方針確認
スマンが少し短い
夕食を食べ終えた後の夕方過ぎ。
正樹は涼子と電話していた。
「貴方は何処まで見通していたの?」
涼子から尋ねられると、正樹は正直に答える。
「見通してなんか居ない。ただ、汚い連中の遣り方を身を以て学んで、ソレを自分自身で実践して来た。だから、保険を打っておこうと思った……それだけの話だ」
正樹は過去に数えるのもバカらしい程に、ダーティーワークやブラックオプスを積み重ねて来た。
時には、自身で邪悪な策謀を立案して実行もした。
だからこそ、相手側が汚い手口で大義名分を獲る為には何が必要なのか?
ソレを読み取り、涼子に殺害していない証拠を残す様に命じた。
正樹にとって、ただソレだけの話なのだ。
そんな正樹に涼子は尋ねる。
「で?どうするの?」
「そうだな……可能なら、向こうと会談を持ちかけたい。で、其処で君が得た犯人の情報を提供し、此方は殺害していない事を伝えたい」
正樹は無駄な殺し合いを避ける為、相手側に真犯人の情報を提供すると共に冤罪である事を主張したい。
そう告げると、涼子は訝しんでしまう。
「ソレで上手く収まると思うの?」
涼子の問いに正樹はアッサリと否定する。
「収まらないだろうな。何せ、信用ならざる敵からの情報提供だ……コレで信じてくれたら、俺は性善説を信じるね」
皮肉とも取れる言葉を述べる正樹に涼子は呆れ、困惑。
それ故、思った事をそのまま口にしてしまう。
「だったら、会談を持ち掛ける必要無いじゃない」
涼子の御尤もな意見に正樹は会談を持ち掛ける理由を答える。
「コレは連中に向けてじゃない。サツの御偉いさんに対してだ」
正樹の思惑がイマイチ理解出来なかった涼子は素直に聞いた。
「どう言う事?」
涼子に問われた正樹はハッキリと答え、説明していく。
「俺達にとって一番最大の脅威は警察だ。何せ、俺達がする事は偉い神様の命令とは言え、どれをとっても全て違法極まりない非合法な活動。何なら、重大犯罪と言っても良い」
正樹から告げられた理由を聞くと、涼子は漸く理解する事が出来た。
「つまり、警察に私と貴方を売り込みたい……そう言う事?」
涼子から告げられた答えに正樹は少しだけ否定しながらも、肯定した。
「少し違うが、その認識で構わない」
正樹が自分の答えを概ね肯定すると、涼子は疑問をぶつける。
「でも、それだと連中に関しては何もしないって聞こえるんだけど?」
涼子の疑問に正樹はアッサリと肯定する。
「会談で俺達の冤罪を晴らして、ソレで向こうが鉾を収めてくれるならソレはソレで良いんだ。アホ臭くて面倒な戦争をしないで済むから」
正樹が理想的な展開を告げると、涼子は否定的に反論した。
「確かに面倒を拵えたくは無いわ。でも、ガキって自分の思い通りに物事が進まないと癇癪起こすわよ?」
「ソレはソレで良い。そうなってくれりゃ、俺達は不当な暴力に対する防衛の為って言う、大義名分を得た上で連中を殺せるから」
身も蓋も無い上に酷い答えを告げられると、涼子は呆れながら問うた。
「呆れたわ。アンタ、最初からコレを狙ってたの?」
正樹は最初から相手を殺しても赦される状況を創り出す為、らしくない行動を取らせて居たのではないか?
涼子からそう問われると、正樹はアッサリと肯定し、理由を語っていく。
「当たり前じゃないか……俺達は表社会からすれば、醜さ極まりない裏社会のアウトサイダーだぜ?だったら、サツには媚びへつらって良い顔して、仕事等以外では悪さしませんよーって宣言もして点数稼いでおかんと何時、逮捕されるか?解ったもんじゃない」
「なるほど。要するに現世に於ける保身の為って事ね?」
涼子の言葉を正樹は肯定し、認めた上で理由を述べた。
「そう言う事だ。何せ、この間はヤクザ相手とは言え、死刑判決喰らっても文句言えん程にヤラかしちまったからな……そのせいでサツの御偉いさんから釘を刺されちまった訳だし」
この間のヤクザ。
八塚会に対し、2人で仲良く盛大にヤラかした。
それ故、警察にすれば2人のクソガキが好き勝手に暴れた事は実に面白くない。
だからこそ、ビジネスマンのパートナーである警察官僚の女から、あの尾行と言う形で太く長い釘を刺された。
そう、正樹が告げれば涼子は申し訳なさそうに返す。
「アレは私も悪いと思ってるわよ」
「安心しろ。俺は気にしてねぇから」
正樹の酷い返答に涼子は呆れながらも、何処か心強さを覚えた。
そんな正樹に涼子は指揮官に仕える部下として、問う。
「それで?戦争になった場合、具体的にはどうするの?」
涼子の問いに正樹は答える。
「先ずは色々と準備する必要がある。連中の規模や連中の居る寄宿生の私立高の設計図やら、必要になる装備の選定やら……まぁ、挙げるとキリが無いな」
「要するに何も決まってない訳ね?」
呆れ混じりに問う涼子に正樹は言い訳がましく返した。
「しゃーねーだろ。こんなバカして来るとは流石に思わなかったんだから……つーか、マトモならこんなバカやらねぇんだよ」
