復讐者は甘い
涼子の撃つM4A1はハンドガードとストックが本来の物から交換されているばかりか、光学照準器とレーザーユニットにフラッシュライト。
更にフォアグリップとサプレッサーが取り付けられ、ゴテゴテにカスタマイズされていた。
そんなM4A1は"スッピン"の状態と比べると、5キログラム近い重さがあった。
だが、そんな重くなったM4A1を涼子は難無く扱い、マンターゲットに幾つもの孔を的確に穿っていく。
涼子が立射で300メートル先に据えられた複数のマンターゲットの胴体へ2発ずつ、セミオートで的確に素早く撃ち込んでいく様子を傍らで眺める正樹は見立てを述べた。
「カラシニコフっての撃たせて貰った時にも見たけど、やっぱり基礎的なのは既に出来上がってる。素人みてぇにフルオートでバカスカ撃たない時点で慣れてるとは思ってたけどよ」
過去に様々な地域で少年兵を含めた民兵や犯罪組織等を相手に訓練教官として指導を務めた事のある正樹から見ても、涼子は良い腕を持った部類であった。
「反動のコントロールもシッカリ出来てるし、構えもキチンと安定させ続けられている」
「カラシニコフの反動と比べると無いに近いもん」
構えを解いてM4A1の銃口を下ろすと共にセレクターをセイフティに合わせた涼子が、自慢気に返すと正樹は「其処が解らねぇんだよ」と、ボヤくように言う。
それから、歴史好きの1人として問うた。
「あの世界に何で、地球の銃があるんだよ?」
歴史上に於いて、最大の謎に首を傾げる正樹に涼子は当事者として答える。
「当時……そうね、確か……450年ぐらい前だったかしら?その時に2000年代の内戦してるアフリカの何処かで戦ってた傭兵……ほら、京都で私の事を知ってる風の年配の男が居たでしょ?あの人、チェンさんって言うんだけどさ、あの世界でブッ倒れてて死にかけてたのよね」
内戦をしていたアフリカ某所で活動していた傭兵……チェンの事を言うと、正樹は顎に手をやって思考を巡らせながら呟く。
「2000年代のアフリカで内戦……駄目だ。何処もかしこも内戦してて、心当たりがあり過ぎる」
歴史好きであるが故に、当時の、地域によっては未だに終わる事の無いアフリカ各地の紛争が思い当たりが多過ぎた。
その為、正樹は何処の内戦だよ?と言った様子であった。
そんな正樹に涼子は言う。
「どっかの小国としか言ってなかったわ。でも、幾つかの小粒のダイヤと、ピンクのダイヤの原石を持ってたわ」
当時のチェンが、ダイヤモンドの原石を幾つか持っていた。
そう聞かされると、正樹は当時の内戦に幾つか当たりを付けた。
「ダイヤが採れる所ってなると……アンゴラかシエラレオネ、コンゴ辺りか?で、君はあの傭兵に何したんだ?」
正樹から問われると、涼子は懐かしそうに答える。
「暇潰しと勉強、実践を兼ねて彼を犯していたマラリアを治療した。それから、彼から銃の撃ち方や戦い方に幾つかの言葉を教わったわ……幸いにもチェンさん、アメリカの海兵隊に居たみたいでさ、日本にも駐在してた事があった様だから日本語が通じたのよね」
涼子の答えを聞くと、幾つかの疑問が解けてスッキリした正樹は言う。
「なる程な。君はあの傭兵の命の恩人で、450年分の積み上げた下地がある訳だ。そりゃ、動きも良くて当然だわな」
「とは言っても貴方と比べたら、私なんて大した事は無いんじゃない?」
謙遜と共に慎ましく返す涼子に正樹は呆れてしまう。
「君が大した事無いなら、世の人間は全て無能だ」
「あ、作戦の話しても良い?」
唐突に今進めている作戦の事を問われると、正樹はアッサリと承諾した。
「寧ろ、してくれ。3人のアホから何を得たんだ?」
その問いに涼子は「ビジネスマンには既に通知したんだけど……」と、そう前置きしてから告げる。
「先ず、連中……老人派は取引先に向け、日本国内に大量の商品を密輸しようとしてる。それに関してはビジネスマンの方で処理するそうよ」
「商品?麻薬か?」
正樹の問いに涼子は肯定した。
「えぇ、そうよ。連中は東南アジアのゴールデン・トライアングルで特製のクリスタルメス……俗に言う覚醒剤を製造し、世界中の需要に応えてる」
「ゴールデン・トライアングル?あぁ、当時のヘロインの大産地か……今は覚醒剤を作ってるのか?ヘロインじゃなくて?」
世界史好きとして、ゴールデン・トライアングル……黄金の三角地帯の事を少しだけ知る正樹がヘロインではなく、覚醒剤を作ってるのか?
