魔女は怒り、復讐者は窘める
嘗めた真似されたら即座に殺すのは大事
それに問題の元凶を大本から始末するのは一番大事
「私の方も昼休みに客が来て、さっきまで事情聴取されてたわ……」
電話越しに答える涼子は穏やかであったが、明らかに怒気が混じっていた。
聖域を踏み躙られたのだ。
怒り心頭なのは当然と言えるだろう。
そんな涼子は正樹に改めて問う。
「和平交渉なんてしなくて良いと思うんだけど、しないと駄目?」
穏やかな口調であるが、正樹が嘗めた事を言ったら爆発しそうな気配が満ち溢れていた。
だが、正樹は怒り心頭の涼子を気にする事無く答える。
「言ったろ?連中を殺るにしても御行儀良くやらんと此方の立場がアウトになるって?」
正樹の答えを聞くと、涼子は苛立ちを露わにしてしまう。
「もう、そんなの気にしなくても良くない?そんなに私等を悪党として扱って血が見たいんなら、望みを適えてやる方が建設的よ」
涼子の言葉は御尤もな意見だろう。
実際、此処まで嘗めた真似をされた以上。
さっさと皆殺しにした方が実際、建設的かつ合理的だ。
しかし、正樹はソレでも是としなかった。
「だとしてもだ。ついさっきも言ったろう?綺麗事大好きなボケ共の御機嫌取りせんと、俺達の立場も良くないってよ?だったら、連中が納得する様に振る舞って、連中が自らクソボケ共への処刑執行の書類にサインせざる得ないようにしてやらんと駄目だ」
正樹も穏やかに語っていたが、明らかに怒りに満ち溢れていた。
涼子の様に正樹も大激怒しているのだ。
当然だろう。
そんな正樹に涼子はハッキリ告げる。
「コレ以上、アンタが嘗めた事を言うんなら私1人で連中を仕留めに行くわよ」
コレ以上の暴挙に我慢ならない。
そう告げる涼子に正樹は「俺だって赦されるんなら、連中を地獄なり天国なりに送ってやりてぇよ」と、前置きした上で告げる。
「それでも面倒な政治が絡んでる以上、俺達は正義の名の下に連中を皆殺しにするって言うのを演じなければならない。その為にも俺達は敢えて会談を設け、和平を求める為に交渉に挑むってポーズを示さなければならないんだ」
涼子は正樹の告げた思惑や目的は理解する事は出来た。
しかし、納得出来るか?と、言う点に於いては話は別である。
「こんなに暴挙して来た以上、ポーズを示す必要は無いんじゃない?」
質問と言う形で反論すれば、正樹は「それでもだ」と、断じた上で愉快そうに告げる。
「それに考えても見ろよ?第三者の監督下で和平交渉の為に来た俺達に対して仕掛け、連中が自らを悪と認めざる得ない状況をよ?」
「和平交渉の持ち掛けは上手く行ったの?」
涼子の問いに正樹は愉快そうに肯定した。
「あぁ、サツの御偉いさんの監督下で行われる様に話は通す事に成功した」
正樹が敢えて警察に通報して介入させたのは、自分の正当性を認めさせるだけでは無かった。
通報した時、警察庁の御偉い幹部……鮫島 明の名前を敢えて出し、彼女が嫌でも出張って来なければいけない状況を創り上げて"御願い"をする為。
それこそ、正樹の真の狙いであった。
そして、その狙いは見事に上手く行った。
涼子は策謀を張り巡らせる正樹に尋ねる。
「向こうが和平交渉に応じた場合、どうするの?」
その問いに正樹は鼻で笑うと、答える。
「そうしてくれるなら其処で終わり。だが、ケジメは別の形でキッチリ着ける……ソレだけの事だが、連中は俺が提示する条件を蹴るだろうぜ」
「提示する条件って?」
「手始めに慰謝料含めた賠償金の請求。次に今回の一連の騒動の首謀者ならびに関係者の引き渡し……それと、連中のチートやら魔導を全て封印し、連中が二度と明るい世間の下で一切活動しない事だ」
正樹が突き付ける条件の内の2つは理解出来た。
だが、最後に関しては流石の涼子も首を傾げてしまう。
「最初の2つは解ったわ。でも、最後はどう言う事?」
そう問われると、正樹は答える。
「言葉通りだ。君は魔法やらチートやらの封印は出来るか?」
正樹に問われると、涼子は肯定した。
「結論から言うと可能よ。でも、封印術式を施すなら実際に相手を診ながら施術して、経過観察する必要が有るわ」
涼子から封印に必要な事の説明も交えて肯定されると、正樹は説明を続ける。
「封印は君にして貰えば良い。で、二度と世間の下で活動しないって言うのは、ハッキリ言うなら無期懲役なり、終身刑なりで死ぬまで"塀の向こう"で生きて貰うって要求さ……」
「なるほど。要は到底受け入れられない要求を叩き付けて、連中がブチギレる様に仕向ける……って事かしら?」
その認識で合っているか?
