時には不満を呑み込んで妥協する必要もある
閑話的な回かな?
時には妥協する必要だってあるのは当たり前だよね
2人のクソ野郎からの迎えが来る1時間前の昼過ぎ。
涼子と正樹は待ち合わせ場所から比較的近い喫煙可能な喫茶店で美味いコーヒーと共に時間を潰していた。
「すぅぅ……ふぅぅ……全て茶番って解って、ネタバレもされた訳だけど……どうするの?」
涼子が煙草を燻らせながら紫煙と共に問うと、正樹は先程の不快さが嘘の様な穏やかな様子で告げる。
「選択肢は2つある。1つ目はクソ野郎2人の思惑に乗って皆殺しにして、クソ野郎共からカネを巻き上げる」
1つ目の選択は2人のクソ野郎の脚本に従い、皆殺しにしてカネを獲る。
但し、クソ野郎の思惑に踊らされる事になるが故に楽しくは無い上に最低な気分になる。
そんな1つ目の選択肢を聞くと、涼子は2つ目の選択肢を尋ねた。
「2つ目は?」
「全部"うっちゃって"帰って、糞して不貞寝する」
「要するに全てから手を引いて、何もせずに帰るって事?」
2つ目の問いが何か?
涼子が具体的な内容を確認すると、正樹は2つ目のメリットを語る。
「利益は無い。その上、俺達の生命が狙われ続ける。だが、クソ野郎共の思惑に乗るって言うクソストレスは無くなる」
正樹が提示した選択肢のメリットを聞くと、涼子は尋ねる。
「3つ目の選択肢は?」
「3つ目?強いて挙げるなら、連中と2人のクソ野郎。それと俺達の飼い主を殺るって事ぐらいか?」
正樹が3つ目の選択肢を告げると、涼子は相談する為に尋ねた。
「貴方はどれを選ぶの?」
「俺か?決まってる。1つ目の選択肢だ」
質問にハッキリと答えた正樹に涼子は理由を問うた。
「理由を聴いても良いかしら?」
涼子に問われると、正樹は理由を語っていく。
「俺は復讐の為に動いてる。その復讐の為には多数の他者の協力が必須となる。コレは解るよな?」
そう問われると、涼子は正樹の問いを肯定する。
「えぇ、解るわ」
涼子が肯定すると、正樹は理由の続きを語る。
「確かに俺はクソみてぇな茶番に振り回され、滅茶苦茶ムカついては居る。しかし、ソレを理由にクソ野郎共も含めて皆殺しにしても獲られるモノは一切無いのも事実だ。スカッとするだろうがな……だが、ソレじゃあ俺の目的に対して大きな障害が必然的に発生する」
「要するに貴方は不満を呑み込んで貴方の悲願を優先する事を選んだ……って事ね?」
そう問えば、正樹は認めた。
「そう言う事になるな。勿論、被害者の当然の権利として大迷惑を掛けられた事に対する慰謝料込みの賠償金もキチンと戴く……じゃなきゃ、今回の件は割に合わん」
今回の件で被った被害の賠償を慰謝料込みで請求する。
そんな断固たる意思を示せば、涼子は正樹が選んだ選択肢に乗る事を決意した。
「なら、私も貴方に便乗して戴くモノを戴く事にするわ」
「その方が良い。今後もこの国で生きてく事を選ぶならな……」
自分と同じ選択する涼子に正樹はそう告げる。
実際問題として、日本で生活を続けるならば司法機関の連中に貸しを作る方が後々都合が良い。
特に正樹は無謀な復讐を果たさんが為の支援が必須である以上。
腹立たさしさや不愉快な気分に拘泥する事無く、敢えて其れ等を呑み込んで先へ進む方が建設的である。
そんな選択をする正樹に涼子は言う。
「物語の主人公なら全てをブッ潰してスカッとしてハッピーエンドを迎えるんでしょうね」
物語の様には行かない事に僅かばかりの不満を示す涼子に正樹は淡々と告げる。
「生憎と現実は物語みたいにスカッとする瞬間は滅多に無い。時には無数の不満を呑み込んで妥協せざる得ないのが現実さ……君だってそう言う時があったろ?」
「えぇ、否定はしないわ」
「それにハッピーエンドなんて俺には似合わねぇよ……後、今の俺にとってのハッピーエンドは奴をブチ殺して、今までのツケを精算させる事だけだ」
