射将先馬
お久しぶり
何か、一昨日からメッチャ読まれてて困惑してる
読んでくれてありがとう御座います
射将先馬
将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。
どちらも同じ、中国の故事を元にした諺だ。
諺としての意味は『大きな目的を達成する為には、その対象に直接取り組むより、周辺のものから段階的に進めていくのが良い』である。
だが、現実に於いては将が乗る馬を仕留めた時に将が落馬で死ぬ事が間々ある。
ソレはエレオノーレの攻撃でも同様であった。
「ハァ……ワイバーンを落としただけで終わるとはつまらん終わり方だ」
目の前の月明かりに照らされる地面。
其処に残る錆と糞便の臭いを強烈に醸し出す6つの真っ赤な染みを眺めながら、エレオノーレは失望が多く混じる大きな溜息を漏らしてしまう。
6つの赤い染みは一言で言うなら、召喚された勇者達だった物。
彼か彼女等は3頭のワイバーンに分乗し、空を飛んで敵であるラインメタルの野営地へ強襲を掛けようとしていた。
だが、エレオノーレが放った3発の魔弾が3頭のワイバーンを文字通り粉砕。
ワイバーンを木っ端微塵にされた6人の彼と彼女等は高度2000メートル以上から落下し、地面に真っ逆さま。
重力に逆らえず、無情にも地面と強烈なキス。
そして、地面に残る染みと化した。
そんな地面の染みを眺めるエレオノーレは地球で合法的に手に入れた赤い煙草の箱を取り出すと、中から紙巻き煙草を1本取って咥えた。
指から仄かな火を灯して煙草に火を点ければ、つまらなさそうに煙草を燻らさせて紫煙を吐き出してボヤく。
「この程度の連中が勇者か……立派なのは宿された魔力だけか」
煙草を燻らせるエレオノーレは自らの行動が起こした事とは言え、つまらないに結果に辟易としながらボヤキいてしまう。
「勇者と言うのだから高い空から叩き落としても生きていて欲しいものだ。と、言うよりは空を飛べないのか?」
「空も飛べる勇者は滅多に居ないんじゃない?普通の人間は二本の脚で地面に立って戦うのが基本なんだからさ?」
親しみ慣れた気配と共に呆れ混じりの声が後ろからすれば、エレオノーレは紫煙を吐き出しながら振り向いて問う。
「ネズミは?」
「選択を誤って死んだわ」
つまらなさそうな様子で素っ気無く返して来た涼子にエレオノーレは紫煙と共に言う。
「貴様にとっては残念な結果に終わった訳か?」
「えぇ、本当に残念だし、とても哀しいわ」
本心から残念な結果となって哀しいと答える涼子をエレオノーレは鼻で笑う。
「ふん……貴様が敵を殺して哀しいか。笑わせてくれる」
皮肉そうに言うエレオノーレの言葉を涼子は認めた。
「そうね。昔の私をよーく知ってるアンタにしたら、私の言葉なんて戯言にしか聞こえないわね」
「貴様が手を下して来た数は幾つだ?千か?万か?老若男女問わず、貴様は長年ずっと嬉々として死をバラ撒き、敵には一切の容赦無く縊り殺し続けて来た。そんな貴様を知る者ならば、誰でも戯言と切り捨てるだろうさ」
エレオノーレが吐き捨てる様に言えば、涼子は素直に認めた。
「えぇ、そうね。私を知る者なら、今の私の言葉を戯言とかふざけるな!って憤慨したり、下手したら憤死するでしょうね……」
「ほう。開き直りか?」
エレオノーレの嫌味が少しばかり交じった問いに対し、涼子はつまらなさそうに返す。
「開き直りで良いわよ。それより、このつまらない厄介事をさっさと終わらせにいかない?」
「それは構わんが、どう始末するつもりだ?」
涼子と共に歩みを進めるエレオノーレから問われれば、涼子はつまらなさそうに幾つかの案を述べていく。
「空から落っことして死ぬんなら、空高く飛ばしてそのまま落っことす。それか、アンタが一帯を焼き払う。または、私が淡々と爆撃する……どれにする?」
