物事は頭の中で引いた図面通りには進まない
一応、サブタイ通りかな?
面倒が起きると、キチンと対応出来てても状況が悪くなる一方になる事ってあるよね?
「えぇ……未だ殺してないわ。少し"撫でた"だけだからグッスリと寝てるわよ」
涼子はスマートフォンで電話をしながら油断する事無く目の前に無傷のまま駐車場の床に転がる2人の青年を見詰め、答えた。
すると、電話して来た相手……正樹から電話越しに指示が下される。
「兎に角だ。絶対に殺すな」
正樹から意外な言葉が告げられると、涼子は尋ねる。
「あら?てっきり貴方は立ち塞がる敵は容赦無く、有無を言わせる事無く処理するタイプだと思ったけど?」
涼子の問いを正樹は否定しなかった。
「間違ってはいない。だが、殺るにしても順序ってもんがある」
順序がある。
そう答えられると、涼子は更に尋ねる。
「何を企んでるの?」
涼子から問われると、正樹は正直に答えた。
「企んじゃいない。ただ……コレ以上、挑発行為を継続するなら敵対行為と見做し、敵として殲滅する。って此方の意思表示をすると共に順序を守って戦争して、面倒を片付ける」
「ただ、ソレだけの事だ」そう締め括った答えが返ってくれば、涼子は正樹の事を益々意外そうに思ってしまう。
「意外ね。貴方ってそう言うのガン無視して戦争するタイプだと思ったんだけど……案外、キチンと考えてるのね」
無礼にも思える言葉であった。
だが、正樹は涼子を責めなかった。
いや、寧ろ……
「昔ならそうしてた。だから、君の言葉を否定する気は毛頭無い」
涼子の言葉を事実として認めた。
そんな正樹に涼子は、また尋ねる。
「考えが変わった理由、聴いても良いかしら?」
「簡単な話さ。そう言うバカを何度も繰り返して、その度に何度も死にかけた……だから、そうならない様に上手く立ち回る様に心掛けてる。それだけの話だ」
つまらなさそうに答えが告げられれば、涼子は納得する。
同時に正樹が優秀なタイプであると、改めて理解と納得もした。
ソレ故に……
「貴方がとっても優秀なプロだって理解したわ。だから、今後は作戦の指揮とか任せて良いかしら?」
涼子の言葉に正樹は答えた。
「指揮官やれなんざクソ喰らえだ」
ハッキリと拒絶する正樹に涼子は悪戯をする子供の様な笑みを浮かべ、告げる。
「あら?私はこう言う事、トーシローのカカシと変わらないからバカな事を指揮官として命じちゃうわよ?」
涼子の言葉に正樹はゲンナリとしながらも、答える。
「……その件は後でジックリと話そう。兎に角、殺してないんなら良い。後、殺してないって証拠を残しとけ」
殺していない証拠を残せ。
そう告げられると、涼子は首を傾げながら尋ねる。
「どう言う事よ?」
「万が一に備えてだ。向こうが連中を俺達が殺したってホザいて、宣戦布告する大義名分を与えたくない」
正樹から殺していない証拠を残せ。と、告げた理由を聞かされた涼子は、流石に「あり得ないでしょ?」そう呆れ混じりにボヤいてしまう。
だが、正樹は真剣に告げる。
「正義って病に冒されたアホは全ての行いを正当化して、正義の名の下に好き放題ヤラかす。君はそう言うのも見てきたんじゃないか?」
正樹から告げられた言葉に対し、涼子は大いに心当たりがあるのだろう。
納得するしか出来なかった。
「解ったわ。ついでに攻殻機動隊よろしく、連中の目にインターセプター的なのも仕込んどこうか?」
涼子の提案を正樹は承諾した。
「何なら、ゴーストハックもして良いぞ。ソイツ等を介して情報を獲られるんなら都合が良い……だが、痕跡は絶対に残すな。バレたら面倒な事になる」
「了解。そう言うのは得意よ。じゃ、また後で」
そう言い残して電話を切ると、涼子は早速と言わんばかりに2人の頭に手を触れて術式を発動させ、仕込みを済ませていく。
程無くして仕込みが終われば、涼子はスマートフォンのカメラを起動。
動画を撮れる様にすると、自分の方へとカメラを向けた。
勿論、腕に嵌めている腕時計も映した上でだ。
「私は薬師寺 涼子。現在時刻は……午後3時46分」
カメラに向かって自分の名前を告げ、更には手首に嵌めた腕時計が示す現在時刻を映した涼子は2人にカメラを合わせ、言葉を続ける。
