自分が悪いのを認めて自覚するからこそ、受け入れた上で拒絶する
正樹にも一応は友達が居るんだよ←
翌日の昼。
東京都内某所のとある進学校。
午前中の授業が終わり、昼休みを迎えていた。
勿論、正樹も昼休みを迎えて居た。
そんな正樹は母親が用意してくれた弁当を食べ終えると、スマートフォンから伸びるイヤホンで音楽を聴きながら眺めていた。
因みにイヤホンから流れている曲はマドンナの『ダイ・アナザー・デイ』だ。
音楽を聴きながらスマートフォンを眺める正樹は、画面を親指でタップしていく。
画面には、C1やMG1と言った文字の他にCG1と言った傍から見れば意味が解らぬ文字列があった。
その下を見ると、スクーバ3セットやケミライト。
それにドライバッグ等の文字列もあった。
正樹は作戦に必要な装備品のリストを作っていたのだ。
装備品はドライバッグに詰めて運べば良い。
物が物だから重くなるが、其処は仕方ない。
作戦の指揮官として、チームの装備を見繕っていく正樹は思案する。
ガスはどうする?
ガスを使うって2人に言ったものの、実際の所としてはガスの分だけ弾を持って行く方が良いかもしれない。
毒ガスを用いて敵達を無力化する事を正樹は考えていた。
だが、此処で毒ガスを持って行くより、毒ガスに割く容量と重さだけの弾薬を携行する方が良いのではないか?
そうも考えていた。
ファンタジーな連中に毒ガスが何処まで効果あるのか?
正直言うと、ブッチャケ解らん。
俺が殺して来たファンタジーやオカルト絡みの連中には効果覿面だったけど、型月で言う所の神代の連中には何処まで効果あるのか?
解らない。
そうなると、弾を急所にブチ込んだ方が確実と考えるべきか?
正樹は真剣に悩みながらも、後ろから近付いて来る微かな足音に気付くと直ぐに画面をゲームの物に切り替えた。
それから程無くして、肩をポンと誰かに叩かれる。
「どしたん?何か、思い詰めた顔してさ?」
肩を叩いたのは、恰幅の良いポッチャりとした体型の眼鏡を掛けた青年……塚原 将であった。
友人であり、幼馴染でもある塚原 将に正樹は尋ねる。
「なぁ、ファンタジーな異世界連中に毒ガスって効果あると思うか?」
「何だよ?藪から棒に?」
唐突な質問で返されると、塚原 将は呆れ半分、困惑半分で問い返して来た。
そんな塚原 将に対し、正樹は質問を続ける。
「いやな、ネット小説を書くとしてよ?魔法のある世界で毒ガスって何処まで効果発揮するのかなぁ……って、疑問を感じてな」
「そんなんで悩むなよ。そんなん、作者の胸先1つで殺れば良いんじゃねぇの?」
返って来た答えに今度は正樹が呆れてしまう。
「それ言ったら身も蓋も無い」
「物語を書くのはそんなもんでしょ?因みに使う毒ガスは?」
呆れる正樹に悪びれる事無く返すと、塚原 将は正樹が作中で用いる毒ガスを尋ねた。
尋ねられた正樹は答える。
「ホスゲンか青酸ガス」
「防護服無くても使えるエゲツねぇ奴で草」
塚原 将はオタクでもあった。
幅広い分野を広く浅く識るが故に挙げられた2つの毒ガスに対し、少しばかりドン引きしてしまう。
そんな塚原 将に対し、正樹はさも当然の様に言う。
「ほら、サリンとかだと防護服無いと使った側が死ぬし……」
「死ななくても後遺症がヤバいわな」
「だろ?それでいて、ガスマスクさえ装備してれば大丈夫な殺傷力抜群で手軽な毒ガスって言うと、ホスゲンか青酸ガスになるだろ?」
正樹が2つの毒ガスを挙げた理由を聞くと、塚原 将は納得した。
「まぁ、文明が幼い世界でなら処置出来ねぇわな……とは言っても魔法って言う何でもアリの技術を使えば、治療出来そうだけどな」
だが、同時に魔法と言う超常の力を用いれば治療出来るのではないか?