涼子から問われた正樹は肯定すると、提示する条件の内容のメリットを説明する。
「そうだ。傍から見れば、サツやビジネスマン等が反対する理由が無い上に、出来ない立派かつ正当な要求だろ?で、ソレを呑んで落着とするなら行政側は万々歳で終わらせてくれるって寸法さ」
「つまり、どっちに転んでも私達の利になる訳ね……アンタ、こう言う悪辣な事を何処で覚えたのよ?」
呆れ混じりに涼子から問われると、正樹はツマラなさそうに答える。
「悪い事を散々やり慣れてるとな、こう言う事も自然と覚えるんだよ」
「その割には偉く堂に入ってるけど?」
「そりゃ、堂に入るくらい悪い事を繰り返しまくったからな……」
正樹がアッケラカンに返せば、涼子は怒りを一応は収めてくれた。
「良いわ。貴方の脚本通りに動くのを我慢してあげる……でも、家族に危害が加わったら容赦無くトコトン殺るわよ」
涼子の宣言に正樹は渋々ながらも承諾する。
「そうなったら、俺は止めない。好きに殺ってくれ」
此処は流石に譲歩するしか無かった。
だが、正樹はサツの御偉いさんとビジネスマンが必死に尽力して連中を抑え込み、和平交渉までの間は仕掛けない。
そう踏んでいた。
そんな正樹に涼子は気になる事を尋ねる。
「そう言えば、別の形でケジメを着けるって言ったけど、具体的に何をするの?」
涼子に問われた正樹はさも当然の様に答えた。
「決まってる。連中の家族、恋人、友人……連中にとって大事な者達を皆殺しにするんだよ」
正樹の告げた報復の内容は、冷酷非情極まりないものであった。
マトモな常人ならば、正樹の提案を即座に猛反発し、大反対するだろう。
しかし、涼子は正樹の報復内容が気に入った様であった。
「それ最高。是非とも殺らせて……キチンと痕跡残す事無く、自然死や事故死で片付けてあげるわ」
無意識ながらも邪悪な魔女に戻りつつある涼子の嬉々とした言葉に正樹は改めて、涼子が危険極まりない邪悪な魔女であると認識した上で快諾する。
「あぁ、その時は君に全て任せるから好きに殺ってくれ」
正樹の快諾に涼子は邪悪な笑みを浮かべて嗤った。
そんな涼子に正樹は抜け目無く釘を刺すように告げる。
「その代わり、向こうが戦争する場合は流石に其処まで殺ると不味いから無しだ。良いな?俺達はメキシコのカルテルじゃないんだからな?」
正樹の言う通り、連中を皆殺しにした上で連中の親兄弟、恋人に友人。
其れ等すらも皆殺しにするのは流石に殺り過ぎである。
それこそ、正樹が最後に言ったメキシコの麻薬カルテルではないのだ。
そんな釘を刺されると、涼子は譲歩した。
「良いわ。連中を殺れる時は、連中の大事な者達は殺らない……ソレで良い?」
「そうしてくれ。多分つうか十中八九、連中は俺達との戦争を選ぶ筈だから……」
正樹の言葉に涼子「そうであって欲しいわ」と、返えした。
涼子が怒りを一応は収めてくれた事にホッとすると、正樹はエレオノーレに言われた事が気になったのだろう。
ふと、尋ねてみた。
「エレオノーレさんから言われたんだけどよ、何か俺に魔導の才があるらしいんだが……どういう事?」
正樹がエレオノーレから言われた。
其処に涼子は引っ掛かるモノを感じるが、エレオノーレの性格をある意味で最も知るからこそ確認の為に正樹に問う。
