただそこにいるだけで。


 空気が変わる。


 俺は息を呑んだ。


(……この人が)


 ヴァルターが、ゆっくりと口を開く


「……久しいな」


 一歩、間を置く。


蒼鷹(そうよう)オルディウス」


 空気が変わる。


 クロノスの背筋が、わずかに震える。


(……あのヴァルターが、名前を知っている)


 オルディウスが、軽く笑う。


「その呼び方、まだ残っていたか」


 そして、蒼鷹と、黒の騎兵が動く。


 重くそれで早くぶつかる音。


 空が揺れる。


 一撃。


 さらに一撃。


 均衡。


 完全ではない。


 だが。


 “止めている”。


 ヴァルターが、わずかに笑う。


「……なるほど」


「面白い」


 一歩引く。


 ヴァルターの視線が、わずかに動く。


 俺へ。


 そして、周囲の戦場。


 壊れた部隊。


 崩れた陣形。


 十分だ、と言わんばかりに。


「……目的は果たした」


 静かに言う。


「戦場は、既に崩れた」


 一歩、退く。


「これ以上は、無駄だ」


 オルディウスが目を細める。


「逃げるのか」


 ヴァルターは否定しない。


 ただ、淡々と。


「違う」


 一瞬だけ、視線を合わせる。


「次の戦場へ行くだけだ」


 そのまま、背を向け、俺に言った。


「……その命、預けておけ」


 アストレア王国竜騎兵団は撤退した。


 静寂。


 誰も、すぐには動けない。


 クロノスは理解する。


(……止めた)


(この人が、止めた)


 その中で。


 ユークスが、ぽつりと呟く。


「……無理だ」


 顔を上げる。


 目が揺れている。


「今の俺じゃ、無理だ」


「判断も遅れる」


「焦る」


「守ろうとして……全部崩す」


 一歩、下がる。


「……俺を…部隊から外してくれ」


 静かに言う。


「言われるまでもない」


 オルディウス。


 真っ直ぐに見る。


「今のお前は使えん」


 冷たい。


 だが、嘘はない。


「だがな」


 一拍。


「逃げたわけじゃない」


「自分で分かってるだけ、まだマシだ」


 ユークスが歯を食いしばる。


「下がれ」


「守る側に回れ」


「今のお前に任せる場所は前線じゃない」


「……分かった」


 ユークスは静かに去っていった。


 それから、少し時間が空き、


 格納庫から少し離れた場所。


 レグナが、静かに言う。


「……無理をなさらないでください」


 オルディウスは、軽く笑う。


「無理をするために戻ってきた」


 一拍。


 そして、空を見る。


「だがな」


 わずかに息を吐く。


「昔ほど体が動かん」


 軽く言う。


 だが。


 俺は感じてしまった。


 さっきの一撃。


 あれは、限界に近かったのではと。


「あと何度かだ」


「俺が前に出られるのは」


 レグナは何も言わない。


 ただ、頷く。


 その意味を、理解している。


 俺は夕焼けに染まる基地を眺めた。


 希望にただすがっているだけではダメだ。


 だが。


 絶望でもない。


 理解した。


(……まだ、届かない)


 だが。


(届く場所は、ある)


 戦場は、変わる。

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