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とある書き手のエッセイ集

オタクは激怒した

作者: 空野 奏多

オタクは激怒した。


必ず、かの「全部無料ならいいのに」とか言う無知暴論の一般人を分からせなければならぬと決意した。



オタクには一般人の思考がわからぬ。


オタクは、創作物の奴隷である。

お布施を貢ぎ、妄想と遊んで暮らして来た。

けれども無知に関しては、人一倍に敏感であった。



きょう午後オタクはある発言を聞き、立場と葛藤を(かいくぐ)り、宇宙猫の果てから此の思考へとやってきた。


オタクには貯金も、耐久性も無い。IQも無い。ちなみに愛はある。

生涯、内気な心と仮面暮らしだ。

この仮面は、社会の或るたしかな身分を、永遠、一般人としてやりすごす為になっていた。

終わりも迎えてはならぬ。


オタクは、(サガ)ゆえ、推しの漫画やら推し活のグッズを買いに、はるばる遠方でも迎えに行く。先ず、その品々を買い集め、それから一般人の巣窟に肩身を狭めて隠れた。


オタクにはお気に入りの人が(複数)あった。

創作の主である。

今は此の世知辛い世の中で、神をしている。その主を、大事に支えるつもりなのだ。いつも無料供給を拝見はしているが、課金をするのも生きがいである。



潜伏しているうちにオタクは、一般人の様子を怪しく思った。ひっそりしている。



まだ沼に落ちず、普通に過ごせているのは当たり前だが、けれども、なんだか、沼のせいばかりでは無く、一般人全体が、やけに寂しい。


のんきなオタクも、だんだん不安になってきた。その場にいた若い衆を捕まえて、何があったのか、数年前に一般社会に漫画アニメが進出した時は、オタクはみんな広告ありきでも見せていただけるなんて実質無料だとお祭り騒ぎで、界隈外も賑やかであった筈だが、と質問した。


若い衆は首を振って答えなかった。しばらく彷徨って根っからのオタク後輩に逢い、こんどはもっと、先輩風を吹かせて質問した。

後輩は答えなかった。オタクは後輩のからだをゆさぶって質問を重ねた。

後輩は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。




「オタクの皮を被った一般人は、創作を殺します」


「なぜ殺すのだ」


「作品が好きで〜、というのですが、誰もそんな、推しに正当な課金や評価、感謝をするというオタク概念(ごころ)を持っては居りませぬ」


「たくさんの創作周りを侮辱したのか」


「はい、はじめは無料アプリを。それから、ご自身のオタク心を。それから、作品に関わる社会の構造を。それから、オタク社会の民を。それから、有料漫画を。それから、賢神(けんしん)の創作者様を」


「おどろいた。一般人(パンピー)は乱心か」


「いいえ、乱心ではございませぬ。漫画に、課金することが出来ぬ、というのです。このごろは、無料アプリの存在も、お疑いになり、少し広告を見れば無料で見せてくれるものでは、面倒くさくて読む気が失せるから全部無料で公開しろと発して居ります。広告が多ければストレスが溜まると天秤にかけられ、読むのを諦められます。きょうは、その件で愚痴られました」


「いや買えよ広告が嫌なら! 好きで読んでるんじゃないんかい! 好きなら課金しても実質無料だろ⁉︎」


「先輩、オタクの本音漏れてます」



 聞いて、オタクは激怒した。「呆れた一般人(パンピー)だ、生かしては置けぬ」


 オタクは単純思考だった。買い物を背負ったままで、のそのそと敵場にはいって行った。たちまちオタクは一般人に吊るし上げられた。調べられて、オタクの懐中からは推し活グッズが出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。



「オタク君さぁ、これで何する気だったの? 先生怒らないから言ってみ?」



 オタク心のない一般人は、静かに、けれど含みを(もっ)て問いつめた。その一般人の顔は半笑いで、我々の溝は、刻み込まれたように深かった。




「え、この話し方でオタクじゃないの?」


「先輩、その人『漫画なんて全部無料でいいじゃんね。アプリ多すぎて嫌になるから、国でまとめて1つにして無料公開してくれたらいいのに』って言った人です」


「いっけなーい! 殺意殺意♡ 全部無料がいいだって? 作者だってそれで生計立ててるんだゾ☆ しかもそれ、大人が言ってるんですかぁ〜⁉︎ 金を払う(おふせ)か広告か2択選ばせていただけるだけで感謝なのに搾取までしようとするなんて……もう殺すしかなくなっちゃったよ! 次回ファッションオタク死す! 決闘(デュエル)スタンバイ……♤」


