和平交渉
迎えのクルマである黒塗りのハイエースの後部に乗せられると、涼子と正樹は早速と言わんばかりにボディチェックがされた。
緊張に満ち溢れた張り詰めた空気の中。
爪先から頭頂部と言った全身と持ち物を隈無く調べられ、完全に非武装である事が確認されると、ボディチェックをした2人のどちらかの部下であろう男は呆れ混じりに言う。
「本当に非武装で来るとはバカなのか?度胸があるのか?迷いますな」
呆れる彼に対し、正樹はニッコリと人の良い笑みを浮かべて答えた。
「和平交渉しに行くのに武器を持ち込む必要は無いでしょ?それに持ち込んでも、こうしてボディチェックされ、没収されるんなら意味が無い」
人の良い笑みと共に正樹が答えれば、男は「それもそうだな」と、納得。
それから直ぐに正樹と涼子に告げる様に指示された、ボスからの伝言を告げる。
「ボスからの伝言だ。"君等が察した通り、我々は最初からあの子達を始末させる為に君等を利用した。確かに綺麗事や人道は大事である。しかし、それだけで世の中は回る訳じゃないのも事実だ。だからこそ、あの子達を殺る為の大義名分を君等を利用して創った。迷惑料も含めて此方は報酬を支払う用意がある。無論、その為に必要なモノも可能な限り全て提供する事を確約する"……以上だ」
長々とした伝言に涼子は呆れ、正樹は顔色一つ変える事無く断りを入れてから問うた。
「すまないが、俺の伝言をオタクのボスに必ず伝えて欲しいが……良いかな?」
「どうぞ」
部下の男がメモ帳とペンを手に伝言を書き残す態勢を整えれば、正樹はメッセージを伝えていく。
「では……"次、こんなクソ嘗めた真似したらブチ殺す。連中の居る学園に関する情報をインフラも含めて寄越せ。それから俺達への慰謝料込みの賠償と仕事の報酬を合わせて6億円を請求させて貰う"。必ず伝えてくれ」
長々とした正樹のメッセージを部下である男は書き連ねていくと、確認を兼ねて復唱する。
「確認します。先ずは"次、嘗めた真似をしたらブチ殺す"。次に"連中の居る学園に関する情報をインフラも含めて寄越せ"。最後に"俺達への慰謝料込みの賠償と仕事の報酬を合わせて6億円を請求させて貰う"……以上でよろしいですね?」
男が一言一句違える事無く復唱されると共に確認すると、正樹は更なる要求を付け加えた。
「それと、"値引き交渉には一切応じない"。それから、"税務署等から怒られない様にも対策しろ"……コレ等も付け加えてくれ」
正樹の要求に涼子は益々呆れながらも「しっかりしてるわね」そうボヤけば、正樹はさも当然の様に返す。
「当たり前だろ。此処までクソみてぇな茶番に付き合わされてんだ……それなりの金額を貰わなきゃ割に合わんし、大金を貰っても税務署とかに持ってかれるのも不愉快極まりない。だったら、キチンと使っても問題無い綺麗なカネとして受け取りたいだろ?」
「それもそうね」
2人は涼しい顔でそんな遣り取りをすると、男は益々呆れながら尋ねた。
「君等、何で其処まで冷静で居られるんだ?是非とも後学の為に教えてくれないか?」
男の質問に正樹と涼子は答える。
「場数踏み続ければ、度胸は自然と付くもんさ……まぁ、大概はその前にくたばるだろうがね」
「右に同じ。生き残り続ける事が出来れば、度胸は自然に付くわよ」
アッケラカンにさも当然の様に答えれば、男は「俺には真似出来そうに無いな」と、納得してくれた。
張り詰めていた車内の空気は何時の間にか穏やかなモノとなれば、涼子は正樹の肩に触れると念話を送る。
「それで?具体的に"ナンチャッテ"和平交渉をどう進めるの?」
念話で問われた正樹は思考して返す。
「一方的に通告して要求するだけさ……勿論、此方は和平を結ぶ意思があるって演じた上でな」
正樹の答えに涼子は思った事をそのまま念話でボヤいてしまう。
「貴方、詐欺師とかもしてた事あったりしない?」
「地面師はしてないな」
遠回しに詐欺を働いた事がある事を認める正樹に涼子は「アンタがしてない犯罪って何よ?」と、思わず尋ねてしまった。
そんな涼子に正樹は思案しながら念話で返していく。
「俺がしてない事か……先ず、レイプはしてないな。後、痛み止めや無理したい時を除いてヤクをキメてないな……他には……一応、ゲリラとか反政府勢力に加担してない村に対して村焼きとか虐殺はしてないな」
非道極まりない事を宣う正樹に涼子はゲンナリとしてしまう。
「私も人の事は言えないけどさ……貴方、マジモンの最低のロクデナシね」
酷い言い草をする涼子に正樹は笑顔を向けて念話で返した。
「言ったろ?俺は最低のクソ野郎だって……それに君と比べたら、俺なんてカスだぜ。伝説の魔女さん」
「え?何で?貴方から念話送られて来てんの?」
正樹は魔法が使えない。
勿論、念話による通信も出来ない……筈だった。
それなのに何故、自分に念話を送る事が出来ているのか?
