死は静かに忍び寄る
その日の夕方近く。
ペストマスクを被って戦闘装束に身を包む涼子はエレオノーレと共に連中の本拠地たる学園から約5キロメートルの地点で身を隠していた。
そんな涼子は魔力探知防止の為に用意させた通信機を介し、正樹に尋ねる。
「私が言うのも何だけどさ?良かったの?」
涼子が尋ねたい内容を察した正樹は肯定する。
「あの和平交渉に関してならアレで良い」
和平交渉の為の会談を自ら求めながら、正樹は涼子と共に問答無用で会談相手を躊躇いなく射殺した。
ソレを是とした事。
それから和平を求めるポーズ云々等の以前から口を酸っぱくして言い続けた正しい順序云々。
其れ等を自ら投げ棄てた事を正樹がアッサリと肯定すれば、涼子は少しばかり"ふざけんな"。
そう思ってしまう。
それ故に涼子は……
「だったら、最初から殺った方が良かったじゃん。何なら、この間の下見の時に殺れば終わりだったじゃないの?」
思った事をそのまま口にしてしまう。
そんな涼子に正樹は言い訳がましくも、キチンと理路整然とした理由を答えた。
「あのクソ野郎2人の思惑が解らなかったのが1つ……クソ野郎共が何の為に俺達と連中をぶつけ合わせたのか?解らない以上は不用意な事は出来なかった。ソレは理解してるよな?」
順序立てて説明し、最後には確認の為に正樹が問えば涼子は肯定する。
「えぇ、ソレは解るわ」
涼子が理解している事を確認すると、正樹は説明を続ける。
「あの偵察の時点ではクソ野郎共の思惑が未だ解らなかったし、お互いに正解に辿り着いて居たとしても仮説でしかなかった」
無線傍受を防ぐ為。
正樹は其処で言葉を切った。
そんな正樹が語った理由は涼子も理解はしている。
その後に続くだろう正樹の言葉も涼子は何となくではあるが、察しては居た。
正樹は一拍置くと、理由の説明。
否、結論を述べていく。
「仮説が正解であったとしても実際に確認出来るまでは仮説でしかない。だから、俺は慎重に動くべきと方針を定めざる得なかった」
慎重に動かざる得なかった。
そんな結論を述べた正樹に涼子は理解すると共に納得すると、次の疑問を尋ねる。
「なら、和平交渉のポーズを辞めたのは?」
涼子の問いに正樹は簡潔に答えた。
「雇い主からネタバレされたから。コレに尽きる」
「成る程。つまり、クソ野郎共の思惑の確認が出来て、クソ野郎共が味方であると判断した。そういう訳ね?」
その問いに対し、正樹は補足する形で肯定する。
「後、今まで我慢していた鬱憤晴らしだ」
今まで理性的に動いていた正樹から意外な答えが出ると、涼子は感謝した。
「えぇ、お陰で少しはスッキリ出来たわ」
「納得してくれたんなら作戦開始時刻まで無線封鎖だ」
指揮官として無線通信をしない事を告げれば、涼子と正樹の遣り取りは終わる。
無線機をしまった涼子にエレオノーレは尋ねる。
「コレが片付けばモラの方に集中出来るんだな?」
エレオノーレの問いを涼子は肯定した。
「えぇ、彼が私の雇い主達から一月の休暇をもぎ取って来たから集中出来る筈よ」
「なら、これ以上は言わん」
涼子の答えにエレオノーレは一応、納得してくれた。
そんなエレオノーレに涼子は尋ねる。
「貴女こそ、彼の指示で戦闘する事に納得してくれるの?」
今回だけでなく、モラの脱獄に於いても正樹の指揮下で戦う事に納得しているのか?
そう問う涼子にエレオノーレは、納得している事を理由も交えて告げた。
「良い将の下で戦えるならば文句は無い。それに言った筈だが、魔法の無い世界に於ける戦いと言うモノを学べる良い機会を態々棒に振る理由が無い」
「戦争の魔女としては魔法無き世界の戦いは興味を大いに引くんでしょうね……で?アンタの事だから、とっくに戦場を眺めたんでしょ?」
その問いは地球の戦争はどうだったのか?
