一線を越えた以上、慈悲は無い
魔法が使えない相手だからと言って、嘗めプすると死ぬ例の1つかな?
AM2時過ぎ。
夜勤や当直等の働く人々を除き、誰もが眠っている深夜。
正樹は幾つもの剣呑な気配。
否、複数の強い殺気を感じ取ると同時に目を覚ますと、普段は自閉モードにして使わない電脳を起動させて周囲の通信状況を確認し始める。
電脳を介して周囲の通信量を確認すると、普段以上に周囲で通信が行われていた。
通信量が異常に増えている事から正樹は夜襲である事を察すると、ウンザリとした大きな溜息を漏らしてしまう。
「ハァァァァ……ふざけやがって」
安眠妨害された事よりも、自分の聖域を犯し、大事な者達を傷付けんとするクソボケ共に対して怒りを大いに燃やす正樹はベッドから出た。
パンツとシャツだけの姿だった正樹は靴下を履くと、ジーンズを履いてベルトを巻いていく。
それから無地の黒い長袖のシャツを着ると、その上から前後に本物のレベルⅣ防弾プレートが前後に入ったプレートキャリアを纏ってストラップでキチンと縛着した。
その後。
両手に革手袋を嵌めれば、正樹は部屋を後にした。
家の中で殺るのは流石に不味い。
なら、俺が外に出れば誘い出せる……と、良いなぁ。
そんな事を心の中でボヤきながら正樹は家を出ると、玄関の鍵をキチンと施錠してから街灯に照らされる人気の無い薄暗い道をノンビリと歩いていく。
殺気を伴った気配達は正樹と一定の距離を保ちながら、正樹の後を追っていた。
良かった。
俺の誘いに乗ってくれるみたいで……
自分の誘いに乗ってくれた事に正樹は少しだけホッとすると、気付いてないフリを続ける為に歩みを進めながら高級煙草を咥えて火を点す。
マナーガン無視で煙草を美味そうに燻らせながら歩みを進める中。
背後から静かに忍び寄る気配を感じ取った。
正樹はタイミングを計る。
数秒後。
気配の主が正樹の背後から仕掛けようとする寸前。
正樹の右肘が目にも留まらぬ速さで気配の主の鳩尾を的確に打ち抜いた。
「ガハッ゙……」
呻き声が上がると、同時。
正樹は瞬時に踵を返して振り返ると共に腰を捻り、右脇を締めて構える。
目の前には短剣を振り翳す青年が体勢を整えようとする姿があった。
青年が逆手に握り締める短剣を振り上げようとした瞬間。
瞬時に正樹から放たれた抜き手が、青年の喉を的確に打ち抜いた。
「ッ゙ッ゙……」
青年は短剣を右手から零して両膝を地に着けると、喉に手を当てて苦悶に満ちた表情を浮かべて苦しみを露わにしてしまう。
正樹の抜き手によって青年は見事に喉ごと気道を完全に潰され、息が出来ずに居た。
そんな青年を見下ろすと、正樹は独り言ちる。
「キチンと鍛えてりゃ、抜き手で突き指するなんて間抜けにはならんかったりするんだ。覚えておくと良い」
そう告げた正樹は背後から別の殺気を感じ取ると、即座に目の前で苦しむ青年の髪を引っ掴んで脚を軸に回転すると共に窒息に苦しむ"ミートシールド"を自分の前に展開させた。
ミートシールドは見事に効果を発揮してくれた。
背後から放たれた魔力弾から正樹を護り、ミートシールドにされた青年はグッタリとして動かなくなってしまう。
恐らく死んだのだろう。
そんな死体を盾にする正樹は魔力弾を放った射手の位置を確認すると、用済みのミートシールドを勢い良く前に押し出すと同時に地面に転がり落ちた青年の短剣に飛びついた。
短剣を手に取った瞬間。
正樹は魔力弾を放った少女へ向け、投げ放つ。
勢い良く放たれた短剣が20メートルほど先に立つ少女の顔面を目掛け、飛んでいく。
視界に迫る短剣を少女は慌てて避けた。
間一髪の所で躱してホッとした。
だが、同時に何時の間にか目の前に立っていた正樹から顎を掌底で打ち抜かれ、ストンと両膝から地面に崩れ落ちて動かなくなってしまう。
「2人目」
そう呟いた正樹は右脚を持ち上げると、少女の首にストンプをキメた。
