婚約破棄をして処刑された馬鹿王子の呪い
「マリアローゼ、我は真実の愛に目覚めた!ここに婚約破棄を宣言する!」
と男爵令嬢の腰に手を回しながら宣言をした。
そしたら前世を思い出した。今更遅い。
すると、やっぱり。マリアローゼは論理で対抗してきた。
「ダクリア殿下・・・男爵令嬢に王妃教育は無理でございます。それに我がメイデイ公爵家の後ろ盾無しに王位を保てるでしょうか?」
衛兵が動く。父上、母上までマリアローゼの味方だ。
前世、王族を処刑した側の我が王族に生まれ変わるなど、ここは煉獄か?
ならばと見渡したが、王宮にいるのは貴族だけである。
是非もなし。
「おい、スザンナ、やっぱお前との愛は嘘だった。お前はマリアローゼと婚約破棄をする口実だ!」
「な、何故でございますか?私は殿下と共に地獄まで行きますわ!」
「ええい。言う事を聞け!俺は王太子だぞ!」
スザンナは前世の下宿の娘と似ている。我の熱心な支持者であった。
「衛兵よ。ダグリアは乱心だ。捕らえよ」
「御意」
父上の命令で我は捕らえられた。
そして、毒杯を賜ることになった。
貴族牢だ。メイドや従者もついている。
全く恵まれている。
スザンナは修道院に行き。生涯そこで過ごすそうだ。
それで良い。
だが、毒杯に異議を申し出ることにした。
「どうせ、殺すのなら、公開で処刑をお願いする。処刑の方法は我を任せて欲しい。お願いだ」
「はあ?お前は何を考えている!名誉が欲しくないと!」
「その方が父上にとって都合が宜しいでしょう。全ての失政の責任を我に押しつけて下さい」
そして、我は処刑人と面会をした。
「すまない。これを作ってくれ」
と図面を示した。
「これは・・処刑道具でございましょうか?」
「ああ、『ギロチン』と言う・・・」
「それでは、私どもは職を失います」
「何を言う。ギロチンは罪人を苦痛なく殺す道具だ。そのことを意識して執行せよ」
「はい」
それから、我は王城前広場に引き出された。
罪状は、婚約破棄をしただけだ。
全く片腹痛い。
前世では命令で数千人を殺した我はこの地ではどのような罪になるであろうか?
【聞け!ダグリアは王太子の地位を良い事に、不正の財を蓄え。外国と通謀した!よって、処刑とあいなった!】
そうか、相手を陥れる際、我も不正の蓄財と外国との通謀を理由にしたな。芸のない。
「ククククク!」
思わず笑ってしまった。
「・・・殿下、最期のお言葉を・・」
「我の死が王国にとって良い方向に向かわんことを・・」
とまるで、前世の王の最期の言葉のようなことをいった。
あいつもそんな気持だったのか?
しかし、これは呪いでもあるのだ。
民は日頃の鬱憤もあるのか?我を罵倒し、この呪いの言葉はかき消えた。
【生活が苦しいのはあんたのせいだったか!】
【悪の元凶め!】
【早く死ねよ!死んだらその服はくれよな!】
それで良い・・・
「では、殿下、私の名はサミルでございます。処刑人総代のサミル直々にギロチンで刑を執行させて頂きます」
「うむ。本来、処刑人は王の補佐役になるものだ。今までありがとう・・・」
【執行!】
数秒間か、数分間か。首が離れた我に意識があった。
サミルが我の首を高く掲げて刑の執行が終わった事を示す。マリアローゼは我を見ていない。ギロチンをうっとり見ている。・・・・あれ、暗くなった。
☆☆☆
うっとりとギロチンを見ていたマリアローゼはサミルに近づいた。
「まあ、これは、罪人に苦痛を与えない処刑道具よね」
「実際に殺されてみないことには何ともわかりません」
「いいわ。これを公式の処刑道具にしますわ!」
「「「ジーク!マリアローゼ様!」」」
全ての元凶は去ったわ。さあ、私は政治を刷新する。
ダクリアが下級貴族を王宮に多く入れたわ。
弾かなければ、元の秩序に戻すのよ。
【処刑!処刑!処刑よ!】
王都では千人規模で下級貴族、上級平民がギロチンで処刑された。
剣での斬首と比べて極めて効率的で、しかも、苦痛を与えないとの触れ込みだ。
王都市民は恐怖した。
マリアローゼは、ダグリアの不正を大々的に調査をさせたが・・・
「何ですって、ダグリアの蓄財は・・たった、金貨50枚ですって!」
「はい、熟練職人の年収にも満たない額です」
「手紙は?外国との内通は?」
「ございません。手紙の内容は地方官僚とのやり取りでございます」
そして、数ヶ月後。
【売国婦!マリアローゼを殺せ!】
【やっぱり、婚約破棄される女は何かあるわね!】
「ヒィ、そんな。私は公爵令嬢として生活をしていただけよ!」
マリアローゼは粗末な荷馬車に乗せられて処刑場に送られた。
そして、首がコロンと落ちた。
処刑人サミルはマリアローゼの首を高く掲げた。
彼女の目には民衆が見えた。
・・・そんな。私に向かって、『ジーク』と連呼してくれた民衆が・・・お父様・・・
彼女が最期何を思ったか定かではない。
この混乱は地方に派生したが、やがて、独りの魔道将校が副官を連れ、男爵令嬢スザンナが追放された修道院を訪ねて来た。
「我輩はレオン!魔道師団の将校である・・」
「静かにして下さいませ・・坊やが起きてしまいますわ」
「これはすまない」
男爵令嬢は男児を出産した。
ダグリアとの子である。修道女の身分なのにズザンナは乳母に赤子を任せた。乳母がついている。
「単刀直入に言う。我輩は王都を制圧出来る。しかし、前世持ちである。自ら王冠を被る事はできない。それで前世失敗をした。その子を王に推戴する」
即座に男爵令嬢は冷たく言い放った。
「それは貴方様の勝手でございます。坊やが成長したら自分で選ばせますわ」
「そうか・・」
とだけ言って魔道将校はその修道院を去った。
「レオン様、あの修道院は処刑人一族の手がかかっているようです」
「そうか、やっぱりな。男爵令嬢なのに待遇が良い。処刑人一族は王の補佐を気取るか?まあ、どうでも良い」
「しかし、ダグリア殿下は何がしたかったのですかね?」
「フ、あれはロベスピエールだ。前世で手紙を見たことがある。今世の地方宛ての殿下の書簡の文字と一致している。まるで演説の草案のようだった。我輩は見たのだ」
「また、変な事を・・・」
「我輩はこの煉獄の地で同じ失敗はしない。島流しにならないぞ」
後にレオンは王都の混乱を静める中心人物になったが、代王として王位につかなかった。
その後、地方から王族の地を引く少年が発見され王位を継ぐが・・あの男爵令嬢が産んだ子かは定かではない。
その少年王の最初の王命はギロチンの封印であったと伝えられている。
その傍らには処刑人一族の代表が必ず1人ついていたと年代記には記されている。




