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現代に帰還した"元"邪悪な魔女は平穏に暮らしたいけど、駄目そうなので周到に準備して立ち回りながら無双します  作者: 忘八


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一部除き、全ては魔女の掌の上で踊る


 試射を切り上げて終えた後。

 "犬小屋"に戻った2人は、戦闘服を脱いでシャワーを浴びた。

 全身に染み付いた硝煙の臭いを洗い流して落としてから、来る時に着ていた服に着替えた。

 勿論、硝煙の臭いが染み付いた戦闘服はシャワーを浴びる前に洗濯機に放り込んで洗濯も現在進行系でしている。

 洗濯機が静かに戦闘服を洗うのを他所に涼子と正樹はダイニングテーブルに据えられた椅子に座り、今後の事について話を進めていた。


 「先ず、私達の仕事だけど……正直な所、戦闘する以前から既に決着はついてるのよね。私達の勝利で」


 涼子から放たれた唐突な内容の言葉に正樹は一瞬だけ首を傾げる。

 だが、直ぐに察すると共に理解した。


 「あぁ……例のソロモン王の魔石か」


 正樹の言葉を涼子は肯定すると、補足の為に説明する。


 「そう。ソレが私の手に未だ有る時点で、既に戦いには勝利してる……ただ、裏切り者が誰なのか?解らなかった。だから、裏切り者の名を知る奴等から裏切り者の名を引っ張り出す必要があった」