そうして、首を容赦無くへし折ってトドメを刺した正樹は突然走り出す。
現役の陸上選手並みの速さで人気の無い夜道を駆ける正樹を残りの暗殺者達は離れる事無く、追跡していく。
正樹はひたすらに走り続けた。
10分ほど走り続けて行く内に、明かりが全く無い廃墟とかした工場跡が見えて来た。
正樹は工場跡の敷地内へ駆け込むと、工場だった廃墟の中へと不法侵入した。
それから少しして、追跡して来た暗殺者達が工場跡に到達した。
彼等はジッと工場跡を見据えながら言い合う。
「奴は武器は持ってない」
剣を携えた青年が言えば、今度は杖を持った少女が言う。
「気配探知したけど、間違いなく中に居るわ」
それから、弓を携えた青年が言った。
「罠も無いみたいだ」
「なら、行きま……」
両手に篭手を嵌めた少女が言い終える寸前。
杖を手にした少女と弓を携えた青年が、何の前触れも無くドサッと地面に崩れ落ちた。
「え?」
篭手を嵌めた少女は間抜けな声を上げると、地面に倒れたまま動かずに居る2人の男女を見下ろす。
2人の男女は頭の前と後ろから血をダラダラと流し、地面に脳味噌や髪の毛等が着いた頭の欠片を辺りにブチ撒けていた。
解りやすく言うなら、一瞬の間にヘッドショットされたのだ。
勿論、即死なのは言うまでもないだろう。
残った2人は目の前で起きた事が信じられない。
そう言わんばかりに顔を見合わせてしまう。
それと同時。
2人の側頭部が音も無ければ、前兆も無いままに撃ち抜かれて地面に崩れ落ちた。
当然、即死である。
小さく硝煙が立ち昇る太く長いサプレッサー付きのカラシニコフをニーリングで構え、周囲を警戒する正樹は安全であると判断したのだろう。
ゆっくりと構えを解きながら立ち上がると、呆れ混じりに呟く。
「相手が武器を持ってないからと言って、油断するのは愚の骨頂だぞ?」
確かにあの子達の言っていた通り、正樹は2人を殺害した時には武器を一切持っていなかった。
ソレは事実だ。
だが、そうなると?
答えは実に単純である。
「近くに隠し武器庫を幾つか確保しておくのは基本だぜ?」
正樹は嘲りと共に言葉を漏らせば、過去の戦訓から学んだ事を口にしていく。
「魔力によるバリア、障壁は確かに銃弾を通さない。下手すりゃ、レールガンとかブチ込んでもダメージ出ない奴だって居る」
正樹の言う通り、魔力によって展開される障壁やバリアは非常に頑丈で強固。
特に優れた術者が展開するモノは壊すのは不可能に近い。
そう言っても良い。
しかし、ソレを用いるのは人間なのだ。
「だが、ソレはキチンと備えて張ってる場合に限りの話だ。常に障壁やらバリアやら張るのは余っ程の魔力量を持たない限りは不可能……直ぐにガス欠になる」
其処で言葉を切った正樹は邪悪な笑みを浮かべると、まるで誰かに語り掛けるかの様に言葉を続けていく。
「だったら、相手の隙を突けば良いだけの簡単な話だ。連中は魔法やらチートやらを使えるが、俺は其れ等を使えない凡人……連中にすれば、嬲り殺し出来る雑魚に思われる程度には弱い。其処に大きな隙が出来て、俺は其処を突けば簡単に勝てるってもんだ」
そんな言葉に対し、ゆっくりとした拍手が送られた。
正樹はカラシニコフを向ける事無く視線を向けると、拍手を贈ってくれた相手に問い掛ける。
「貴女は何時から此処に?」
問われた相手……エレオノーレは暗闇の中から姿を露わにすると、正直に答えた。
「奴から貴様は魔法を用いずに戦う事の専門家と聴いたのでな……見物させて貰った。私も上手く姿を消していたのだが、貴様は何故解った?」
正樹が滔々と語ったのはエレオノーレに向けてのモノであった。
そんなエレオノーレから問われれば、正樹は答える。
「最初から……って、カッコつけて言いたいんですけど、実際は走ってる途中ですね」
正樹の答えを聞いたエレオノーレは鼻で笑った。
「貴様は嘘つきだな」