「他に何か言ってなかった?」
「君から魔導を学ぶと良い。君は"俺の標的"の持つ魔導を最も詳しく識り、更には多数の魔導を詳しく識る者だ……そんなニュアンスの事を言っていたよ」
自分の知るエレオノーレが絶対に言う内容であった。
だからこそ、涼子はエレオノーレの見立て通りならば、正樹には魔導の才が間違い無くある。
そう判断した。
しかし、涼子はそう言うモノは自分の目で確認してからでなければ納得は出来ない"タチ"である。
ソレ故に……
「この件が片付いたら貴方を調べさせて。マジなら、面白い話だから」
自らの目で確認し、エレオノーレの言葉が事実ならば面白くなりそうだと感じた。
そんな涼子に正樹は快諾する。
「奴を殺れる可能性が増すなら、断わる理由は無い」
「なら、また改めて」
そう告げて電話を切った涼子は何時の間にか自室のベッドに座り、涼子の許し無く煙草に火を点そうとするエレオノーレに対してハッキリ告げる。
「煙草に火を点けた瞬間、アンタに息が出来る素晴らしさを学ばせるわよ」
涼子に言われると、エレオノーレは煙草に火を点すのを辞めた。
そんなエレオノーレに涼子は尋ねる。
「彼から聞いたんだけど、本当なの?」
「私の性格を知ってるいるならば、既に解っている事だろう?」
質問に対し、質問で返したエレオノーレに涼子は信じられない様子であった。
「そうなると……引っ掛かる事があるのよ」
「何がだ?」
「魔導を一切学んでも居ないのに魔力が見える奴ってのは滅多に居ない。産まれながらの魔女とかなら兎も角、普通の人間だったらほぼ絶対にありえないわ」
涼子の言葉にエレオノーレは理解する。
だが、何が言いたいのか?
其処までは流石に解らなかった。
「何が言いたい?」
エレオノーレに問われると、涼子は説明をしていく。
「彼は当時、魔導の理論を幾つか誰かから学んだと言った。そうなると、その理論を教えた教師は彼の才に気付かなかったボンクラの無能って事になる」
「確かに貴様の言う通りならば、そうなる……だが、人を見る目が無い者だって居るだろう?」
「そうかもしれない。でも、もう1つだけ理由があるわ」
涼子がもう1つの理由と言えば、エレオノーレは尋ねる。
「ソレは何だ?」
「当時から彼が、非常に残忍で狡猾極まりない危険かつ邪悪な男だって点よ」
今回の件に於ける正樹の描く脚本から改めて理解した涼子が言うと、エレオノーレは納得すると共に「くだらんな」と、一蹴して更に言葉を続ける。
「その指導者は大層ツマラン者なんだろうよ」
そう吐き捨てるエレオノーレに涼子は言う。
「今の私から見れば、解らなくも無いわ」
そんな涼子へエレオノーレは愉快そうに尋ねた。
「ほう。黒き魔女が善を説くか?」
「善を説く気は無い。つうか、そんなの説ける様な立派な事もして無ければ、私自身は邪悪なクソ女でしかない……だけど、善人が考えそうな事や、その指導者が何を想って才が無いと言ったのか?予想する事は出来る」
涼子がそう答えると、エレオノーレは尋ねる。
「理由は何だ?」
「極めて単純なモノよ。極悪人に己の習得した技術を与え、ソレが理由で数え切れない人間が死んだら?って言う恐怖と罪悪感。それに責任から逃れたい……コレに尽きるわ」
