正気か?そう聞かれたら、毎回正気じゃないと答える復讐者
香澄とギスギスとした重苦しい時間を過ごし、放課後を迎えた。
正樹は一旦、帰宅してから池袋。
もとい、"犬小屋"に向かった。
そして、"犬小屋"でタケさんの手下をしてるビジネスマンとオンラインで会合をしていた。
『君の仲間による報復で八塚会と警察は現在、蜂の巣を蹴飛ばした様な状態となっている』
パソコンのモニターに書き込まれた文面に対し、正樹はマイクへ向けて返答する。
「アレで済んだ事に感謝した方が良い。俺だって、同じ立場になったら問答無用で報復する」
涼子を弁護する様に返せば、モニターに次の文面が映し出しされる。
『しかし、見方を変えれば私にとってビジネスチャンスともなる』
涼子によって齎されてしまった東日本の於ける裏社会の混乱。
それをビジネスに利用しようとする。
そんな言葉に対し、正樹は興味無さそうに返す。
「アンタのビジネスとやらに興味は無い。裏社会のクズ同士、好き勝手に殺し合っててくれ……俺達は標的さえ始末出来れば良い」
『まぁ、良い。では、仕事の話をしよう』
相手……ビジネスマンはそう前置きすると、仕事の話に移った。
『君の仲間から齎された例のキマイラと取引している相手が、八塚会と解ったのは大きな収穫と言っても良い』
「なら、教えてくれ。彼女が得た情報の中に八塚会に引き渡すブツがあるそうだが、そのブツは何だ?」
正樹の問いにビジネスマンは答える。
『新種のクスリだ』
「新種のクスリて事はヤクか?」
確認する様に問えば、ビジネスマンは肯定する。
『そうだ。ここ最近、裏社会で流通する商品に混じって新種が出回っている。そのお陰で私の商売にも良くない影響が出始めつつある』
「そりゃ御愁傷様。そう言うべきか?」
皮肉る正樹に対し、ビジネスマンは気にする事無く返答した。
『あの報復から逃げた2人の外国人はキマイラの手下で幹部クラスの人間だ』
涼子が敢えて見逃した2人の事が通知されると、正樹は更に問う。
「だろうな。因みにキマイラの手下達に派閥ってのはあるのか?」
正樹の問いは簡素な文面で肯定された。
『組織である以上、当然ながら存在する』
「具体的には?」
『先ずはキマイラ自体を崇拝する派閥。次にキマイラの副官兼組織に於ける資金調達を担っていたナンバー2である老人に仕える派閥……この2つだ』
具体的に2つの派閥がある事を告げられると、正樹は次の問いを尋ねる。
「逃げた2人はどっちだ?」
『キマイラ派だ』
「なるほど。つまり、キマイラ派の中心であろう逃げた2人の幹部は老人派の先手を打とうとして、失敗したわけだ」
『そう見るのが妥当だろう』
仮説が同意されると、正樹は次の質問に移った。
「現時点で2人を除く来日してる奴等は解るか?」
現時点で来日してる敵を掌握する為に問えば、ビジネスマンは答える。
『其処は未だ調査中だ』
解らない。
そう答えられても、正樹は驚かなった。
「だと思った」
そんな正樹にビジネスマンは告げる。
『連中はCIAと取引をしてる』
「CIAってアメリカのロクデナシの代名詞のCIAか?」
酷い言い草をする正樹に対し、ビジネスマンは肯定する。
『そう、ロクデナシの代名詞であるCIAだ。連中は麻薬や売春斡旋も含めた人身売買。それに多数の犯罪で得た大金の一部を納める代わりに、ビジネスの御目溢しと言う恩恵を獲ている』
涼子がこの場に居たら絶対に頭を抱える。
そんなヤクネタに満ちた情報を通知されても、正樹は平然としていた。
「犯罪組織と諜報機関が仲良しなんてよくある話だ」
『だが、厄介な事に代わりはない』
「その点は否定しない。実際問題として、背後に国家が控えてるのが解ったら、その時点で手を引いた方が良いくらいだ」