最悪の展開として、予想はしていた。
だが、本当にソレをして来る。
其処までは流石に正樹であっても、考えが至らなかった。
そんな正樹に涼子は他人事の様に言う。
「異世界帰りなんて大概、トンデモナイ力を獲て全知全能な神みてぇなもんを気取ってるのよ?寧ろ、そう言う力があるからこそ、正義の味方気取って好き勝手するんじゃないの?」
「俺はそんな力は持ってねぇから解んねぇよ……つーか、ソレを言ったら君はどうなんだ?」
涼子の言葉に正樹が反論する様に問えば、涼子はアッケラカンに答える。
「私?私は向こうで好き放題して飽きてるから、そう言う気持ちにはならないわね……」
「よく言うぜ」
正樹が吐き捨てる様に言う。
だが、涼子の言葉に嘘は無かった。
「あら?本当よ。貴方と出会う事になるキッカケが起きるまで、私は慎ましく暮らしていたわ。あのクソボケ共が"場外ホームラン級のクソバカ"をしなければ、私は平和と平穏を甘受しながら静かに慎ましく生き続けていたわ」
実際、その通りであった。
あの日、1人の少女を助けた。
その後。仕掛けられていた危険物を見付け、ソレを処理しなければ100万近い人々の犠牲が出る事を知ってしまった。
膨大な犠牲の中には両親も居れば、小学校や中学校時代の友人。
更には今の高校の友達も多数含まれていた。
だからこそ、涼子は平和と平穏に満ちた生活を棄てる事を覚悟した上で、ソレを処理。
それから、ソレを仕掛けたクソボケ共も始末した。
その後。平和で平穏な生活が戻るかと思えば、さらなる厄介事を幾つも処理する羽目になった。
そして、今に至る……
そんな涼子に正樹は尋ねる。
「君はどうして、強大な力を棄てて普通に生きようと思ったんだ?」
好奇心もあった。
だが、一番は伝説や神話ともなっている最高レベルの魔女が如何にして普通の人生に戻ろうと思ったキッカケが何なのか?
その謎に歴史マニアとして、迫ろうと思った正樹に涼子は答える為、問うた。
「貴方、洋ゲーのファークライシリーズってやった事あるかしら?」
涼子の問いに正樹は答える。
「1とプリミナル以外はやってる。今だとテイクダウンにツッコミ入れたくなるけど、ソレでもファークライのテイクダウンは5除いて好きだぜ?ソレがどうしたんだ?」
正樹に尋ねられると、涼子は更に問うた。
「なら、4のミン陛下をどう思った?」
「ミン陛下?パガン・ミンの事なら、そうだな……DLCもやった上で言うと、愛を与えられる事も無ければ、知る事無く怪物になった男。だが、1人の女性を心の底から愛した事で……」
其処で言葉を留めた正樹は涼子に尋ねる。
「マジか?つまり、愛を知ったから君は闇落ちならぬ光落ちしたって訳か?」
正樹が驚きと共に問えば、涼子は恥ずかしそうに肯定した。
「そう言う事になるわね。詳しい事は話さないわよ?ソレは私だけのモノだし、他者に話して良いモノじゃないから」
涼子から具体的に話す気は無い。
そう告げられると、正樹は理解し、納得した。
「つまり、俺と似た様な事になった訳か?」
正樹も1人の女性に出会い、愛すると共に真っ当な人生を歩む事を選んだ。
そして、愛する女性との間に娘を設けた。
だからこそ、涼子がマトモに戻った理由を理解し、納得する事が出来た。
「えぇ、そうなるわね」
涼子が正樹の言葉を肯定すると、正樹は他人事の様にボヤいた。
「愛って奴はバカに出来ねぇな」
正樹のボヤキに涼子は同意する。
「全く以てその通りね……」
涼子は愛ゆえに邪悪な魔女から人に戻った。
正樹と愛ゆえに邪悪なアウトローから人に戻った。
だが、涼子と正樹。
この2人の決定的に違う点を上げるならば……
涼子は最後まで愛を育む事が出来、正樹は愛を奪われて邪悪な怪物に戻ってしまった。
この点に尽きるだろう。
そんな正樹に涼子は尋ねる。
「貴方が愛した人って、どういう人なの?」
涼子に問われた正樹は電話の向こうで笑みを浮かべ、答えた。
「悪いがソレは秘密だ。君風に言うなら……彼女との思い出は俺だけのモノだ。だから、誰にも語る気は無い」
正樹の答えに涼子はさも当然の様に返す。
「そう言うと思ったわ」
「なら、聴くな」
涼子にそう返すと、正樹は改めて自分の方針を告げる。
「改めて言うが、可能ならば向こうとサツの御偉いさんと会談を持ち掛けて平和的かつ穏便に解決する。だが、同時に最悪の場合に備え、連中を殺る為の準備も並行して進める……異論は?」
「無いわ」
「なら、今日はコレで終いだ。また、何れな」
正樹はそう言い残すと電話を切って、スマートフォンをベッドに投げた。
それから程無くしてベッドへ身を投げて大の字で横たわると、久し振りに愛した女性を思い出し、今はもう居ない彼女に向けてポツリと言葉を漏らす。
「君との約束を破っちまって御免な……」
その時の正樹の表情は普段が嘘の様に、悲痛に満ちていた。