ソレを問うモノであった。
そんな涼子の問いにエレオノーレはつまらなさそうに返した。
「ドローンとやらが頭上から音も無く襲い掛かって兵を殺し、榴弾砲と言う物や貴様から知った空爆で淡々と遠くに居る敵を粉砕する……貴様の戦い方を見ている様だった」
心底つまらなさそうに答えたエレオノーレに涼子が否定する事は無かった。
「そりゃそうよ。私はこの世界の知識や敵の殺し方を流用して、魔法で可能な限り再現してるだけに過ぎないわ……」
寧ろ、1人のミリタリー趣味者としてエレオノーレの言葉を認めた。
そんな涼子にエレオノーレは尋ねる。
「あのツマラン闘争が貴様の戦い方の根源と言う訳か?」
エレオノーレの問いを涼子は補足説明を交えた上で肯定した。
「その1つと言うべきね。ほら、私って師匠から色んな事を学んだり、暇に飽かして色んな所を旅して廻ったりしてるから」
涼子の答えにエレオノーレは心当たりがあったのだろう。
その心当たりに関して尋ねた。
「貴様が長い間、姿を消してたのはソレが理由か?」
「具体的に何かしなければならない事が無い上に不老不死だと、暇過ぎて退屈で死にそうになるのよ……だから、時間を有意義に使う為に色んな所を旅して廻ったりしてたのよ。で、旅先で武術を学んでみたり、其処の言葉や学問を学んでみたり、名物料理を食べたりして過ごしていたのよ」
要約するならば、退屈凌ぎの暇潰しも兼ねて涼子が最も悪名を馳せた地を離れて世界中を旅して廻った。
涼子はそう答えた。
正樹がこの場に居たら、質問攻めしている事だろう。
そんな涼子にエレオノーレは呆れてしまう。
「随分と長い暇潰しをしたものだ。私の記憶が正しいならば、100年近くは旅して居たろう?」
「お陰で有意義に時間を潰せたし、色んな友達も出来たわ」
心の底から愉しく感じていたのだろう。
そう答えた涼子は優しい笑顔を浮かべていた。
そんな涼子にエレオノーレは告げる。
「なら、貴様を殺した後は貴様の旅路を辿るしよう」
エレオノーレの挑発にも似た言葉に涼子は笑って返した。
「それが良いわ。後でオススメの場所とか教えてあげる」
挑発を意に介さない涼子の答えにエレオノーレは笑みを浮かべる。
その頃。
正樹は手にはサプレッサーとACOGスコープ。
それからフォアグリップやMAGPUL製のストック等が取り付けられた、M4A1アサルトライフルを。
プレートキャリアを胴に帯び、その下の上下には陸上自衛隊が用いる迷彩が施された戦闘服。
頭はFASTヘルメットで鎧われ、顔は耳と首周りも余す事無くドーランで迷彩が施されている。
傍から見れば、陸上自衛隊の隊員の様な出で立ちで、山中の木々が生い茂る深い森の中を駆け抜けていた。
酷く不安定な足場にも関わらず、正樹はシッカリとした足取りで駆けていく。
激しく走っているにも関わらず、草木を食む音も含めた足音を一切立てる事無く、安定した呼吸を維持したまま走り続ける。
正樹はひたすら走り続けた。
そうして30分ばかり全力で走ると、正樹は学園の裏手に面する崖の手前で止まった。
崖の手前で止まった正樹は顔や身体に汗を滲ませては居るものの、呼吸は安定しており荒くなっていなかった。
正樹は静かな深呼吸と共に息を整えて、激しく脈打って暴れる心臓の動きをゆっくりと安定させていく。
程無くして激しかった心臓の脈動が静かに安定すると、正樹はゆっくりと木の陰に伏せて口元に伸びるインカムのマイクを指で軽く叩いた。
インカムのマイクが叩かれると、涼子の持つ軍用通信機から微かながら音を立てる。
「どうやら背後まで侵入する事に成功したみたいね」
軍用通信機のスピーカーからノイズにも似た音がすれば、涼子は正樹が本拠地の背後に面する崖の手前まで接近する事に成功した事を察した。
すると、無線機から正樹の声が聴こえて来た。
「アサシンからキャスター。送れ」
無線機を介して正樹からコールサインで呼び掛けられると、涼子は返事する
「此方キャスター」
涼子が呼び掛けに応じると、地面に伏せて崖から小型のモノキュラーで至近距離から偵察する正樹から報告が送られて来た。
「敵が標的Aを司令部としているのを確認」
標的Aは校舎だ。
正樹から敵が校舎を司令部としている事の報告を受けると、涼子は簡潔に応答する。
「キャスター了解」
「標的Bには半数ほどの敵が居る」
標的Bは寄宿舎。
敵の半数近くが寄宿舎に未だ居る事が報告として情報共有されれば、涼子は了解の旨を伝えた。
「キャスター了解」
「標的Cは動きが確認出来無い」
正樹からの報告に涼子は答える。
「アーチャー、標的C内には魔力ならびに生命反応は無い。送れ」
涼子からの報告に正樹は応答する。
「アーチャー了解。日が沈んだと同時、所定を完結されたし。以上」
応答した正樹から予定通りに夜になった頃を見計らって砲撃する事を指示されると、無線機は沈黙。
涼子とエレオノーレはその時が来るまで、静かに息を潜めて待つのであった。
高望みだろうけど、感想とか欲しい