「この2人は襲撃して来たバカ達。この録画は2人が未だ生きており、私は殺していない事を証明する為の記録映像である」
そうして自分の言葉をデータに残すと、涼子はスマートフォンを持つ反対の手を2人に向けた。
向けた手から魔法が発動すると、2人の顔を目掛けて夥しい水がブチ撒けられていく。
顔に大量の水を浴びせられていく内に2人は慌てて起き上がり、首を忙しなく回して辺りを慌ただしく見廻し始めた。
そして、涼子の目が合えば、警戒心を露わに立ち上がった。
涼子は怒りの籠もった表情と共に睨んで来る2人を気にする事無くカメラを向けたまま、涼しい顔をして更に言葉を続ける。
「この通り、2人は現刻では生きており、この時点で私が2人を殺していない証左である」
2人は生きている。
涼子自身は2人を殺していない。
そんな内容の言葉を記録として残すと、涼子は睨んで来る2人にカメラを向けたまま告げる。
「御二人さん、嘗めて掛かって負けた感想を……」
挑発同然とも言える涼子の言葉に2人は怒りを更に募らせると、涼子は更に言葉を続けた。
「何か言いなさいよ。人の大事な時間を台無しにして申し訳御座いません……とかさ?何か無いの?」
実際、このバカ2人に煩わされて折角の放課後が台無しになったのだ。
嫌味の1つぐらい言ってもバチは当たらない。
そんな涼子の言葉に青年の1人が怒鳴る。
「テメェ!!もう一度勝負しやがれ!!」
その怒鳴り声に便乗して、もう1人も涼子を怒鳴って来た。
「何か汚い手を使いやがったんだろ!!?正々堂々戦え!!」
2人の怒声に涼子は苛立ちを覚えてしまう。
だが、涼子は気にする事無く録画を済ませると、スマートフォンをポケットに仕舞いながら2人にニッコリ笑顔で感謝の言葉を述べる。
「ありがとう。貴方達がキチンと生きているって証明を残してくれて助かったわ」
2人は涼子の笑顔に怒り心頭となる。
だが、涼子は気にする事無くスマートフォンの画面を親指でタップすると、耳に翳して言葉を発した。
「もしもし!?警察ですか?2人の学生が私にカネを出せって刃物を向けて来てるんです!!場所はショッピングモールの立体駐車……」
目の前でサラッと警察に通報する涼子の姿に対し、2人は苦虫を噛み潰した様な苦渋に満ちた表情を浮かべると、直ぐに逃げ出す様に走り出し始める。
そんな2人の逃げる姿を見送る涼子は耳にスマートフォンを押し当てたまま、2人を嘲笑った。
「バカね。私が警察呼ぶ訳無いじゃん……」
2人のバカは頭も弱かった様だ。
涼子の警察に通報するフリに2人は騙され、急いで逃げたのだ。
そんな単純なペテンを掛ける事に成功した涼子は、スマートフォンをポケットに収めて退屈そうな溜息を漏らすと、2人に仕込んだ術式を追わせる為にカラスと鳩の使い魔を2匹ずつ飛ばしていく。
そして、用が済めば暢気な鼻歌と共に歩き出し、その場を後にするのであった。
1時間後。
自宅に帰宅した涼子は仕事用のスマートフォンで正樹にメッセージを送っていた。
「この動画で良いかしら?」
メッセージに動画を添付して送ると、正樹から直ぐに返信が来た。
「コレで良い」
殺していない証拠として問題無し。
そう返されると、涼子は更なるメッセージを送る。
「で?具体的なプランはあるの?」
涼子からメッセージで問われると、正樹は答える。
「未だ無い。とりま、本来の俺達の雇い主に戦争して良いか?許可取ってからだ」
本来の雇い主。
タケさんか、タケさんの姉君であられる天照大御神。
この二柱の偉大なる神の何れかから、戦争になった際の許しを得る事が必要。
そう正樹に告げられると、涼子は呆れ混じりに返す。
「律儀なのね」
涼子の言葉に正樹は直ぐに返答して来た。
「面倒を背負いたくないだけだ」
正樹から簡潔明瞭な答えが返って来ると、涼子は納得と共にボヤく。
「確かに余計な面倒は背負いたくは無いわね」
そんなボヤきを漏らすと、窓をコンコンと叩く小さな音がした。
窓を見ると、其処には脚が3つあるカラスの姿があった。
カラスの嘴に文が咥えられているのを見ると、涼子はスマートフォンを手に窓辺へと歩み寄る。
窓を開けて文をカラス。
もとい、八咫烏から受け取った涼子は内容を確認していく。
文にはただ一文だけ記されていた。
簡潔明瞭に内容を言うならば……