嫌味タップリに答える涼子にエレオノーレは納得すると共に吐き捨てた。
「やはり、くだらんな」
「まぁ、気持ちは解らんでも無いんだけどね……今の私としては」
今なら少しだけ解る。
だが、ソレは単なる感傷でしかない。
そんな感傷に浸る涼子にエレオノーレは思い出した様に尋ねた。
「そう言えば、貴様にも弟子が居なかったか?」
「居たわよ。でも、嘗めた真似をしたから殺して、来世も奪ってやった」
サラッと弟子を殺した上に来世も奪ったと答えれば、エレオノーレは呆れ混じりに尋ねる。
「その愚物は何をしたんだ?」
「思い出すだけでも不愉快極まりないから聞かないで」
答えない涼子にエレオノーレはソレ以上は聞かず、別の事を尋ねた。
「それで?貴様はどうするんだ?」
「そうね……一応は指揮官の面子と作戦を立てて、指示通りに和平交渉までは大人しく振る舞うわ。勿論、要求された仕事も果たす」
涼子の答えに対し、エレオノーレは提案する。
「それなら私も手を貸そう」
「そう。ソレは助か……」
言い掛けた涼子は其処で言葉を止めると、正樹に電話を繋いだ。
「どうした?」
「あのさ、他所の部外者が勝手に連中を皆殺しにしたらどうなる?」
涼子の問いに正樹は面倒臭そうにしながらも、的確に答えていく。
「俺達の立場は安泰。だが、その部外者を狩れって命令が間違い無く下る。何れにしろ、面倒が増えた様な状況になるのは確実だな」
「なら、私達の本来の雇い主に話を通してたら?」
「それでも現世の柵関係で面倒を拵える羽目になる事は変わらん。だが、本来の雇い主には、偶には俺達の為に働いて貰うのも悪くない。幸いにも、向こうは何をしても良いって明言してる訳だし……」
何か思い付いたであろう正樹に涼子は問う。
「何か面白い事でも閃いたの?」
涼子の問いに正樹は実に退屈そうに返した。
「いや、単に根回しに頭を悩ませる必要が無くなったってだけの話だ」
実際問題として、タケさん辺りに談判してビジネスマンと警察官僚。
この2人には否が応でも此方の要求通りに動く様に根回しをすれば、面倒臭さ極まりない政治的な問題は全て解決する。
そう告げれば、涼子は正樹に丸投げする。
「なら、そっちは貴方に任せるから、私は明日明後日を偵察に使わせて貰うわ」
役割分担すると提案すれば、正樹は仕方無い。
そう言わんばかりに溜息を漏らし、裁可を下した。
「全て任せる。だが、狩りのシーズン解禁までは手を出すなよ?」
勿論、余計な手出しを絶対にするな。
そう正樹から釘を刺されると、涼子は心外と言わんばかりに返すのであった。
「えぇ、ちゃんと大人しく狩りシーズン解禁まで待ってあげる。だから、そっちも上手く話と作戦を纏めてよ?」
そう告げて電話を切った涼子はエレオノーレを見ると、尋ねる。
「折角だから狩りの前の下見でもしに行かない?」
「良いだろう」
そう言う事になった。
時には敢えて弱腰に振る舞い、和平交渉を求めると共に穏便に解決する意思がありますよーってフリであっても演じる
実際は相手を水面下で殺す事に全力を尽くしつつ相手側が悪者になる様にするのも手なのだ
要するに如何にして相手を悪役に仕立て上げるか?コレに尽きる
そして、ソレは現在の所として上手く行っております、今のところは正樹の脚本通りの展開ではある




