山盛りお米と「おこめ」
陽の光を浴びて私は目を覚ました。体には毛布がかけられている。
体中、特に脚の痛みを感じながら起き上がると、そこは見覚えのない古臭い部屋だった。
徐々に脳みそが起き始めると、だんだん昨夜のことを思い出してきた。
そうだ、雪の中を歩かされて…どこかの田舎に連れてこられて、この家に着いたら寝ちゃったんだ。
重たい毛布をどかすと、床に置いてあるご飯が目に入った。
漬物、味噌汁、山盛りのご飯。すごく質素で作りかけにも見えるけどすごく美味しそう。
これって私の?でもお腹減っちゃったし私に向けてあるから食べてもいいよね?
恐る恐る箸を手に取ると、私はご飯を口に運び始める。
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大盛りの白米に苦戦していると、部屋の奥から小柄な少女が現れた。
「あんれもう覚めたんか。あんけあえばったんけいんち寝てると思ったがに」
ゆったりと話しかけてくれるけど、やっぱり意味はわかんない。
とりあえず首をかしげてリアクションする。
「ほんに言葉が通じんらしね。でもしっかり食べれてるんがらなだいじそやね」
そう言ってニコっと笑い、同じような食事を持ってきた。その量は私と同じくらい。私より小柄なのに食べ切れるのかな?
でも彼女は黙々とご飯を食べ進め、ほぼ私と同じタイミングで食べ終えた。
ごちそうさまでした、と言うとまた奥へと消えていく。気になったのでついていくと、どうやら外へ出て行くみたい。
扉の前で私の方を振り向く。
「そこん待って見れれね」
なんとなく「出るな」って言いたいんだろうなと感じて頷く。
開けた扉からは高く上る太陽と一面の森が見えた。
少女はそのまま外に出て、何か農具っぽいものの手入れをし始める。
私はその場に座って手入れの様子をぼんやりと眺める。
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「おめさ名前なんて言うだ?」
手入れの手を止めると、彼女は名前を聞いてきた。
「えーっと、陽香。白井陽香」
ちゃんと伝わるか不安だったけど、「はるか、はるか」と繰り返してるから大丈夫そう。
「わしは「おこめ」いうんさ。でもすっとろいけよう「ベコ」つ呼ばれるんさ」
おこめちゃんはそう言って少し恥ずかしそうにするとまた手入れに戻る。
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「はるかさどこから来ただか?」
「千葉県の麗混市」
なるべく短く伝えたつもりだったけど、おこめちゃんはキョトンとしている。
まあ、大学行くまで聞いたことなかった地名だし、あんまり有名じゃないのかも。
「華窟市の近く」
少しは有名かなと思って言ってみたけど、やっぱり分からなかったみたい。少し困ったような顔をして手入れを再開した。
「よう分かんとこやなあ。」
「うん、結構マイナーかも。私もあんまり知らなかったし」
会話はちぐはぐで通じてなさそうだったけど、その後も二人でおしゃべりを楽しんだ。
暖かい日差しと自然に囲まれた村の中にいると、忙しい日常から離れたみたいでちょっとだけ、いい気分だった。
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