シニカルに言う正樹に涼子は尋ねる。
「其処に生きて帰る気って項目は無いの?」
その問いに正樹はシニカルな笑みを浮かべて答えた。
「俺はとっくに死んでる身だ。本来なら地獄に落ちるべき俺、くたばらずに安穏な日々をのうのうと過ごす?流石に赦されんし、帳尻が合わねぇよ」
自嘲も込めてシニカルに答えた正樹に涼子は呆れ混じりに言う。
「あら?そんな事を言ったら、私なんてあの世界で討ち取られて然るべき邪悪な魔女よ?」
邪悪な魔女として好き放題にした涼子の言葉に今度は正樹が呆れてしまう。
「君の様な強者には俺の考えとか、想いを理解して貰おうとは思わんよ」
「私は帳尻とか報いを受けるとか、そう言うのを全て捻じ伏せ、叩き潰して踏み倒し続けて来た。だから、貴方の潔さは確かに敬意に値するけど、私にすれば負け犬の戯言でしかないわ」
涼子は今まで犯してきた罪悪に対する報いを受けさせようとした者達を全て粉砕し、蹂躙して来た。
そんな強者にして勝者でもある涼子から、負け犬の戯言と一蹴されても正樹は否定しなかった。
寧ろ……
「君の言う通りだ。俺の言葉は負け犬の戯言でしかない……実際、報いを受ける裁きの時を全て叩き潰し、捻じ伏せるだけの力が俺には無かった。だから、俺は此処に居る」
当然の事だと正樹は肯定した。
そんな正樹に涼子は意外そうに言う。
「あら?否定すると思ったけど、しないのね」
「俺も君ほどじゃないが、報いとかそう言うのを何度も踏み倒し続けた側だからな……まぁ、時にはバックレたりもしたけど」
正樹も過去に報いの時を捻じ伏せ、叩き潰して来た大悪党だ。
当時の涼子と比べれば、些細なレベルだろう。
だが、正樹も涼子と同じタチである事には変わり無い。
そんな正樹に涼子は意見する。
「だったら、勝利して生還した時の事を考えなさいよ。その方が精神衛生的に良いわよ?」
「今は奴を殺る事だけにしか頭が回らないんでな……終わってから考えるさ」
「なら、とっくに死んでる身とか言うな。アンタは望まずとは言え、この世界に自分の脚で立ってる事は事実なんだから……悲劇のヒロインみたいに振る舞うな。反吐が出る」
正樹に吐き捨てる涼子を正樹は肯定した上で、事実を交えて否定した。
「君の言う通りなんだろう。だが、俺は肉体を持ってるだけで、実際の所は怨霊と変わり無いのも事実だろ?」
涼子は正樹の言葉に苛立ちを覚えながらも、認めた上で告げる。
「強ち間違ってないだけムカつくわね。まぁ、良い。アンタの復讐に付き合う者として、1つだけ約束しろ」
「俺は護れない約束はしない主義なんだが?」
シニカルに返す正樹に涼子は要求する。
「だとしても私に誓え。勝利して生きて帰る事を」
涼子の要求に正樹は呆れてしまう。
「それこそ無理な相談だろ?」
「だとしてもよ。私は自殺に付き合うほど酔狂じゃない。嫌なら、私はアンタの悲願達成の協力を辞めてやる」
一番最大の協力者からの要求に正樹は仕方無い。
そう言わんばかりに答えた。
「約束はするが、期待はするな」
「それで良い。後、自分を死人と言うな……例え、アンデッドだとしても生きてる事には変わり無い」
涼子が要求をもう1つ付け加えれば、正樹はやれやれと言わんばかりに応じた。
「解った。確約はしないが、なるべく気を付ける事にしよう」
「それで良いわ。さて、方針も決まった事だし、私のプランも聞いてくれるかしら?」
正樹は涼子のプランを尋ねる。
「プラン?何だよ?」
「先ず、アンタに魔導の才が本当に有るって言うんなら、私が持つ知識と技術を可能な限り叩き込んでやるのが1つ。次にアンタの身体を詳しく調べたい」
「それはありがたい。だが、後者はどう言う事だ?」
正樹の問いに涼子は答える。
「後者に関してはアンタの肉体を具体的に詳しく調べる暇が色々あり過ぎて無かった。だから、調べてみて爆弾を抱えてたりしないか?それも含めてキッチリ確認したいのよ」