3つの案を述べ、どうやって虐殺するか?問う涼子にエレオノーレは興味無い。
そう言わんばかりに吐き捨てる様に返した。
「貴様が殺れ。元を辿れば、貴様が私に持ち込んだ面倒だろう?」
「やっぱり、ソレが筋よね」
エレオノーレの言葉に涼子は面倒臭そうに返すと、マナから念話による通信が来た。
『状況を教えて』
指揮官として状況を知りたい。
愛娘からの至極真っ当な問いに涼子は母親ではなく、雇われた部下の立場として答えると共に指示を乞う。
『勇者と思わしき敵を7名殺害。指示を乞う』
母親としてではなく、部下としての立場を弁えた部外者として指示を乞えば、マナは告げる。
『では、一旦此方に帰還して下さい』
『了解』
愛娘であるマナに戻れと言われれば、涼子は承諾。
その後、涼子はエレオノーレと共に野営地へ戻った。
15分後。
ラインメタルの軍。
もとい、辺境伯の本陣に戻った涼子とエレオノーレは辺境伯とマナの居る幕舎に戻ると、改めて報告する。
「敵勇者達は脅威だけど其処まで脅威じゃないわ。何せ、首を刺して死んだし、空から落っことしても死んだから」
涼子の報告にマナは「何したんですか?」と呆れ、祖国防衛の為に兵を率いる辺境伯たるグラモンは「そんな簡単に殺せるならば我々は苦労はしません」と、辟易してしまう。
そんな2人にエレオノーレは意見具申する。
「勇者を名乗る愚物達を始末すれば良いなら、私だけで片付けても良いが?」
簡潔明瞭に言うならば、さっさと皆殺しにして終わらせたい。
そう告げるエレオノーレにマナは答える。
「面倒は一気に片付ける方が良いのも事実です。グラモン卿、兵達は直ぐに動けますか?」
同時に、グラモン辺境伯に夜襲を仕掛けたい意思を告げれば、グラモン辺境伯は否定する。
「流石に兵達を休ませる必要があります。しかし、英気を養った暁には御満足戴ける戦果を御覧に入れる事を確約致します」
マナの部下と言う立場と兵を率いる将として、今直ぐにアルサレアの侵略者達を打ち倒すのは難しい。
だが、休息を取る事を赦してくれるならば、勝利を献上する。
そう確約するグラモン辺境伯にマナは告げる。
「解りました。では、グラモン卿が最も信頼を置く勇士を御借りする事を御許し願いたい」
上に立つ者でありながら、敢えて頭を垂れて許しを乞う言葉を告げれば、グラモン辺境伯はマナに問う。
「何をするか?それにもよります」
「件の勇者達を私が今夜中に始末致します。その為の証人を」
マナは宮廷魔導師になったばかりだ。
その為、王への貢献と共にキチンとした実績を挙げる必要が立場上あった。
そんなマナの願いにグラモン辺境伯は応じてくれた。
「解りました。貴女の護衛として私の騎士を付けましょう……グラス」
「ハッ!」
傍らで控えていた屈強な騎士がよく通る声で返事をすれば、グラモン辺境伯は命じる。
「すまないが、マナ殿の護衛を頼む。それと、マナ殿の活躍を見届けるのを忘れるな」
「畏まりました」
グラモン辺境伯の好意にマナは感謝した。
「感謝します。グラモン卿」
感謝を述べたマナは護衛名目の見届け役を伴い、幕舎を後にしようとする。
王に仕える宮廷魔導師として、敵を殺して王の庭を護る為に。
すると、涼子とエレオノーレもマナに伴った。
「御二人が来る理由は?」
マナが問えば、母親は答える。
「親しい人物の晴れ舞台を観に行かない理由が見当たらない」
嘘は言ってない。
だが、黒き魔女と言う己の娘である事実はオブラートに隠して告げれば、今度はエレオノーレが理由を告げる。
「気にするな。私は高みの見物をするだけだ。何なら、貴様の実績の証人になっても良い」
2人の最強の名を欲しいままにする魔女の理由を聞けば、マナは2人に感謝した。
「ありがとう御座います」
そうして、マナは騎士と2人の魔女を伴うと、馬を4頭借りて敵地へ駆け出すのであった。