そんな意見も述べた。
それに対して正樹は「そうだよなぁ……魔法だもんなぁ」と、ハミュツや涼子のデタラメ振りを思い出しながら納得すれば、更に言葉を続ける。
「そうなると、弾をブチ込む方が手っ取り早いか……」
「じゃねぇの?頭や心臓。下腹部とかの急所を撃ち抜けば助からないだろうし……蘇生魔法とやらがあるなら、兎も角」
面倒臭そうにしながらも、内心では創作の話が出来る事に愉しく思う塚原 将は肯定すれば、正樹は補足した。
「蘇生魔法は有るけど、無い感じだから……」
「なら、撃つ方が手っ取り早いわな」
「だな」
創作の話として、そう言う事にした正樹に塚原 将は冗談交じりに言う。
「いっその事、異世界でエクスペンダブルズでもやるってのはどうよ?」
塚原 将の冗談交じりの意見が受けたのだろう。
正樹は笑って返した。
「そりゃ良い。因みにどれだ?」
エクスペンダブルズの何作目か?
そう尋ねる正樹に塚原 将は「決まってる」と、前置きしてから答える。
「ヴァン・ダムが出てる2作目だよ。アレの冒頭は派手で俺好きだし……読者も派手な戦闘が好きだろ?」
「あー、テクニカル3台でダイナミック訪問なぁ……アレは俺も好き。一番は1作目のAA12無双だけどな」
「解る。アレ俺も好き」
互いに好きなアクション映画のシーンで話題に花を咲かせる。
そんな中、塚原 将は真剣な表情と共に正樹に問うた。
「話変わるけどさ……お前、香澄ちゃんと喧嘩しとるん?」
嘘は許さない。
そんな鋭い視線と共に問われれば、正樹は身に覚えが無い……と、答えた。
「何もしてねぇぞ」
「嘘つけ。ここ最近、香澄ちゃんと一緒に来とらんやろ?普段なら一緒に来てるのにさ?」
深く踏み込もうとする古くからの親友に正樹は言う。
「だとしても、俺とアイツの問題だ。お前が首を突っ込む話じゃねぇ……お前、アイツの事が好きなら告れよ」
そう言い放つ正樹に塚原 将は苛立ちと共に返した。
「ふざけんなボケ」
その時の塚原 将は声を荒げてはいなかった。
だが、声には明らかな怒りが込められていた。
それ故、正樹も真剣な表情と共に答える。
「ふざけてなんかいない。確かに、俺はアイツと付き合いはある。勿論、俺に好意が有るのも解ってる……」
「なら、応えてやれよ」
幼馴染として長い間ずっと2人の仲を見てきたからこそ、塚原 将は好意を受け入れろ。
そう告げる。
だが、正樹はソレを拒絶した。
「悪いが、俺はアイツの好意には応えられない。だから、拒絶した」
そんな拒絶の答えを出した正樹に塚原 将はハッキリと言う。
「このクソ野郎。去年、何があったのか?俺は知らねぇよ……お前、話さねぇもん。だけどな、哀しませて良い理由にはなんねぇよ」
「なら、お前が慰めてやれよ。お前、アイツの事が好きだろ?」
その答えを聞いた瞬間。
塚原 将は怒りと共に正樹の顔……左頬へグーパンをブチ込んだ。
周りは騒然とする。
だが、正樹はソレを喰らった上で周りに「気にしないでくれ。俺が誂った自業自得だから」そう告げて事を荒立てない様にした。
それから直ぐに塚原 将の方を向いて、強い殺気の籠もった冷たい視線と共に見据える。
正樹の双眸から浴びせられる背筋をゾッとさせる氷の如く冷たい殺意を浴びても、塚原 将は物怖じする事無く謝罪した。
「殴ったのは悪かった」
「気にしなくて良い。殴られて当然なのは俺の方だ」
ついさっきまでの殺意が嘘の様に消え失せさせた正樹は謝罪を受け入れると、更に言葉を続けた。
「俺はアイツの好意には応えられねぇよ」
「なら、納得の行く理由を言えよ……ソレを聴くまで、俺は行かねぇぞ」
理由を言え。
そう告げられた正樹は正直に答えた。
「俺には好きな人が居るんだ」
復讐の炎に己が身を焼く今でも、正樹の中には未だに今は亡き愛する妻が居た。
今も妻も愛するからこそ、正樹は香澄の好意を受け入れられなかった。
勿論、自分の復讐に巻き込みたくない。
そんな想いも強く存在する。
しかし、それは2人の幼馴染には関係の無い話だ。
だからこそ、其処は言わずに他に好きな人が居る。
そう答えた。
そんな正樹の答えに塚原 将は一応は納得してくれた。