正論を述べる正樹にビジネスマンは承知した上で尋ねる。
『だが、君達は手を引く気は無いのだろう?』
「回れ右して帰られるんなら、手を引きたいがな……」
自分の経験上、国家が絡んでいると解った瞬間。
先述した様に手を引かなければ、大きな災いが齎される。
それを重々承知しているからこそ、正樹は正直に思ってる事を答えた。
そんな正樹へ、ビジネスマンは語る。
『最近に限らず、大概の諜報機関は経費削減等の憂き目にあってる関係で活動資金に乏しい状況だ。それ故、情報も含めて多額の献金をする連中を手離したがらないし、ある意味で財布になってる連中の為に手を貸す』
「だろうな。諜報機関が資金調達の為に麻薬ビジネスするなんて日常茶飯事だ」
嫌味を言う正樹にビジネスマンは更に告げる。
『連中も同盟国である日本国内では其処まで派手には動かないだろう。それに、この件が露見したら最悪のスキャンダルとなる』
「ノリエガ将軍の時みたいにか?」
歴史好きとしての面を見せる皮肉にビジネスマンは肯定する。
『下手をすればソレ以上だ』
「そうなると……運が良ければ、連中と殺り合う羽目にならないと見るべきか?」
正樹の問いに対し、ビジネスマンはモニターの向こうで難色を示しながらも肯定した。
『連中の立場や思惑。それに日本を対アジア戦略に於ける中露への防波堤兼橋頭堡してる観点を踏まえれば、連中は其処まで派手には動けない。何せ、日本への麻薬密輸を初めとした非合法活動がバレたら洒落にならない事態に陥る。常識的に考えれば……だ』
肯定とも取れる答えに正樹は念を押す様に確認する。
「政治や安全保障の観点からCIAは手出しはしない。そう考えても良いんだな?」
『だが、人が何をするか?解らない以上、完全に否定は出来ないがね』
「デスヨネー」
『一先ず、在日米軍基地も含めて日本国内の主要な空路と海路。それに鉄道の監視は此方でする』
交通の要となる箇所を全てカバーする。
そう通達されると、正樹は感謝した。
「ありがとう御座います。それだけでも助かります」
『気にしなくて良い。利害の一致から手を貸すだけだ』
素っ気無く返されると、正樹は攻撃するべき箇所を尋ねる。
「では、手始めに何処を始末するべきですか?」
『そうだな……八塚会にはキマイラの組織の息が掛かった組がある』
そう前置きされると、正樹は「具体的には?」と、尋ねる。
『詳しい事は残念ながら、此方でも具体的には未だ解ってない。だが、得体の知れない力を持ってる事は確かだ』
ビジネスマンの要領を得ない答えに正樹は首を傾げると、別の事を尋ねた。
「八塚会は蜂の巣を蹴飛ばした騒ぎになってるんなら、緊急会議を開きますよね?」
『今晩、彼等の息の掛かったホテルで行われる』
その答えを聴いた正樹は嗤って告げる。
「なら、先ずは其処を叩きます」
正樹の言葉にビジネスマンは正気を疑ってしまう。
『君は正気かね?』
関東最大の暴力団の幹部陣が集まるが故に、警戒も厳重となるホテルにカチコミを掛ける。
そう宣った正樹に対し、正気を疑いたくなるのは当然と言えた。
だが、正樹はアッケラカンに答える。
「こう言う時は斬首作戦で上を叩き潰して指揮系統を完全に粉砕する方が良いんですよね……どんなバケモノだろうと、首を落とせば死にます。それに、死なないにしても指揮系統が潰された事で組織は混乱と混沌に満ちてマトモな動きが出来なくなりますし」
『確かにその通りではあるが……君に出来るのかね?』
「出来ますよ。ただ、少しばかり貴方の助力を戴きたい」
少しだけ丁寧な口調で「手を貸せ」と言えば、ビジネスマンは答える。
『望みは何かね?』