 「つまり、最初から全て君の掌の上で敵はマヌケな踊りをしていたって訳だ」


 「それでも私の両親に危険が及んでいた事に変わり無いし、私が殺った事を知る奴の名前も解らなかったから実際の所は危ない賭けでもあるんだけどね」


 相手は裏社会に生きる碌でもないケダモノ(犯罪者)達。

 家族に手を出して来る可能性は濃厚であった。

 実際、連中は聖域たる自宅に仕掛けて来た。

 だが、その御蔭で逆に敵達の正体を割り出す事に成功。

 更には、家族を殺されそうになった……そんな大義名分と共に、連中に対して強烈な報復も出来た。

 その上、予定よりも早く裏切り者も解った。

 そんな脚本を家で仕掛けられた時点で書き上げて居た涼子は、予定よりも早く作戦が終わる事にほくそ笑みながら言葉を続ける。


 「でも、賭けは私の勝ちに終わった。後は裏切り者を今回の依頼人に引き渡せば、仕事は"ほぼ"終わり」


 そう言うや、涼子は何処からともなく赤いダイヤモンド……今回の面倒の元凶たるソロモン王の魔石を掌から出すと、この場には居らぬ2人に向けて告げる。


 「旧き盟約に従い来たれ、悪魔の王。旧き盟約に盟約に従い来たれ、(ハエ)の王」


 その言葉が放たれた瞬間。

 リビングに2柱の偉大なる悪魔が人の姿をして現れた。

 ルシファーとベルゼバブだ。

 2人は困惑するが、直ぐに察して涼子の持つソロモン王の魔石を忌々しく見詰めて来る。

 だが、涼子は涼しい顔でルシファーに向けて告げる。


 「御依頼通り、裏切り者を引き渡すわ」


 その言葉でルシファーは直ぐに無礼な呼び出しを許し、感謝の言葉を述べた。


 「やはり、彼女が裏切り者であったか……」


 若い金髪の美丈夫の白人に扮するルシファーは進退窮まる表情を浮かべるベルゼバブの傍らに立つと、涼子はソロモン王の魔石を再び利用する。


 「ベルゼバブよ、動くな」


 その命令が実行されると、ベルゼバブは固まったかの様にピクリとも動けなくなった。

 そんなベルゼバブへ向け、涼子は更に命じる。


 「ベルゼバブよ、真実を余す事無く王に語れ」


 ソロモン王の力によって、ベルゼバブは真実を語り始めた。

 要約するならば……


 ルシファーを倒し、自分が地獄の王に返り咲こうとした。

 その為にソロモン王の魔石を探し求めていた。

 例の日本人……九十九 來治郎はベルゼバブと手を組む見返りに世界を滅ぼそうとしている。


 以上が永年仕えていた王たるルシファーを裏切った理由であり、九十九 來治郎の目的であった。

 それだけ聴けば充分と言わんばかりに涼子はルシファーに問う。


 「どうする?地獄に連れて帰る?それとも、自害させた方が良いかしら?」


 その問いに対し、ルシファーはハッキリと答えた。


 「私の手で殺したいのは山々だが、それはそれで私自らの手で殺されたという栄誉を与える事になる。ならば、人間に殺されたと言う不名誉な最後が彼女には相応しい」


 理由と共に殺す事を依頼されれば、涼子は命じる。


 「心の臓を抉り出し、自害せよベルゼバブ」


 その一言と共にベルゼバブは己自身の手で自らの心臓を抉り出し、息絶えた。

 人間に自害させられた。

 そんな無様極まりない不名誉な死を迎えたベルゼバブの屍は光の粒子となり、この世界から跡形も無く完全に消失した。

 仕事の1つが完結させた涼子はルシファーに尋ねる。


 「コレで私の仕事は終わりかしら?」


 「いや、残念ながら私にとって大事な事が残っている」


 その言葉に涼子が首を傾げると、ルシファーは語る。


 「君の友人が頭を悩ませる連中の商品である新種の麻薬……それの材料には我が同胞達の血が利用されている。囚われの同胞達を全て、故郷たる地獄へ帰したいのだよ」


 ルシファーの頼みに涼子は淡々と承諾した。


 「そう。だったら、話は単純ね……悪魔の王を除く全ての悪魔達よ、余さず地獄へと帰れ」


 その命令と共に人間達の世界に居る悪魔は全て、地獄へ強制的に帰還した。

 勿論、囚われの悪魔達も含めてだ。

 ルシファーの願いを叶えた涼子は事も無げに問う。


 「コレで良いかしら?」


 「王として全ての悪魔を代表し、君に感謝する」


 ルシファーはそう言うと、深々と頭を下げて強い感謝の意を示した。

 そんなルシファーに涼子は顔を上げる様に言うと、涼子はルシファーの目の前でソロモン王の魔石を掌の上で焼いていく。

 程無くして掌に一握の灰が残ると、涼子は愉快そうに言う。


 「ソロモン王ゆかりの宝石としてオークションに出したら、数十億円は硬いだろうレッドダイヤモンドを燃やして灰にするのって凄い贅沢よね」


 愉快そうに贅沢な気分に浸る涼子に対し、今まで沈黙していた正樹はボヤいてしまう。


 「勿体ねぇな……歴史的価値が計り知れない赤いダイヤモンドを灰にしちまうなんてよ」


 「こんなもんはね、人の手に余り過ぎるし、この世に無い方が世の為、人の為ってもんよ。それに、コレを利用して世界を滅ぼそうとか考えてる頭お花畑のカスの手に渡るよりはマシでしょ?」


 「それもそうだな」


 莫大な価値と圧倒的な力を誇る赤いダイヤモンドを躊躇いなく燃やした涼子の言葉に正樹は納得。

 同時に目の前で強烈な頭痛と胃痛。

 それにストレスの原因が目の前で文字通り、灰と化した事にルシファーは改めて感謝の言葉を述べた。


 「君には感謝してもしきれない。もし、困った事が起きた時に私に出来る事があるならば、何でも言ってくれたまえ……君に限っては莫大な対価を前払いして貰ったと言う事で、無償で君の頼みを請け負う事を私の名に於いて確約する事を誓おう」