だが、それでも言いたい事はあった。
「お前に他に好きな人が居るのは解った。でもな、去年から"素行"が悪くなった理由と関係有るんなら、別れちまえ」
ある意味で正論だ。
だが、正樹は拒否した。
「俺の人生だ。俺の好きにさせろ」
「カッコつけやがって……勝手にしろ」
塚原 将はそう吐き捨てると、自分の席に戻った。
そんな古くからの親友に正樹はポツリと言う。
「御免な」
か細い声で謝った正樹は思考を切り替えると、痛む頬を他所に作戦の準備の為に思考を巡らせていく。
それは午後の授業が始まる予鈴が鳴り響くまで続いた。
その後。
午後の授業が始まれば、正樹は大人しく静かに授業を受けるのであった。
学校での1日が終わり、放課後を迎えた。
帰宅部の正樹は自宅に帰ると、制服から半袖のシャツとジーンズに着替えた。
それから直ぐに家を後にして、出掛けた。
歩みを進める正樹の後ろ。
数メートルほど離れた所には、2人の幼馴染の姿があった。
「アイツ帰った後、何してんの?」
幼馴染であり、正樹に好意を持つ香澄が言うと塚原は言う。
「それを調べる為に後をつけるんでしょ?」
切っ掛けは最近の正樹が不審な事。
それと、正樹が答えた好きな人が誰なのか?
その2つに尽きた。
2人の幼馴染は自分達の知らぬ幼馴染の秘密を探る為、探偵の真似事をする様に正樹を尾行をする事にしたのであった。
だが、2人は気付いて居なかった。
尾行する対象である正樹がプロである事を。
そして、正樹は尾行されている事を既に気付いて居る事を2人は未だ知らない。
全く……暇なのか?
だとしても悪趣味に程がある。
溜息を漏らすと、2人の下手な尾行をする素人。
もとい、幼馴染に辟易としていた。
そんな正樹は歩みを進めながら考える。
撒くのは簡単。
だけど、撒いたら撒いたで面倒臭い事にもなる。
さて、どうする?
本来ならば、"犬小屋"に赴いて作戦立案の続きをしたかった。
しかし、招かざる2人の客が居る為にソレは辞めざる得なかった。
それ故、正樹はスマートフォンを手にすると歩みを進めながら画面をタップしていく。
取り敢えず、魔女2人には今日の"犬小屋"での会合は中止って送ったから、アイツ等にバレる心配は無くなった。
後は俺が犬小屋に近付かなければ良いだけの話だな……
スマートフォンで涼子に今日の作戦会議は中止と通達した正樹は、空いた時間をどう使うか?
思案していく。
どうすっかな……
本来の予定が崩れちまったから、する事が無い。
あっても、余計なのがくっついてるから行くに行けない。
「ハァ……面倒臭い事になっちまったもんだ」
正樹はウンザリとした様子でボヤくと、心の中で己自身に自嘲してしまう。
本当なら、俺は此処に居るべきじゃないんだ。
何せ、既に死んでる人間なんだ。
死人は死人らしく、墓の中に入っとくべ……
「あ、俺の場合は死体が跡形も無く消し飛んでんだから墓に入りようが無いか……」
最後の時。
死する間際、勝てぬまでも道連れを狙って核爆弾で"バンザイニューク"を断行した。
それ故、死体は文字通り跡形も残らなかった。
その時の事を思い出し、自虐と自嘲を込めて笑った正樹は2人を他所に歩みを進めていく。
数分後。
正樹は通学にも利用している最寄りの駅に着いた。
切符を券売機で買い、改札をくぐった正樹は東京方面に向かうホームへと上がる階段を登って行く。
そうしてホームに着けば、正樹は東京都内へ向かう電車を待った。
何処まで着いてくるつもり何だかね?
まぁ、後で偶々気付いた振りでもしてやるか……
2人の招かざる客を然りげ無く一瞥して位置を確認すると、電車はやって来た。
正樹が電車に乗ると、2人の幼馴染も離れた車両に乗った。
それから直ぐに電車が走り出す。
座席に座っていた正樹はスマートフォンにイヤホンを繋ぐと、音楽をランダム再生した。
イヤホンから流れて来たのは、昔……1985年にリリースされたOVA内でオープニングや作中で流れた『How Far To Paradise 』である。
そんな自分が産まれるよりずっと前の古い曲を聴きながら、正樹は独り静かに電車に揺られるのであった。