涼子の言葉に正樹は快諾した。
「そりゃ構わん。寧ろ、此方から頭を下げて頼みたかったくらいだ」
「その為に私が会いたくない奴の1人に会いに行く必要があるんだけどね……」
引っ掛かる物言いに正樹は尋ねる。
「どう言う事だ?」
「私も死霊術師としての知識は持ってる。だけど、専門と言う程でもない。だから、私以上に詳しい専門家に診て貰う方が確実なのよ」
涼子の答えは納得出来るモノであった。
触れられていない1つを除いて。
正樹は涼子が触れてない1つを問うた。
「それは解った。だが、会いたくない相手に頼って良いのか?」
「私だって頼りたくないわよ。でも、ソイツ以外に私以上の死霊術師としての技術と知識を持つ魔女も居ないのよ……だから、頼らざる得ない」
会いたくない相手に診て貰う理由を答えた涼子に正樹は尋ねる。
「ソイツとどんな因縁があるんだ?」
「大した事じゃないわ。ただ、お互いに御互いを毛嫌いしてて、しょっちゅう殺し合ってたってだけ」
涼子の答えに正樹は呆れてしまう。
「魔女同士って仲が悪いのか?君とエレオノーレ、君とその魔女……話を聞いてると魔女同士、仲悪い様にしか聴こえないんだが?」
呆れる正樹に涼子はアッケラカンに返す。
「人間だってお互いに毛嫌いする程に仲悪い相手が居たりするんだから同じもんよ」
「それはそうだけどよ……因みに何て呼ばれてる魔女なんだ?もしかしたら、俺が文献で知ってる魔女かもだし」
正樹に件の魔女の通称を聞かれると、涼子は答えた。
「"死を弄びし魔女"……フィリア。間違えても此方に連れてきたらいけない奴よ」
その名前を聞くと、正樹はゲンナリとしてしまう。
「…………俺の記憶が確かなら、街一つをアンデッドで埋め尽くして、其処から更に国を一つ滅ぼそうとしたって魔女が死を弄ぶ魔女って呼ばれてた様な……」
声を震わせながら言うと、涼子はアッサリと肯定した。
「あら?よく知ってるわね。その時、私も居たわよ」
「マジで?」
「えぇ、フィリアの敵として」
涼子から当時、其処に居た事を告げられると、正樹は歴史好きとして当時読んだ文献を更に思い出していく。
「そう言えば、黒き魔女が善良なる魔女と共に死を弄ぶ魔女と戦ったってのもあったな……善良なる魔女って何者?」
"善良なる魔女"の事を聞かれると、涼子は正樹に当時の者として語る。
「私と同じ後天的に魔女になった。と、言うよりは魔女になってしまった被害者と言うべきかしら?元々はとある国の王位継承者だったんだけどね……」
善良なる魔女に関して語られると、正樹は疑問をぶつけた。
「魔女って後天的にもなれるのか?まぁ、君って実例が目の前に居るんだから、居て当然だってのは解るけど……」
「流石に簡単になれる訳では無いわ。まぁ、外道極まりない方法を使えば近道的にはなれるんだけどね……」
魔女を最も知る涼子の答えに正樹は納得すると、気になっていた事を尋ねた。
「なるほどね。そう言えば、ブタ箱に居るモラって魔女は何て呼ばれてるんだ?」
「"賢者にして魔女"……知識の探求を永遠にしたいが為に自ら魔女となったバカ女よ」
「彼女とはどんな因縁が……いや、言わなくて良い。同じ答えが返ってきそうだし」
「フィリアとは違うんだけど、まぁ、貴方には関係無いわね」
涼子からそう返されると、正樹は煙草を咥えて火を点して告げる。
「すぅぅ……ふぅぅ……君の因縁に付き合いたくねぇぞ」
「誰だって他人の因縁に付き合いたくはないわよ」
「そりゃそうだ」
2人は話は終わった。
そう言わんばかりに沈黙すると、静かに煙草を燻らせていく。
2人は煙草を燻らせ、紫煙とコーヒーと共に時が満ちるのを待った。
そして、待ち合わせ時刻30分前になれば、2人は紫煙立ち昇る煙草を灰皿に押しつけて棄てると、席を立って喫茶店を後にするのであった。