第一に、天照大神と須佐之男命。双方が戦争する事を許した。
次に、戦争になった際は制式な仕事として、2人にキチンと報酬が支払われる。
第三に、遣り方は問わない。好きに殺れ。
以上、3点であった。
そんな内容の文を確認した涼子は独り言ちる。
「やっぱ、神様ってのは何時でも人を見てるもんなのね。まぁ、制式な仕事になってフリーハンドである以上は戦争も歓迎よ……タダ働きするよりはずっとマシだし」
そんなボヤキを漏らすと、正樹からメッセージが来た。
「戦争して良いって手紙が来たんだけど、お前の所にも来たか?ね……」
正樹のメッセージを読み上げると、涼子は返信する。
「許可降りちゃったけど、どうする?貴方の判断に任せるわ」
重大な決断を丸投げしてる。
そう言わざる得ない内容で正樹に変身すると、正樹から程無くして返答が来た。
「安い仕事だから戦争回避の方向で進める。だが、向こうが血を見たいと言うなら、喜んで見せてやる」
正樹の答えを涼子は気に入ったのだろう。
涼子は正樹の方針に快諾した。
「貴方のそう言う容赦の無さ、私は大好きよ」
快諾したメッセージに正樹は吐き捨てる様に答える。
「勝手にホザいてろ」
そんな正樹に涼子は提案する。
「丁度、暇してる凄腕の魔女に心当たりが有るんだけど使わない?」
涼子の提案が送られると、正樹は自室であるにも関わらず、煙草が吸いたくなった。
許されるなら、キツイ酒もキメたい気分でもあった。
正樹は頭を抱えながらも、涼子の提案を指揮官として承認した。
「俺の指揮下でキチンと働いてくれるんなら反対する理由は無い。だが、キチンとお前がお守りをしろよ?」
承認した正樹に涼子は告げる。
「大丈夫。アイツは気に入った相手の指揮下に居る時は大人しいから」
涼子の言葉に正樹は「ホントかよ?」と、不安を露わにボヤいてしまう。
だが、優秀な魔導と戦闘の専門家が来てくれるなら利用しない手は無い。
そう判断すると、正樹は「なら、彼女も引き入れた上で作戦を考える。じゃあな」と、メッセージを残して遣り取りを辞めた。
煙草が吸いたくなった正樹は自室を後にすると、リビングで夕食の支度をしている母親に「コンビニ行ってくる」そう言い残して家を出た。
5分ほど歩いて最寄りの灰皿とベンチが設置されたコンビニへ赴いた正樹は、コンビニに足を踏み入れて酒コーナーでジャックダニエルの小瓶を買った。
ジャックダニエルの小瓶を手に人の居ない灰皿のあるベンチに座ると、正樹はジャックダニエルの蓋を開けて呷り始める。
アルコール度数40パーセントのテネシー・ウィリアムズを生でゴクゴクと一息で半分ほど空けると、プハァと酒臭い息を吐いてから高級煙草を咥えて火を点す。
「すぅぅ……ふぅぅ……まーた面倒な事になったもんだ」
煙草を燻らせ、紫煙と共にボヤキを漏らした顔を赤くする正樹はジャックダニエルをもう一口飲んだ。
また酒と煙草臭い息を吐くと、仕事用のスマートフォンから通知音が響いた。
「今度は何だよ?」
面倒臭そうにボヤキを漏らしながらも、正樹はキチンと通知の内容を確認する。
画面を見ると、正樹は一気にアルコールで陽気になった気持ちが一変し、ゲンナリとしてしまう。
「マジかよ……」
通知音はメッセージの着信であった。
送り主はビジネスマン。
贈られたメッセージの内容を単純に解りやすく表すならば……
涼子が1時間前に2人の関係者を殺害した。
2人の弔いの為、相手側は涼子と正樹に報復する事を決定した。
ビジネスマンと警察官僚の女は、この件に関しては一切無関係である。
そんな内容であった。
正樹は自分の嫌な予感が当たった事にウンザリとした溜息を漏らすと、ビジネスマンに涼子から贈られた映像記録を添付した上で返信する。
「アイツは殺してないぞ。コレ、一応は証拠の映像記録」
ビジネスマンに返信した正樹は間髪入れる事無く、涼子にもメッセージを送る。
「お前が連中を殺ったから報復名目で戦争仕掛けようとしてるぞ」
正樹がメッセージを送ると、涼子から直ぐに返信が来た。
「殺った犯人の顔なら既に押さえてあるわよ」
涼子からの返信に正樹は思わず「流石だわ」と、ボヤくと未だ中身の残るジャックダニエルをゴミ箱へ棄てて咥え煙草のまま、シッカリとした足取りで帰宅するのであった。