その答えは手を貸す事を意味していた。
そんなビジネスマンに対し、正樹は笑顔と共に要求した。
「先ずはホテルの見取り図を非常時に用いられる発電機の位置も含めて下さい。次にホテル周辺の通信の遮断。コレは固定の電話線等も含めてお願いします。それから……」
正樹は厚かましく様々な要求をしていく。
そんな全ての要求をビジネスマンは全て呑んだ。
『良いだろう。全て呑もう』
「ありがとう御座います」
感謝する正樹へ、ビジネスマンは「しかし……」と前置きしてから告げる。
『逃走に関しては君達で何とかしたまえ。其処まで大掛かりな事をする以上、流石に君達を安全に逃走させる所までは私であっても手が回らない』
逃走は自分達で何とかしろ。
そう告げられると、正樹は承諾した。
「解りました。其処は此方で何とか手筈を整えます」
『一応、言っておくが。私は君達が逮捕されても救助は一切しないし、流石に事が事だけに私への飛び火は御免被る』
保身をアリアリと見せるビジネスマンを正樹が責める事は無かった。
「そこら辺は承知してます。貴方は私の幾つかの御願いをしてくれれば良い」
『では、良い狩りを』
その言葉と共にビジネスマンが消えれば、正樹は溜息を漏らす。
「ハァァ……取り敢えず、コレでヤクザ連中の足止めは出来る筈だ。後は……」
煙草を咥えて火を点し、紫煙を吐き出した正樹はスマートフォンを手に取って最も怒り狂って居る魔女へ電話した。
魔女……涼子は直ぐに出てくれた。
「何?」
少しばかり不機嫌な涼子に正樹は尋ねる。
「今晩、君に嘗めた真似をした連中の首を落としに行くんだが……どうする?」
その問いに涼子は答える。
「法皇は森で糞するわ」
「gtaのCJかよ」
涼子が狩りへ参加を表面すると、正樹は狩りに関する注意点を告げる。
「狩りは片道切符だ」
片道切符。
即ち、帰りは自分達で何とかしなければならない。
正樹からそう告げられると、涼子は問題ではない。
そう言わんばかりに、さも当然の如く返した。
「帰りは問題無いわ。私が何とかするから」
「流石は魔女様だ。じゃ、具体的なプラン詰めたいから来てくれ」
そう言って電話を切った正樹は煙草を燻らせ、輸血気味にボヤく。
「すぅぅ……ふぅぅ……やっべぇ、滅茶苦茶ワクワクしてる」
正樹は咥え煙草のまま邪悪な笑みを浮かべると、嬉々として両手に革手袋を嵌めて今晩の狩りの支度を始める。
煙草を燻らせながら銃器を保管してる部屋へ赴いた正樹は、大きなPELICAN製のケースを開けた。
PELICAN製のケースの中に収められていたのは、とびきりゴツくてデカい銃。
何なら、ジョン・ランボーのトレードマークと言っても良い機関銃であるM60。
それの最新の改良型であるM60E6とも呼ばれる強力な機関銃であった。
そんなM60E6を見詰める正樹は紫煙と共に嗤う。
「多数の敵をブッ殺すんなら、機関銃は外せない」
M60E6を手に取って右肩に担ぎ上げると、正樹は直ぐ脇に置かれた米軍仕様のアモ缶を1つ手に取って武器庫を後にした。
リビングの床にM60E6とアモ缶を置くと、正樹のスマートフォンが鳴り響く。
スマートフォンを手に取り、確認すると涼子からメッセージが送られていた。
メッセージに目を通すと、正樹は紫煙と共に呆れ気味にボヤく。
「すぅぅ……ふぅぅ……魔女が現代兵器を利用するのって、魔女的にアリなのか?」
涼子から送られたメッセージは、一言で言うならば「私の銃も用意しろ」コレに尽きた。
そんなメッセージに対し、正樹は涼子の要望を適える為。
煙草を燻らせながら武器庫へと赴く。
そして、涼子が要望した品……もう1丁のM60E6とアモ缶を用意すると、リビングへと運ぶのであった。