「混ざってる混ざってる」



 脳内で話しかけてきた後輩の背後霊に返事をした。オタクはよく脳内会話をする。そして、創作神(おし)を泣かすものに容赦はない。




(いち)一般人(ぼうくん)の手から救うのだ」と、オタクは悪びれずに答えた。


「お前がか?」一般人は憫笑(びんしょう)した。




「仕方の無いやつじゃ。おまえには一般人の苦悩がわからぬ」


「言うな!」と、オタクはいきり立って反駁(はんばく)した。




「作品に見合った課金(ほうしゅう)の価値を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。一般人は『アプリなら無料!』とかに協力してくれている作者の良心さへ疑っている……いまだにネット配信ない作品だってあるのに!」


「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。ブームがすぎたら物があっても邪魔だし、人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ」


「うるせー! 好きなものぐらい信じろー‼︎ オタク舐めてんじゃねー‼︎」


「先輩、心の声漏れてます」


「そもそもオタク君さぁ、別に無課金が好きじゃない証拠にはならないよね?」


「無課金は好きじゃない証拠にはならないが、無課金を強要するのはその作品には価値がないって言ってる証拠にはなるだろうがよ!」


「えー? 無料がいいなって話じゃん」



 暴君(パンピー)は落ち着いて呟き、ほっと溜息をついた。「一般人だって、平和を望んでいるのだが」


「何のための平和だ。自分の金を守るためか」今度はオタクが嘲笑した。


「だまれ、下賤の者」自称漫画好き一般人は、さっと顔を挙げて報いた。




「口ではどんな清らかなことも言える。一般人には、オタクの腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに金と人権の(はり)ないオタク晒し(つけ)になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ」


「ああ、一般人は利巧だ。自惚れているがよい。私はちゃんと散財して爆死する(しぬ)覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ——」




と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、公開処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たくさんの創作主に、希望を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私はなろうで共感の旗をあげさせ、必ず、ここへ帰って来ます」




 さぁここでみんなに質問だ!

 ここまで読んで君はどう思うか⁉︎

 良い創作にも対価はいらないと思うか⁉︎




 オタクは思います——(いな)であると!




 ヘイそこでなろう読んでる君! 所詮無料のクオリティだなと高みの見物をしたことあるか⁉︎ それは一部当たってるとも言えるんだね!




 お金を払うというのは、クオリティが求められるということ!


 タダで提供しろというのは、そのクオリティは問わないということなんだな!


 愛=お金ではないが、お金は愛になりえる! そして「無料でいいじゃん」と買い叩くのは、愛がないになりえるのです!




 君たちだって、ご褒美がある方が頑張るだろう⁉︎ そりゃ作者だって一緒! しかも創作の場合、その環境が整わないと良いものは生まれない——無料でそんな良いものがホイホイできると思うか?




 そんなわけはないんだよね!




 だからオタクは思う!

 推しは推せる時に推せ‼︎

 報酬は渡せる時に渡せ‼︎




 価値の創造は報酬(かね)が絡む‼︎




 タダほど高いものはないんだよ! 君が好きだと思うものは、誰かの時間と労力が裂かれて創造されている——という想像が大事だぜ!




 無から有は生まれない‼︎




 広告くらい見ような!

 アプリくらい入れような!

 お金が払えないなら見合う労力は払え‼︎




 それが経済を回して、ひいては推しの血肉(チカラ)になるのさ——後でいらないものもその時はいるもの! 思い出はプライスレス!



 自分の中の熱中(スキ)を大事にして!



 経済、回してこうな!

 推しの命、救ってこうな!

 オタクとの約束だぞ‼︎

とはいえ最近の広告どない?ってのは多いけどね!

でも広告は代わりにお金払ってくれてるからね!

それもまた忘れちゃいかんのだよ!


ちなみにこの作中パンピーのモチーフは本に関わる側なのに作中問題発言をした人なんだけど、そういう人多かったらヤバいなと怖くなって書きました。創作物を軽視しすぎじゃん???


国でまとめられるわけないやろ!

国がお金払ってくれるわけもないのに!

国営海賊サイト(マンガむら)とか恐ろしすぎる思想やん!


覚えておいてください……お金がなきゃ創造の余裕も良作もできるわけありません。痩けた畑に作物は育たん! 競う価値のない市場に魅力は生まれん!


良い子のみんなは社会と経済の仕組み、学ぼうね!

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― 新着の感想 ―
非常に面白かったです(笑) 他の方の感想と被っていたらすみませんが 先ずタイトルが秀逸でした。 ランキングに上がる理由もクリックする理由も このタイトルから感じられました。 そして読んでみたら、上…
こんにちは。 『走れメロス』のセリフを上手く使っているところは、笑いました。                       素晴らしい。 創作にどれだけ時間と手間がかかっているのか、わからない人にはわ…
 言ってることは正しい。  但し、無い袖は振れないのが現実。  ……なるほど、だから最近のサブカルチャーは子どもではなく成──青年向けなのか……。
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