困惑してしまう涼子に正樹は答える。
「俺だって驚きだ。俺のオツムに攻殻機動隊めいた電脳があるのは知ってるよな?」
「えぇ、まさか……」
驚きと共に1つの可能性に辿り着き、信じられないと言った様子の涼子に正樹は肯定する。
「電脳通信を試しに君に送ってみたら何か成功した」
「マジで?」
「俺だって驚いてる。あ、マジでどうなってんだよ?」
困惑する涼子に正樹も困惑のあまり、首を傾げながら尋ねてしまった。
尋ねられた涼子は正樹に関する仕事が増えた事に対し、乾いた笑いを漏らしてしまう。
「わぁい、仕事増えたぁ……」
嘆く様にボヤきを漏らす涼子に正樹は他人事の様に宣った。
「労働は尊いぞ」
「うるせぇバカ」
コレから厄介な問題に取り掛かると言うのに、涼子と正樹から緊張感と言うモノが一欠片も感じられなかった。
そんな2人の神経は麻痺してるのか?
それとも、単に図太いだけなのか?
何れにしろ、男には判断が付かなかった。
会談場所に着くまでの間。
正樹は暢気に煙草を燻らせ、涼子は壁に寄り掛かると共に目を閉じて眠りに着いた。
明らかに2人から恐怖や緊張と言うモノは一切感じられなかった。
実際、2人にすれば何時もの事。
即ち、日常茶飯事でしかない。
それ故、2人はその時が来るまでノンビリとハイエースに揺られながら暢気に待つのであった。
30分後。
ハイエースは停まり、スライドドアが開いた。
正樹は何本目かの煙草を金属製の携帯灰皿に棄てると、静かに眠り続ける涼子の肩を揺らしていく。
「起きろー。着いたぞー」
身体を揺らされて目を覚ました涼子は欠伸をすると、ボヤキを漏らした。
「ファぁぁ……もう少し眠りたかったわ」
「帰ってから寝ろよ」
面倒臭そうに返した正樹は寝ぼけ眼の涼子と共にハイエースから降りると、ハイエース内に残る男に申し訳無さそうに尋ねる。
「あー……済まないんだけど、銃を借りて良いか?弾も込みで」
正樹から唐突で突拍子も無い要求をされると、男は拒否で返した。
「申し訳ないが、そう言う事は私には赦されてない。だが、今この場で何らかの方法で手に入れて持ち込んだとしても我々は何も見ていないし、君等は丸腰だった。そうボスに伝えるだけだ」
男の答えが意味する事を察したのだろう。
正樹は「ご厚意に感謝する」そう、男に感謝すると涼子の方を向いた。
涼子は確認の為、悪い笑顔を浮かべる正樹に尋ねる。
「ポーズとは言え、一応は和平交渉するんじゃなかったの?」
そう尋ねる涼子に正樹は質問で返した。
「くだらねぇ戯言に付き合って時間を無駄にするか?連中を弾いてさっさと終わらせて帰るか?どっちが良い?」
正樹の問いに対し、涼子が選んだ答えは決まっていた。
「仕方無いわね。悪人は悪人らしく振る舞いましょう」
そう答えた涼子は自分の掌からGLOCK17を召喚させると、当然の如く正樹へと差し出した。
GLOCK17を受け取った正樹は慣れた手付きでグリップ内に収まる弾倉を抜いた。
グリップから抜き取った弾倉の後部にある小さな孔を見ると、弾倉内に17発の9ミリルガーが装填されているのが確認出来た。
それから直ぐに装填された9ミリルガーが露となる上部を見る。
弾頭がホローポイントである事を確認すれば、GLOCK17のスライドを軽く引く。
そうして、薬室に弾が装填されていない事を確認。
そして、弾倉をグリップ内に戻した正樹がスライドを引いて弾倉の弾を薬室に送り込むと、一連の動作に涼子は感心した様に言う。
「手慣れてるわね」
「そりゃ、こーゆー事ばっかしてたからな」
さも当然の様に返されると、涼子はブローニングハイパワーを右手に握り締めた。
そんな涼子に正樹は尋ねる。
「グロックじゃないのか?」
「本当なら貴方に合わせて同じのを使うのがプロなんでしょうけど、殺るなら一番使い慣れたので殺りたいのよ」
涼子の答えに正樹は「それじゃ仕方無い」と、涼子の拘りを責める事無くアドバイスする。
「撃つ時は胴体を狙え。頭狙うより的がデカい。後、撃つまでは手を後ろにして見えない様にしとく方が良い」
「そうするわ」
そんな遣り取りが済めば、2人は悠然と歩いて会談場所へと向かった。
汚い大人2人の部下達は涼子と正樹が拳銃を握り締めていても、ノーチェックで奥へと通していく。
その後。
汚い大人2人と5人の若者達の待つ部屋に通された。
部屋に入った瞬間。
涼子と正樹は握り締めていた拳銃を向けるや、間髪入れる事無く引き金を引いた。
問答無用。
そう言わんばかりに2発の乾いた銃声と共に1人の少女の頭が撃ち抜かれ、1人の青年の胸が撃ち抜かれる。
撃たれてない3人は突然の出来事に目を見張り、驚きを露わにしてしまう。
そんな3人にも正樹と涼子は躊躇う事無く、弾をブチ込んでいく。
だが、汚い大人2人はさも当然の様に眺めていた。まるで他人事の様であった。
涼子と正樹は弾をブチ込んだばかりの5人に向かって何度も引き金を引いていく。
乾いた銃声が室内に響く度、死体がホローポイント仕様の9ミリルガーで穿たれる。
そうして、トドメを完璧に刺し終えた正樹と涼子は汚い大人2人の方をジッと見詰めた。
すると、島津が呆れ混じりに問うて来た。
「君達、和平交渉をするんじゃなかったのか?」
その問いに対し、正樹はさも当然の如くいけしゃあしゃあと宣った。
「コレが俺達の和平交渉の仕方なんだ」