「如何にして相手にペテンを掛け、出し抜けるか?コレこそ、戦いに必要な嘘ですよ……」
さも当然の様に悪怯れる事無く語る正樹にエレオノーレは愉快そうに笑みを浮かべると、正樹へ告げる。
「貴様は最高の悪党だな」
エレオノーレの称賛に正樹は吐き捨てた。
「褒めても何も出ませんよ」
「成る程……あのクソ女が気に入る訳だ」
1つの予感を感じながら、正樹はエレオノーレに問う。
「クソ女って誰の事です?」
「貴様が殺したいクソ女だ」
エレオノーレからクソ女=ハミュツである事を聞かされると、正樹は煙草を咥えながら尋ねる。
「参考までに何処が気に入られてるのか?窺っても良いですかね?」
正樹に問われたエレオノーレは正樹の口元にある煙草に火を点すと、答えた。
「貴様の根はとてつもなく深く決して揺らぐ事がない。どんな風に振る舞おうが、何が起きようが、貴様は一点しか見詰めていない……そう言う頑固者をクソ女は好み、その者が折れる瞬間に甘美を感じるのだよ……あの悪趣味なクソ女は」
エレオノーレからハミュツが自分を好む理由の一端を聞かされると、正樹はエレオノーレに不敵な笑みを浮かべて告げる。
「だったら、俺はあのクソ女の首をへし折る瞬間を愉しみにする事にします」
正樹の答えにエレオノーレは歓喜の笑みを浮かべると、右手の人差し指を立てて問うた。
「コレは何本に見える?」
「人差し指の隣にも棒が見えるのは気の所為ですかね?後、その2本の上に剣らしきモノも見えるんですけど……」
エレオノーレの問いに正樹が答えると、エレオノーレは益々愉快そうに笑みを浮かべる。
「コレは面白くなりそうだ」
「あの何が言いたいんです?」
疑問に首を傾げる正樹にエレオノーレはハッキリと告げる。
「貴様は意外な事に魔導の才がある。奴からシッカリと魔法を学ぶと良い。奴以上にクソ女の魔法を識り、ソレ以外にも様々な魔法を識る魔法の専門家は居ない」
そう告げたエレオノーレは闇の中へと消えた。
独り残された正樹は「後始末しねーと流石に不味いな」と、ボヤいて殺した連中の死体始末の為に奔走していく。
最初の2人の死体も廃墟に運び込めば、正樹はカラシニコフを6つの屍の内の1つに向けて引金を引いた。
くぐもった銃声が響くと共に屍の顎が消し飛び、口元が原型を留めぬ惨たらしいモノとなる。
正樹が更に1発撃ち込むと、屍の口元は完全に原型を留める事が無くなった。
勿論、歯型を取って身元確認する事も不可能な状態だ。
その後。
正樹は慣れた様子で残った屍の口元に7.62×39ミリのライフル弾を淡々とブチ込み、歯型を取れない様にした。
歯型の破壊が済めば、用意していた携行缶の口を開けて中に詰まったガソリンと軽油のブレンドを廃墟と6つの屍。
それとからカラシニコフと、さっきまで着ていたプレートキャリアにもシッカリと撒けば、時限式の点火装置にテルミット剤をタップリ振り掛けていく。
そうして準備が完了すれば、発火装置を起動させ、現場から逃走を図るのであった。
15分後。
自宅から一番近い近所にあるコンビニの灰皿の前。
更に言うならば、監視カメラに映る位置に立った正樹は何時の間にか回収していた2本の吸殻を灰皿に棄てると、煙草を咥えて火を点す。
そろそろかな?
そう思いながら正樹は暢気に煙草を燻らせると、遠くで炎の赤い光と共に黒煙が舞い上がるのを静かに一瞥。
それから前を向くと、紫煙と共にボヤキを漏らしてしまう。
「すぅぅ……ふぅぅ……話し合いの余地が無いのは実に残念だ」
心の底から残念そうにしながらボヤキを漏らした正樹は火の手が空に上がるのを他所に煙草を燻らせると、爾後の展開を考えながらコンビニを後にするのであった。
涼子の方でも仕掛けられたけど、何故か仕掛けた奴等は1人残らず酸欠による窒息死。
または凍死してから、何故か遠く離れた太平洋上を原型留める事無く漂っていた模様……