そう尋ねれば、涼子は肯定する。
「ヘロインも作ってるわよ。需要は尽きないから……でも、メインは特製の覚醒剤みたいね。ほら、アップ系って世界中で人気だし、覚醒剤に関しては場所と機材に材料さえ揃えば作れちゃうしさ?」
「タイでは当時の国王……ラーマ9世の根気強く長い時間掛けて代替政策して、芥子農家達の作物を通常の農作物にシフトする事に出来たのにな……皮肉な話だ」
「オマケに覚醒剤は元を辿れば、私達の平和な祖国たる日本が過去に産み出したたものだしねぇ……因果は巡るわね」
ミリタリー趣味者として、皮肉交じりに言う涼子に正樹はゲンナリしながらも、結論を尋ねる。
「で?碌でもない麻薬の話と俺達がどう絡むんだ?」
「これから日本に送られる連中のブツは第2便でね、既に連中は日本に自分達のスペシャルメイドの覚醒剤を運び込んでるのよ」
涼子から語られた内容から察した正樹は確認の為、尋ねた。
「まさか、俺達にそのブツを始末しろって言うのか?」
「そう。連中のブツは連中の息が掛かった外資系の一流ホテルに保管されてる。で、ビジネスマンは私達にそのブツを確保。または処理を要求して来た」
涼子を介してビジネスマンからの依頼を聞けば、正樹は益々ゲンナリしながらボヤいてしまう。
「俺達の本来の雇い主はオッサンで、日本の神様連中だろ?それなのに裏社会のクズの抗争に巻き込まれるとか冗談じゃねぇわ……クズ同士勝手に殺し合わせろよ」
御尤もな事を言い、やりたくないと告げる正樹に対して涼子は利点を告げる。
「でも、メリットが無い訳じゃない。私達は連中に大きな痛手を負わせられるし、ホテルにはトップも居る。ソイツも殺れば私達はさらなる打撃を与えられるし、運が良ければ面倒が全て片付く」
「トップ?どう言う事だ?」
涼子からトップが居る。
そう聞くと、正樹は興味を露わにしながら訝しんだ。
もう一押しすれば、正樹は首を縦に振る……かもれしない。
そんな一縷の望みを掛け、涼子は告げる。
「奴等は昨日の夜の便で来日したわ。で、出資してる一流ホテルの最上階にあるロイヤルスイートをワンフロア貸し切って宿泊してる」
「つまり、此処で一気に頭を獲れば、ゲームセットになる……そう言いたいのか?」
正樹の問いに対し、涼子は肯定した。
「運が良ければね」
「なるほどな……だが、トップを殺られた組織の残された連中が報復に来る可能性は否めない。てか、絶対に報復して来る」
「でも、殺らない後悔よりは殺ってから後悔する方がマシじゃない?」
利点を告げても、正樹は首を縦に振ろうとしなかった。
そんな正樹に涼子は告げる。
「チャイマの現トップであり、私が殺ったジジイの孫を殺ってくれたら、私と貴方に5000万ずつ払うってさ」
最後から"一歩手前"の一押しとして、涼子はヤマを踏んだ時のビジネスマンから提示された報酬を告げた。
だが、それでも正樹は首を縦に振る事は無かった。
「そんなカネ貰ってもな……それにリスキー過ぎる。コレが罠じゃない可能性は?」
正論と共に首を縦に振らぬ理由を告げれば、涼子は最後の一押しをする。
「やってくれるなら、私の取り分の半分を貴方に献上するわ」
正樹は涼子をジッと見詰める。
涼子は本気であった。
それもその筈。
敵には既に自分の正体が割れてる。
その上、敵は涼子の生命と、涼子が持つソロモン王の魔石を狙っている。
火急的速やかに決着を付けなければ、涼子が最も大事とする両親に危機が及ぶ。
だからこそ、涼子はリスクを承知でこのヤマを踏みたがっていた。
そんな涼子の真意を察する正樹は大きな溜息を漏らすと、辟易としながら首を縦に振る。
「しゃーねーな……良いぞ。危ないヤマを踏んでやる」
「ありがとう」
感謝を述べた涼子に正樹はぶっきらぼうに返した。
「礼は要らねぇよ。俺が君と同じ立場になってたら、同じ事を言うだろうし、リスク承知でヤマを踏む事を選んでるだろうからよ……後、お前の取り分は要らねぇよ。札束の山があっても、保管する場所が無いし、使い道も無い」
