時間と踏ん切り
外出の準備には、思いのほか時間がかかった。
準備と言っても用意したのは、ミミズの土を集めるためのスコップと袋ぐらいだ。
一番時間がかかったのはおこめちゃんの心の準備だった。よっぽど外に行きたくないらしく、歩いては立ち止まり、うつむくことを何度もくり返していた。
「早く行かないと寝る時間なくなっちゃうよー」
「夜だから誰もいないって」
「誰かと会いそうになったら隠れればいいじゃん」
そう声をかけ続けると、おこめちゃんはようやく私の方を見て「行くべ」と小さく言った。
なんで外に出るのを嫌がってるのかはわからないけど、私がここに来てから一度も外に出たところを見たことがない。雪が積もってるせいかな、なんて考えてたけどそうじゃないっぽい。
戸の引手を握ったおこめちゃんの左手は少し震えていて、なかなか開けようとしない。
こんなにゆっくりしてるんじゃ明るくなっちゃうよ。村の人たちが起きてきちゃう!
少しずつ焦り始めた私はおこめちゃんの手の上に右手を重ねて、ドアを勢いよく開けた。冷たい冬の風が部屋の中に流れ込み、彼女はまん丸な目でこちらを見つめてくる。
「早く取りに行こ。他の人たちが起きる前にさ」
驚いた顔のまま固まっていたが、私の言ったことを理解したのか、おこめちゃんは小さく頷いて前を向いた。
「う、うん、さぱっと行って帰ってくりゃいいだけの話でねが」
震えた声でそう呟く。それは自分に言い聞かせてるようだった。
二人で家の外の暗闇を眺めていると、戸を開けた時のまま繋がれた私の手を、おこめちゃんはしっかりと握ってきた。手の温もりと細い力から伝わる彼女の不安をかき消すように、一歩雪道へ踏み出した。




