日常からの異変
「…以上でミーティング及び引継式を終えたいと思います」
部長の言葉によって今年最後のミーティングは締められる。
労うような拍手が終わると皆ぞろぞろと部室を出ていき、私も続いて外に出ると軽く伸びをする。
これから待ち受けるアルバイトに憂鬱な気持ちになっていると後ろから肩を叩かれる。
「ハルカちゃん、このあとみんなで昼飯でも行かへん?」
声のした方を見ると、細い目をした関西弁の女の子がニコニコしながら話しかけて来ていた。
「私は今日バイトあるからいいかな」
「そっか、ほなしゃあないな。ミーティング終わったし行ける人で軽く打ち上げみたいなんしよう思うとったんや」
女の子は笑顔を絶やさずに続ける
「一年が部長の卒業前にいっぱい飯行っときたいっちゅうさかいにみんなに声かけとったんや」
よっぽど行きたいみたいやで、と後方の部室を指さす。
部室をふり返ると、一年生二人組とコートを着た三年生の先輩が何やらワアワア言い合っている
「まあ部長もすぐに引っ越すわけやないからまた今度な」
そう言うとその子は他の部員たちに声をかけに行った。
ーーーーーーー
外に出ると雨が降っていたため持って来ていたビニール傘を開く。
雨の中を歩きながら先ほどの会話を思い出す。
部長ももう卒業しちゃうのか。最近会ったばっかりな気がしてた。
そんな感慨にふけっていると後ろから車がやってくる。運転席を見ると、さっきまで一年生と喋っていた先輩が座っていた。
「よう、部長たちと飯行かねえのか?」
窓を開けて声をかけて来た先輩は、車に他の三年生二人を乗せて帰るところのようだった。
「今からバイトなのでまた今度にします。先輩たちは行かないんですか?」
「ああ、オレ達は残り少ない春休みを満喫してくるぜ。追いコンはこの間やったし今すぐ卒業ってわけじゃないしな」
そんなことを喋っていると後部座席の窓が開く。
「すまん、時間がないんだ。帰って来たらまた話そう」
後ろに座っていた三年生がそう言うと、車はゆっくりと動き出す。
「卒業式までには帰ってくるからよ!」
その言葉を残して車はスピードを上げて先に行ってしまった。
卒業式
なんだか私にはその単語がすごく重いものに感じられた。
卒業かあ
ずっと遠い未来な気がしてたけどすぐなんだろうな。来年には三年生がいなくなってその次は私たち…
突然視界が揺れる。
地震や貧血とかそういう感じではなかった。立っているはずなのになぜかなんの抵抗もなく地面に倒れ込んでしまう。
いきなりのことに頭がハテナで埋め尽くされる。
なに?何が起きたの?転んだ??なんで???
パニックになりながらも立ちあがろうとするが、まるで脚がなくなってしまったかのように力が入らず、立ち上がることができない。
傘を握る力もなくなり、顔に雨が降り注ぐ
どこか遠くで大きな音が鳴ったように感じたのを最後に私は意識を失ってしまった。