 悪魔の王が己の味方となる事に対し、涼子は「寛大な褒美、痛み入ります」と、礼儀正しく感謝の意を示した。

 そんな涼子にルシファーは提案する。


 「早速だが、君達と言うよりは(涼子)の頭痛の種を私の方で取り除いても良いかな?」


 ルシファーの言葉は涼子達に代わり、ルシファーの手で標的を始末する……と、言う助力であった。

 そんな提案に対し、涼子は感謝すると共に依頼する。


 「ではお願いします。それと、ブツに関しましては……」


 「それに関しては(ミカエル)が回収してくれるそうだ」


 「ご厚意に感謝いたします。では、またいずれ……」


 別れの言葉と共にルシファーは姿を消した。

 地獄へ帰ったのだ。

 そんな様子を傍らで眺めていた正樹は煙草に火を点すと、紫煙と共に尋ねる。


 「仕事はコレで終わりか?つーか、さっきの真剣な頼みは何だったんだよ?なぁ?」


 不快そうに煙草を燻らせながら尋ねる正樹に対し、涼子は涼しい顔で答えた。


 「仕事の9割は終わりよ。さっきの事に関しては私の本心だし、マジだったわ。でも、今のコレに関しては計算外なのよね……」


 「計算外って何だよ?」


 「ルシファーが私達の代わりに連中を始末するって言ってきた事よ……まさか、其処まで気に入られるとは思わなかったわ」


 ルシファーから残りの標的を始末すると言う好意からの提案は、涼子にとっても計算外の出来事であった。

 断る事も出来た。

 しかし、相手は悪魔の王。

 機嫌を損ねて面倒を起こすより、王の善意に甘える方が丸く収まる。

 それ故、涼子は敢えてルシファーの好意に甘える事を選んだのであった。

 そんな涼子の説明に正樹は納得すると、残る疑問に関して尋ねる。


 「で?残った仕事の1割って何だよ?」


 「例の來治郎とか言う頭お花畑野郎よ……」


 「あぁ……悪魔に任せても良いんじゃないのか?」


 正樹の言葉に涼子は首を横に振ると、理由を答えた。


 「それで殺せてるんなら、とっくに殺ってるでしょ?それに、自分の目的を木っ端微塵に粉砕されて台無しにされた頭お花畑野郎って、無駄と理解してても台無しにした張本人に逆恨みの復讐を仕掛けて来るわ」


 「なる程な。て、事は決着は君が着ける訳か?」


 その問いに涼子は肯定した。


 「えぇ、事は私に始まった。なら、私が終止符を打つのが筋ってもんでしょ?」


 そう答えた矢先。

 2人の仕事用のスマートフォンが電子音を響かせた。

 スマートフォンを手に取り、画面を確認すると其処にはビジネスマンからのメッセージがあった。


 『例の標的を監視していたら、護衛達ごと首が転がり落ちて死んだ。君等の仕業か?』


 メッセージの文面に涼子は不快を露わにボヤく。


 「得体の知れない事が起きたら私がやったってなるのは不愉快ね」


 不快そうにボヤく涼子に正樹は呆れ混じりに言う。


 「ワケワカメ過ぎる無情な死は君の専売特許だから無理だろ?」


 「誰かのせいにしたいのに、私の顔しか浮かばないのが余計にムカつく」


 そう宣う涼子に正樹は尋ねる。


 「自業自得だからしゃーねーやろ?で?不審死は例のルシファーの仕業なんか?」


 その問いに対し、涼子は問い返す様に肯定する。


 「監視してる最中にホテルの部屋で何の前触れもなく首が床に転がり落ちる……そんな殺し方、普通の人間には無理な芸当じゃない?」


 涼子の言葉に正樹は納得するしかなかった。


 「それもそうだな……それにしても仕事早過ぎるだろ?」


 納得と共についさっきの遣り取りの後、直ぐに殺害が実行された事に驚く正樹に涼子は他人事の様に言う。


 「ソロモン王の秘宝とも言える悪魔達の生殺与奪を奪い去る魔石って、悪夢そのものと言える危険物が消え失せてくれた。て、事は搾取され続けて来た悪魔側にすれば、復讐の時とも言えるボーナスタイムが開幕したも同然じゃない?」


 「人間に限らず、知性ある者は復讐が大好きなんだから当然よね」と、嬉々として締め括った涼子の言葉に正樹は納得した。


 「今までのツケを支払わせる時ほど心躍る事は無いもんな……自業自得って奴か」


 「そう言う事。じゃ、私は帰って良いかしら?今夜辺りにお客さん来るだろうから、歓迎の準備したいのよね」


 「なら、洗濯物は俺が干しとくわ」


 「ありがとね」


 感謝の言葉と共に涼子は家路に就こうとした。

 そんな涼子の背を見送る正樹は「良い狩りを」と、別れの言葉を告げた。

 そうして独り残された正樹は、洗濯機が止まるのを静かに煙草を燻らせて待つのであった。




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