50の札束を貰っても、銀行に預ける訳にも行かぬ。
そんな状況で更に札束が25個も増えるのは流石の正樹でも面倒臭かった。
主に税務署や国税と言った税金問題が……
だが、実際の所は相棒の為に生命を賭けるのも悪くない。
ソレが本音であった。
それでも、涼子は改めて正樹に感謝した。
「ありがとう」
「だから礼は要らねぇ。だが、煙草とかの件は忘れるなよ」
抜け目無く、ソレ以前の約束で得る報酬をせびるのを忘れない辺り、正樹はチャッカリ者であった。
そして、同時に……
「後、"この間"みたいなぶっつけ本番は無しだ。あんなの繰り返してたら生命が幾つあっても足りねぇ……だから、キチンと情報収集をした上で作戦を組み立てて成功させるぞ。こんなクソ仕事は懲り懲りだし、俺の目的を進めたい」
プロとして、キチンと下準備をした上で作戦を遂行したい。
それと、目的たる怨敵への復讐へ駒を進めたい。
そんな断固たる意志を示した。
「解ってるわ。上手く行けば、貴方の目的に移行出来る様になる筈よ」
涼子が快諾すると、正樹は煙草を咥えて火を点す。
それから、紫煙と共にボヤいた。
「そうなる事を切に願うぜ」
気怠げに煙草を燻らせる正樹はある事を思い出した。
「そういや、"先ず"って言ったな?他にも知っとくべき情報があるのか?」
涼子が最初に口にした"先ず"と言う一言目。
それを思い出した正樹から他にも知っておくべき情報があるのか?
問われた涼子は肯定する。
「えぇ、私達が学校に居る間に判明した情報よ」
そう前置きした涼子は正樹に判明した情報を告げる。
「例の裏切り者はベルゼバブで確定したって、タケさんからメールで画像込みで送られた。だけど、問題は別にあるわ」
「何だよ?」
「ベルゼバブは日本である人物と会ってた。コイツよ……」
涼子からスマートフォンを見せられた正樹は画面を静かに見詰めると、涼子に問う。
「誰だ?このデカい野郎は?」
「ビジネスマン曰く、殺した方が世の中の為になるって言うクソ野郎。名前は九十九 來治郎……日本人でありながら多数の犯罪に関与しながら、証拠を一切残さない悪人だそうよ」
涼子から見せられた画像には人間の女に偽装するベルゼバブと、その脇に並んで立つ2メートル近くの背とプロレスラーの様なゴツい体格の眼鏡をした男が映っていた。
そんな男の情報を涼子から聞かされた正樹は男の顔をジッと見詰めて記憶すると、思った事をそのまま口にした。
「嫌な目をしてる。こう言う目は見た事がある……世界の人々全てだけでなく、世界そのものすら憎んでる奴の目だ」
多数の様々な悪人を長年見てきた正樹の紫煙混じりの言葉に涼子は尋ねる。
「どう言うタイプなの?」
「そうだな……神や悪魔の存在を信じた上で、退屈な人生を押し付けた神を許せるかどうか?ソレを悩んでるタイプだ。だが、同時に、この先も虫けら共と一緒にこんな退屈な人生を歩まされるなら寛大な気持ちにはとてもなれない……そう言う事を本心から迷いなく言うオツムがお花畑な、おかしいタイプさ」
長々と語ると共にボロクソに言った正樹に涼子は他人事の様に納得する。
「そりゃ、ビジネスマンも見つけ次第殺せって言うわね」
「気を付けろよ?この手のタイプは目的が果たせないと解ったら、目的が果たせなくなった理由を是が非にでも殺しに来るし、ソイツの大事なモノも奪いに来る。その上、何やらかすか?解ったもんじゃねぇぞ」
正樹の経験からの警告に涼子はアッケラカンに返した。
「なら、その前に殺せば良いだけの話ね。私ってほら、殺られる前に殺るのは得意中の得意だからさ?」
そう答えた涼子は邪悪な笑みを浮かべていた。
突然過ぎるだろうけど、
こうした後方支援のバックアップ体制がシッカリ強固に整ってると、こんな感じに上手く展開が進んでくれたりする
後は相手の息の根が止まるまで徹底的に殴り続ければ一応は終わりになる……筈である
なのでツマラン展開になると思うよ
作者が言ってはならん事だろうけどさ…
感想とかブクマとか評価にレビューとか貰えると嬉しいなぁ




